視界の広がるあの場所で - 06
そんな心境のまま、授業の時間は過ぎていって。
「――ではみなさん、また明日」
あっという間に、帰宅時間。
だけど放課後は、部活の練習時間でいっぱい。
誰とも眼を会わさず、急いで部活へと足を向ける。
「咲希……」
「ごめん、今日は忙しいから!」
仲の良い友達が、心配そうに声をかけてくるけれど、そう言って振り切る。
……半分は本当で、半分は嘘。
でも、その半分の本当は、とっても申し訳ない気分にもなった。
そんな気持ちで部室へ入り、グラウンドへ出るけれど。
(……だめだ)
練習にも、身が入らない。
とにかく身体を動かして、考えるのをやめようとしたのに。
集中力も、足の動きも、今一つはっきりしない。
そのまま陽は暮れて、終了時間まであっという間になってしまう。
(これで、今日は、いいのかな)
練習メニューと身体の具合をふりかえりながら、心を落ち着ける。
……やっぱり、どこかすっきりしない気持ちは、ずっと残ったままだ。
今日も、うまく話しかけられなかったから。
あいつにも、部活のみんなにも。
「……お疲れさまでした」
みんなに合わせて、ぽつりと言う。
独り、学校を後にして、帰り道へ。
陽は落ちているから、自宅の近くまで、バスに乗っていく。
家に帰ると、汗でべっとりした身体をきれいにするために、まずはお風呂へ。
出たら食事をとって、居間で休憩。
時間になったら、部屋のベッドへ、ゴロンと横になる。
――今日も、一日が終わった。
そして、考えることを、しちゃう時間。
「……あぁ……」
昼間のことを想い出す、余裕が出来てしまう。
「うまくいかないなぁ……」
自分の気持ちに、疑問がつく。
いつも、こうして悩んでしまう。
――今、わたしは、二つの問題を抱えている。
あいつのことと、部活のこと。
距離がうまく測れなくなった、幼なじみの男の子。
幼なじみというだけで、話題が合うわけでもないし、たまに口げんかにもなってしまう。
「気に入らないんだけれど……」
天井を見上げながら、ぼんやりと、顔が浮かんでくる。
「気に入らない顔を、見ちゃう」
子供の頃から、本を読んでいる時の顔が、ずっと気になっていた。
開く前と、読み終わった後。
ワクワクしている顔と、やり終えたような満足げな顔が、印象的だった。
それは、今も変わらない。
学校では、無表情に見せているけれど。
(……あれでけっこう、気がつくし)
先生から言われたことや、クラスでの役割分担なんかも、学は断ることなくこなしてしまう。
友達とのつきあいも、決して悪い訳じゃない。
ちょっとわかりにくい、ってところはあるって、よく聞くけれど。
テストの成績だって、悪くはないと聞いた。
下から数えた方が早いわたしより、ずっと上。
目立たず、騒がず、でも……いないわけじゃない。
考えてみると不思議だけれど、学は、そういう男の子だった。