視界の広がるあの場所で - 16
「お姉さんって、まるでエスパーみたいですよね。あまりにも、勘が良すぎますよ」
自分の悩みを聞いてくれたり、学との関係に気を使ってくれたり。
なのに、それを表に出さなかったり。
お姉さんの大人っぽさを、わたしはそんな言葉でしか表現できなくて。
「それは、どういう意味でしょうか」
不思議そうな顔で、逆に問い返されてしまう。
「あっ、えっと……」
両手の指を戸惑うように合わせながら、わたしは答えを探す。
そう言った理由を話すのは、逆に無神経みたいに感じて、なにも言えなくなる。
するとお姉さんは、「あぁ」、と一言。
「転生もの、だんだん流行ってきていますね。雑誌で、かつての自分を語るコーナーも人気のようですし」
……たまに、お姉さんの言っている意味はよくわからない。
「読んでみますか?」
さっとその本を素早く手にとって、嬉しそうに見せてくれる。
わたしのためにそうしてくれるのがわかるから、こっちも、つい嬉しくて微笑んじゃう。
……本当に、優しい人。
「はい。ちょっと、試してみます」
そしてわたしも、差し出される本を、受け取ってしまうんだ。
だって、あまりにもいろいろな世界が、この本屋さんにはあったから。
(もちろん全部が全部、いいってわけじゃないけどね)
気に入ったのは、自主練習用のマニュアルや、スポーツ選手の自伝。
今流行っていることを特集した雑誌も、話題になるからすごく好き。
このあたりは、今までのわたしもなんとなく読める本達だったから、納得。
でも、お姉さんのすすめる本は、もっといろいろだった。
物事の考え方とか生き方を考える本なんかは、難しいけれど、見え方がぐっと広がった気がする。
本物の試合みたいな熱気を感じる漫画や、想わず感心してしまう不思議な雑学本。
学校の勉強をわかりやすくまとめた本も教えてくれて、これはとっても助かってる。
将来のことを考えるための手引書なんかも、あったかな。
……写真を見たり、スポーツの話題を読むのは、やっぱり変わらず好きだったけれど。
それとは違う本も、面白く読めた。
自分が選んでいたら、知らなかった世界。
――わたしは、いろいろな見方や世界があるんだってことを、本を通じて教えてもらったのかもしれない。
「あっ、でも、この前の本まだ読みきってなくて……。また今度でも、いいですか」
ただ、全部は読めなくて、断ることも多かった。
もともと、文字をたくさん読むと疲れるような人間だったのだから、今の状態が変ではあるんだけれど。
毎回毎回、違う本をすすめてくれるお姉さんに、わたしは時計を見ながら聞いていた。
「お姉さんの一日は、いったい何時間あるんですか? ぜったい、二十四時間以上ありますよね」
「いえ、同じ二十四時間だと想いますよ」
わたしのその言葉に、お姉さんが苦笑していたのを覚えている。
でも、その言葉は嘘だって想えちゃう。
だって、お姉さんの返す答えは、いつも自分の考えがあって。
読んでいないと分からない内容にも、ちゃんと触れてきてくれるから。
(本だけじゃない。……話し合えるって、とても、楽しいことだったんだ)
おかげで――わたしの部屋にも、少しだけれど出来てしまった。
学の部屋のそれを見て、関係ないなと想っていたのに。
ぬいぐるみなどのグッズをよけて、少しずつ少しずつ、増えていくその場所。
――本のためのスペースが、出来ちゃうなんて。
想い返しながら、わたしは重い声で言った。
「罪深いです、お姉さん」
「えっと……私、お客様になにかしましたでしょうか?」
「はい、されました。面白い世界がいろいろあるって、お姉さんのおかげで、教えられてしまいましたから」
怒ったフリをして言うわたしの仕草に、お姉さんはふふっと小さく笑ってから、イタズラっぽく言った。
「まだまだ、たくさんありますよ。だってここは、あなたの知らない世界が、たくさん記されている場所なんですから」
楽しそうに語るその言葉に、わたしは、前回の本の感想を返していた。
――わたしの知らない知識と、たくさん出会える場所。
知らない内にわたしは、お姉さんと本との出会いを、楽しみにするようになっていた。
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