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視界の広がるあの場所で - 01
「行ってくる」
――そう言って駆け出す、夫の先に。
――憧れの人と、愛しい書店の姿が、浮かびあがる。
(あなたも、私も、忘れられないのね)
あの頃から、どれだけの時が経ったのだろう。
夫婦でも、恋人でもない。
ただの、二人だった頃。
もう、幻だったような気さえする、遠い記憶から。
――けれどもあの場所は、どれだけ遠くなっても、かけがえのないもの。
(なくなる間際に、想いだすなんて)
自分の薄情さに嫌気がさしながら、それでも、あの日々は今も胸に息づいてる。
……それは、まだ、私が幼かった頃。
……今へとつながる、出会いと別れの、大切な想い出。
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