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第18話 カカシ作戦

「なるほど、寡兵ならではの戦い方というわけね」


ルフレさんから、今回の軍事クーデターについて説明を受けたソフィアは、計画自体には納得したようだ。

しかし、私を事実上強制連行したやり口には、未だに怒り心頭と言った所だ。

無理に宥める事もしなかった、何故なら私だってこんなやり方はとてもじゃないが賛成出来ないからだ。

……だが、それ程の覚悟を持っているという事だけは、非常に良く伝わった。


「他の連中がどう思うかは分からないが、私は護る仕事には全力で応えよう。侵攻は、ルフレさん達だけで存分に行ってほしい」

「しかし、難民は少なく見積もっても、四桁の人数に達するわ。それだけの人数を受け容れてくれる街なんてあるかしら……」


そう、基本的に戦火を逃れてきた難民は、現地民からすれば厄介者だ。

少なくとも、両手を広げて『ようこそ!』とはならないだろう。

大なり小なり、文化や風習の違いから揉め事を起こすのが容易に想像出来る。


「今頃、オルビア村に残っている副官が準備を整えている事でしょう……難民をオルビア村まで護衛して頂きます」


ルフレさんは、筋書き通りと言った感じで何の躊躇いも無く言うのであった。

……私もソフィアも、元々は村の出身ではない。

カインさんもミミさんも、露天商として渡り歩いてたどり着いたのがオルビア村だ。

考えてみれば、我々は4人とも『よそ者』なのだ。


「……良いんじゃないかな、あの村は悪い事さえしなければ、比較的よそ者にも優しい所だ」

「そうですね、私達が店を開く時も、村人達は喜んで協力してくれましたから」


どうやら、ミミさんも同じ事を考えたのか、ルフレさんの筋書きに賛同したようだ。

カインさんやソフィアにも目を配るが、恐らく同じ考えだろう。


「問題は受け容れる方が良いとしても、戦火に巻き込まれるであろう村の住民が素直に従ってくれるかだな……」

「ミリアも同じ事を考えていたのね。基本的に村人は老人を中心に土着的な人が多いわ。生まれ育った地の土に還りたいと願う人も少なくないのよ」


戦火が間近に迫れば、いくら土着している人間でも……とは思うかもしれないが、ソフィアの言っている事は分かるつもりだ。

同じ地に何年どころか何十年もいれば、今更他の所にと考える人は少なからずいるだろう。

そういう人達の説得も、今回の仕事に含まれているのだろう。


「はい、それも想定していないわけではありません。ですが、私はたださえ屍を築いてでも戦いに勝たなければなりません。……言い方が悪いのですが、そこまで気を回せません」

「……だろうな、ルフレさん達はこれから戦争をしようとしてるんだ。勝つ事が絶対条件だ、どんな事になろうと勝利だけは譲れないんだ」


それこそ、村人達が捨てた村で市街地戦をする事ですら十分有り得る話だ。

……果たして、私にどこまで出来るだろうか。


「ニモランに近い村は、カオーリリア王国によって重い徴税に苦しんでいます。オルビア村は事実上の自治領と言えるので、現状では手が伸びていないので、そこを利用しては如何でしょうか」


確かにオルビア村の住民が国に税を払っているという話は聞いた事が無い。

往復するだけでも、半月くらいかかってしまうんだ……そんな田舎の少人数まではって所か。


「しかし、本気で雀の涙をも望むようになったら、オルビア村も例外ではありません。それどころか、国家総動員を王の名で出せば、根こそぎで徴兵されるかもしれません」


それは誇張しているわけでも焚き付けてるわけでもないだろう、ルフレさんの言っている事は最悪のシナリオだ。

あのオルビア村ですら見逃さない程の重税、徴兵……。

現に本気を出したルフレさんは、オルビア村まで私を求めて来たんだ。


「重い税が課せられたら、我々も商売どころではないな……。商人の私達にどこまでの事が出来るか分からないが、微力を尽くさせてほしい」

「そうですね、露天商をやっていた頃も税を要求する地域はありましたから、それの二の舞になるのは嫌ですね」


流石、商人は金の流れに敏感だな……。

税金の話を出してくる辺り、ルフレさんは話術にも優れているのかもしれない。

……この人は、何故軍人をしているのだろうか。

私が思うに、この人は政治家としての才能の方があるような気がする。

具体的に言えば、外交官とか……。


「だが、私達の最大の問題は、四桁に達するであろう難民をどうやってオルビア村まで護衛するかだな……」


私達は私達で問題が山積みだ……。

最低限の荷造りだけしてもらったとしても、足並みは遅く、戦えるのが私とソフィアだけではとても守りきれない。

野盗だって、こんな美味しいエサを見逃すはずがない。

……誰かが襲われたと報告を受けてから駆けつけても遅いんだ、襲われないようにする必要がある。

難民が襲われないようにするには、難民……難民……。


「……あ、この手は使えるかもしれないな」


ふと、私の頭に1つの作戦が思い浮かんだ。

これなら、野盗の目を欺けるかもしれないぞ……。


「何を思いついたのミリア?」

「ルフレさん、クヒラムに早馬を出してもらう事は可能ですか?」


ここまで来たら、出し惜しみなんて無しだ、使える物はなんでも使わせてもらうさ。


「はい、可能ですが、何を用意すれば良いのでしょうか?」

「……軍服を1000着ほど、それからどんな粗悪品でも構いませんので武器を同じだけ」


そう、難民の一行じゃなくて、進軍する軍隊だと連中に誤認させれば良いのだ。

流石に、兵士の群れに突撃するような賊はいないだろう。


「なるほど、それならならず者どもの目を騙す事が可能でしょうね。すぐに準備をさせて、ミリアさん達に合流させるように手配します」

「……それまでの間に、私達は村人達を説得しないといけないな」


道中の安全が保障出来るのならば、重い腰を上げてくれる可能性は高くなるはずだ。

確証までには至らないが、ここまで来たらハッタリを貫いてやるさ。


「考えたわね、ミリア。体格の良い男達が剣や槍を持っていれば、賊は躊躇うでしょうね。……そうね、作戦名は『カカシ作戦』で良いんじゃないかしら」


よし、ルフレさん達が戦いに専念出来るように、私も『カカシ作戦』を成し遂げないといけないな。

木を隠すには森って言うけど、まさか森の全てを隠していたいとは思わないだろう。


「分かりました。カカシ作戦の成功を期待させて頂きます。まもなくカデイラ村に到着しますので、話の続きは村に到着してからにしましょう」


こうして、早馬が早速とばかりにクヒラム方面に向けて放たれたのであった。

1人でも犠牲を出したら、この作戦は失敗だ……成功するか失敗するかを知っているのは、神のみぞ知ると言った所だろう。




その後、カデイラ村に到着した。

交易馬車よりは足取りが速いので、順調に行けば明日の野営は戦場予定地となるだろう。

つまり、ルフレさん達とは別行動になるという事だ。

私達が説得しないといけない村は2箇所。

山の麓にあるニハル村と川の畔にあるバーバン村である。

基本的に都市というのは戦略的価値のある場所に作られる事が多いが、村というのは『水』を求めて集まった人々によって築かれたと考えても良い。

住む価値の無い場所に、わざわざ根を下ろす必要は無いわけだ。


「幸い、オルビア村には川が流れている。山菜だって採れるし、猟をする事で食肉だって得られるだろう。……海は少し遠いけどな」

「……そうね、自然には恵まれているし、村が発展すれば交易価値だって上がって、色んな物が流れてくるでしょうね」


私が『水』の保障を説得材料にしようとしている事をソフィアに話すと、彼女は素直に同意してくれた。

さて、明日から忙しくなる事だろう……なんせ命を賭けたハッタリをしなければならないのだから。


「そう言えば、カオーリリア王国を打倒したら、どんな国名になるのかしら?」

「ああ、それは聞いたよ。ジャーラッドって名前にしたいそうだ……」


その会話を最後に、私は深い眠りに包まれたのであった。

青写真を頭に思い浮かべながら……。




「……ご武運を」

「はい、ありがとうございます。カカシ作戦、よろしくお願いします」


翌朝、戦場へ赴くルフレさん達の軍勢と別行動となった。

これが今生の別れにならない事を願わずにはいられない……。

そして、最低限の食料しか積んでいない交易馬車の荷車に座り込む。

……なんか、こうしてるとクセで眠ってしまいそうなんだよな。


「寝てても良いわよ、ミリア。説得という大仕事が待ち受けているのだから、雑務くらいは私に任せなさい」

「……そうさせてもらおうかな、眠くなりそうというか、おかしな言葉を使うけど眠るのが義務のように思えてくるんだよ」


そして、私は本当に眠ってしまったのであった。

……これも職業病の一種なのだろうか?

交易馬車の後ろには、難民の食料を管理している補給部隊が行動を共にしている。

ルフレさんだって、本当は彼らを戦場に投入したいはずなのに、こうやって難民支援に人材を割いてくれているんだ。




そして、村に到着する寸前に早馬が飛んできた。


「急報! 本隊がカオーリリア軍と戦闘に入りました!」


いよいよ、戦争が始まったか……。

流石に、これだけの軍勢が独自の行動をしていれば、カオーリリア王国軍も察しない方が無理というものだ。

『第3国の戦争扇動家』どころではなくなってしまったな。

しかし、事ここに至れば、依頼を放棄する事も逃げ出す事も許されない。

戦火が広がって村人が巻き込まれる前に、私の役割を果たさなければならないのだから。


「ミリアさん、クヒラムから軍服と武器が届きましたよ。これはひどいですね、私の店で売ってる物の方がずっと良いですよ」

「この戦いが終わったら、ジャーラッド王国御用達の雑貨屋にならないといけませんね、ミミさん」


そう言って、思わず笑いながら、私達はニハル村へと足を運んだのであった。

……私は最後にもう1度だけルフレさんの無事を祈り、その後は頭を切り替えてカカシ作戦に専念するのであった。

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