探したのはこの場所で - 02
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その大型書店は、私の住む田舎の地域では、物珍しい規模で開店した。
元々、書籍を専門に取り扱う店が少ない地域だったこともあり、注目度はすごいものがあった……らしい。
らしいというのは、後年、父や母に聞いて初めて知ったことだ。
というわけで、書店の開店をみな心待ちにしていた。
父と母も、あまり普段は本を読まないのだが、開店直後の珍しさから私を連れて行ってくれたのだ。
幼い私に、詰め込められた棚の本棚は、圧倒的だった。
壁も見えないくらいに敷き詰められた木の棚に、厳つい文字の列がぎゅうぎゅうに詰め込まれていたのが想い出される。
それがなんなのか、どういった意味なのか、全然わからなくても、異様な迫力があった。
そこになにかが込められ、こちらを見ているんじゃないか……そう想ったことを、よく覚えている。
ただ、子供の上、文字も読めなければ飽きも早い。
そして、圧迫感だけがある場所。
真新しい店内はとても広く、両親も迷子になってしまっていたのかもしれない。
本棚の壁に貼られた、一枚の紙を両親が見つめ始めた――そんな時だった。
「なにか、本をお探しですか?」
ささやくような声に誘われて、両親に向けていた眼をそちらへ向けた。
そこには、彼女がいた。
清潔そうな白いブラウスに、まっすぐなロングスカート。
整えられた髪はきちんと手入れされ、こちらを見つめる瞳は大きく輝いていたように想う。
幼い私は、驚きはしても、不安は感じなかった。
彼女の雰囲気や表情の柔らかさに、安心していたのかもしれない。
両親が声をかけ、彼女は頷いて手を差し出す。
「児童書のコーナーですね。それでは、ご案内いたします」
彼女はちらりと私に微笑んでから、背を向けて歩き出す。
両親に手を引かれながら、私は彼女の背を一緒に追いかけていた。
背をぴんと伸ばし、自信を持って歩くその姿。
どうしてか私には、そのしっかりと立ち歩く後ろ姿に、本の背表紙のような芯の強さを感じた。
……そう気づいたのは、もちろん、後年のことだが。
ある一角に来て、彼女はまたこちらを振り向いて言った。
「こちらが、児童書のコーナーになります」
彼女に案内されたのに、私は、じっとその顔や仕草を見つめていた。
なぜなのかは、今想いかえしても、わからない。
ただ……彼女とこの場所の統一感というか、空気がとても合っていたのことに、幼心ながら驚いていたのかもしれない。
「……僕?」
心配そうな彼女の声に、ようやく私は眼をそらした。
そこでようやく、自分がどんな場所へ連れてこられたのか、眼に入れることができた。
そしてその場所は……私にとって、彼女とは違う驚きを与えてくれるものだった。