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視界の広がるあの場所で - 02

 ※※※




「はっ……はっ……」

 一定のリズムをとりながら、あまり呼吸を乱さないようにする。

 テレビで見た、好きな選手のフォーム。

 まだうまくはできないけれど、ちょっとは馴染んできたかも。

「……!」

 息を整えながら、足を止める。

 息が、つらい。

 けれど、目標の人は、雑誌で読んだらもっとすごい練習をしていた。

 わたしより、ずっとずっと早いのに。

 同じような早い人達に囲まれて、いつもコンマ一秒を争って、それでも諦めなくて。

 そんな、想像も出来ないような体験を、しているだろう人達。

 少しでも近づけるように、わたしも、がんばりたい。

「……ふぅ……」

 息も落ち着いてきて、気持ちいい身体のだるさがやってくる。

 全力で身体を動かした後の時間に、ひたっていると。


 ――がちゃり、と。

 なにかを重ねたり、取り外したりするような音が聞こえてくる。


(あっ……)

 その音がなんなのか、考えたくはなかったけど。

 聞こえてきた方へ、眼を向ける。

(片づけ、か)

 見れば、スターティングブロックやハードルを片づける姿。

 先輩達や後輩達は、もう、グラウンドから離れて、部室の近く。

 それだけじゃない。

 みんな、汗も引いて、呼吸も元通りに見える。

 先生も首を回しながら、のんびりした顔で時計を見ている。

 そこからわかるのは、もう、今日は終わりだという空気。

(まだ、走れるのに。走った方が、いいのに)

 ぎゅっと、手と唇だけに力を入れて、想う。

 紅くなっているけれど、まだ陽はあるのに。

「……っ」

 言いたいけれど……言えなかった。

 頭のなかに、ある言葉が浮かんでしまうから。

(……やりすぎも、よくないよね)

 呼吸はもう、元通り。

 独りで走る、というわけにもいかない。

 だから、そう納得させて、気持ちを落ちつける。

 でも……みんなの中に入っていく気にもなれず、どうしようか、迷っていると。

「あ、あの……」

 すると、右の方向から声がかかる。

「先輩、あの……今日は、もう終わりです」

 ぎこちなく、後輩に終了の連絡をかけられる。

「……うん。ありがとう」

 うなずいて、わたしもみんなの元へ一緒に行く。

 今日の反省と明日の予定を確認して、解散。

 部員はみんな、ぱっといなくなった。

 わたしも、運動場を後にする。

 ……まだがんばる部活の声が、背中に聞こえてきて、うらやましくもなる。

 とりあえず制服に着替え、帰宅する準備。

 下駄箱で靴をはきかえ、学校を出て少ししてから。

 ……また、想い出す。

 胸のなかに、どんよりとした、曇り空のような気分。

(もう、何日か、たつのに)

 忘れられない言葉が、頭のなかで再生される。

 鮮明に、今さっき言われたような、響きを持って。


 『――テレビや雑誌に影響されて、あなたが本当だって言って、考えていること。……それが、正しいと想ってるの?』


「……っ!」

 足が止まって、眼をつむる。

 ぎゅっと、両手も握って、感情を抑える。

「……わたしは、間違ってない」

 そうして、言えなかった言葉を、言っては駄目なんだろうなという言葉を、独りで呟く。

 頭のなかの声は、それで、少し治まったけれど。

 わたしが、まだ、あの日の気持ちに整理をつけられないでいるのは、間違いなかった。




 ※※※

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