探したのはこの場所で - 05
「そうか、その頃か……」
彼女の選ぶ本を読み、自分の中で楽しんで、またその一時を味わうために店へ通う。
混じり、解け合った、それらの関係。
いつまでも続くのではないか、と想えるような、とても心地よい時間だった。
ただ――ある時、私に恋人ができた。
本屋に務める、年上の女性では、もちろんない。
同じ学校に通う、同じ年の女の子だった。
『連れて行く。いろいろと、いろんな場所、一緒に行こう』
子供の頃から良く知っているから、幼なじみ、とも言える関係だった。
彼女の好みや性格は、私とまるで異なっていた。
そもそもあまり本を読むようなタイプではなく、部活の陸上が生活の中心のような子だった。
お互い、意識しなければ、なかなか接点のない二人でもあった。
ただ……いつしか彼女は、私と重なるような本を読んだり話をしたり、してくれていることに気づいた。
そして私もそれに合わせ、誘われるままに横で走ることを始めてからは、あっという間だった。
初めての恋人関係に戸惑いながら、私は、今まで通りに本屋へ通っていたことを想い出す。
「その本、面白いですよね。……少し、驚きましたけれど」
彼女はそう言いつつも、恋人が勧めてくれたその本に、興味深そうな表情を浮かべていた。
「今までと、少し傾向が違いますから」
おそらく、私が好みそうな本から、離れていたからかもしれない。
「あの、知り合いの子にオススメされて」
私は、言い訳をするような口調で、そう言っていたことを想いだす。
罪悪感のような苦味は、どちらに対してのものか。
「私も、この本が好きなので。そのオススメされた方と、お話してみたいですね」
「……今度、連れてきますよ」
――結局、その恋人を連れて行くことは、一度もなかったのだけれど。