探したのはこの場所で - 04
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(今にして想えば……あれは、初恋だったのだろうか)
彼女に対してか、本に対してか。
それとも、両方か。
胸に抱いた想いを、本を読む口実にはしたくなかったが、混じりあったものであったような気もする。
ただ言えるのは、中学生になった頃からは、父と母の付き添いなしでその本屋に訪れるようになっていたことだ。
店に来る度に私は、彼女とともに本を探すようになっていった。
最初は緊張しながらだったが、次第になれていき、自然な雰囲気で話せるようになっていった。
「こんにちは。あの、この間の本なんですけれど……」
「ええ、ええ。……そうですね、そういう解釈もありますね」
彼女と話せるのは、純粋に楽しかった。
いろいろな本を紹介してもらえたり、感想を言い合えたりできたからだ。
彼女のオススメもあったし、私からの返しもあった。
――その本屋は、とても、居心地がよかったのだ。
田舎とはいえ、その店以外にも、本を扱う店はあるにはあった。
雑多な本を扱う古本屋、一角に雑誌などを置いた駄菓子屋、地元密着型の品ぞろえをする個人経営の本屋。
ただ、それらの店と比べても、その本屋はとても大きく、品ぞろえがよかった。
他の店では売れないような本も豊富に取りそろえられており、見ていて飽きることがなかった。
なにより、彼女がいたからだ。
年を経ても、彼女は変わらずに、私へいろいろな本を薦めてくれた。
彼女とともに歩く店内は、私にとって第二の家のような心地よさがあった。
かつては圧迫感があった棚の列も、まだ見ぬ未開の地を進むような興奮と興味を呼び起こす象徴となっていった。
見知らぬ文字列を見て、私は、様々な世界と知識へ意識を広げていったのだ。
「この間の本はどうでした? もし良かったのなら、この本もいいかも」
彼女の招きに従って、私は色々な本を読んでいった。
もちろん、毎月の小遣いで買える限度はあったから、それらの全てが読めたわけではなかった。
読む時間は限られていたし、学校の勉強や部活などでも時間をとられたりした。
もちろん友達付き合いもあったし、彼らとの話題づくりに読める本を選んでいたりもしたけれど。
少なくとも一冊は、彼女の選ぶ本を入れるようにしていた。
次にここへ来た時、また、話す話題ができるからだ。
「嬉しそうに読んでくれて、嬉しいです」
私が何冊もの本を買って、楽しそうに帰る際、彼女はそう言ってくれた。
――今にして想えば、若気の至りに想えるほど、私は熱心に彼女との時間を過ごさせてもらった。
そんな時間が、いつまで続いたのだろうか……。
パッパッーッ!
「……ッ!」
後方からのクラクションに、現実へ引き戻される。
眼の前を見上げると、信号が青に変わっていた。
周囲を確認して、急いでアクセルを踏みこむ。
……記憶を探りすぎて、ぼうっとしていたようだ。
もし、妻や娘がいれば、笑われるか心配されていただろう。
普段の私は……いや、今の私は、あまり夢見がちになることが少ないからだ。
――そう気づいて、私は。
いつから、彼女との時間が変わっていったのかを、想い出していた。