視界の広がるあの場所で - 11
「あの、わたし、あんまり本とか読まないんですけど」
もし、店員さんが、わたしの求めているものが書かれた本を知っているなら。
わたしは、店員さん――お姉さんに、探してもらおうと想った。
あいつのことや、二人のことは関係なく、この人がどんな本を選ぶのか。
……ちょっと、興味が出てきたから。
「もし、店員さんが良いっていう本があれば……教えてもらっても、いいですか」
――それでなにかが変わるだなんて、想ってはいないけれど。
探してくれるなら、教えてもらいたい。
そう、感じる人だったから。
「かしこまりました。では、少しお話をうかがってもよろしいですか?」
「はい」
……それからお姉さんは、わたしに、いくつかの質問をした。
よく買う雑誌や、友達と話す内容、やっている部活のことや、最近悩んでいること。
……あいつのことだけは、ちょっと、除外したけれど。
わたしは、自然にそうしたことを、お姉さんに話せていた。
うまく話せている自信は、あんまり言葉が出てこなくて、なかったけど。
お姉さんは、ゆっくりと止まらないように合わせながら、話を聞いてくれた。
聞き方が、上手なのかもしれない。
話しながら、だんだん言葉が出てこなくなる。
……それは、この感情をどの言葉にするのか、知っていても言えない気持ち。
最初は、事実だけを言っていたのに。
少しずつ、感情が出ているのが、わかってしまったから。
(この人に言うには、だめだよね)
他人だから聞ける、って話も、聞いたことはあるけれど。
……わたしの感情は、まだ、うまくまとまっていないから。
そんなわたしを見てなのか、わからないけれど。
「少々、お待ちくださいね」
お姉さんは軽く微笑んで、わたしから離れる。
さっきまでの独りに戻ったのに、どこか、落ち着かない感じ。
(雑誌以外、だよね)
お姉さんが移動した、ある棚の一角。
わたしがあまり行かないそっちの方から、お姉さんはすぐに戻ってきてくれた。
手の中には、二冊の本。
表紙いっぱいに、人物の絵が描かれている。
「こちらの本が、おすすめですね」
「これって、漫画ですか……?」
タイトルの雰囲気や、絵柄から、そうじゃないかなって聞いてみる。
「はい。お客様のよく読まれている雑誌を、題材とした作品ですね」
二冊あるのは、続き物だからだろうか。
表紙の隅に番号があるから、多分、そうなんだと想う。
(漫画、かぁ……)
わたしは言いにくそうに、お姉さんに言った。
「あ、あの、申し訳ないんですけれど」
「あまり、興味がわきませんか」
「う~ん、はい。あんまり、気がのらないかも……」
期待していた分だけ、ちょっと残念な感じ。
……そう。わたしは漫画が、あまり好きじゃない。
(付き合い程度なら、読むけど)
どうしても、書かれている内容に、興味が持てないのだ。
それより好きなのは、実在の選手のインタビューや活躍の方。
生きている人達の言葉だから、感心しながら読めるし、憧れちゃう。
あと、その世界の一流の考えや方法なんかを、自分の練習や動きにも反映させることができるかもしれないから。
だからわたしは、漫画やドラマより、実際の……。
実際の、話の方が……。
『――テレビや雑誌に影響されて、あなたが本当だって言って、考えていること。……それが、正しいと想ってるの?』
『お前の頑張りも、聞いてるけれど……やり方は、それぞれあるんだから』
――実際の、先輩やあいつに言われた言葉が、憧れの選手の記事より先に浮かんでしまう。
(わたしの現実では……ぜんぜん、できていない)
憧れの人達にも、成功ばかりがあったわけじゃないって聞く。
でも、だからといって、今のわたしの状態がいいとも想えない。
……目標を目指したい、って想いは、間違いだと想いたくないけど。
「それは、フィクションだからでしょうか」
沈みそうなわたしに、お姉さんの声がふわっと聞こえる。
フィクション、という言葉にビクっとしながら、漫画の表紙をじっと見る。。
すっと眼をあげて見る、柔らかなお姉さんの雰囲気。
受け入れてくれそうなその笑顔に、わたしは、自然とうなずいていた。
「そう、ですね」
漫画をイヤだって言ったことに、怒っている感じはなかった。
だから、気をつけて話しながら、理由を説明する。
「なんていうか、すごく大げさじゃないですか。だから……変だなって感じちゃうと、もうだめなんです」
男の子達が読んでいる漫画を、横から見ることもあった。
そこに書かれているのは、荒唐無稽な動きや描写で、それが当たり前ってものばかり。
身体はそういうふうに動きはしないよ、どんなふうにしたらそんな結果になるの……? なんて、違和感ばかりを感じちゃうことが多かった。
(わかって読めば、楽しいのかもしれないけど)
女子の友達の中にも、そういうのが楽しいって子もいるから、それはそれでいいんだけど。
……今のわたしには、どうしても、それらが楽しいって想えないんだ。
(昔は、読めていたこともあったのに)
幼い頃は、少女漫画も読んでいた。
でも最近読んだら、がっくりと来てしまって、友達の話を聞くくらいになってしまっている。
だって……スポーツを題材としているのに、恋のことばかりに悩んでいる少女に、共感できない自分に気づいてしまったから。
(全部がそうじゃないって、頭では、わかっていたけれど)
小学校の頃から、走ることが楽しくなり。
中学校で部活に入って、身体を動かしたり、部の人達とふれあう内に。
……次第に、そういったものからは遠ざかってしまっていた。
クラスの友達なんかに、すすめられたり、話を聞いたりすることはあったけれど。
「あんまり、空想ばっかり見ていられると……辛い、かも」




