表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アマノクニ・フェスティバル

作者: 芳川見浪


 

「はいやってきました。特別コラボテニス大会! 実況は私、エッツェルが担当させていただきます!」

 

 と叫んだのは実況席に座る白衣の女性、ブロンドの髪とグラマラスな体型が見る人の目を引く。

 

「解説はこのワターシ、オモイカネが務めるヨー」

 

 解説席には同じく白衣を着た幼い少女、オモイカネがいた。体格に合っていないのか白衣がややブカブカだ。

 

「トコーろで今回の企画、何で別作品のキャラが揃ってテニスしてるノネー?」

 

「フッヤレヤレ、いいかいオモイカネ君こういう時はだね……細かい事は気にするなっ!」

 

「テキトオオオッ! オモイカネもビックリダヨ!」

 

「さあ選手の入場だぞ」

 

「オォ、スルー」

 

――――――――――――――――――

 

 テニスコート片側のフェンス外ベンチにて、和装の四人組が談笑している。

 

「頑張ってねクエビコさん、ボク頑張って応援してるから」

 

 両手でガッツポーズをとったボブカットの少女の名はニギ、やや露出の高い巫女服を身に纏っている。

 

「おうよニギ、このクエビコ様がバッチリキメてきてやるよ」

 

 テニスラケットをブンブン振り回すこの男の名はクエビコ、藁で出来たカカシであり、豊穣の神でもある。

 

「なるほど『てにす』とやらは羽付きのようなものなのでござるな」

 

 男物の和服を着流し、長い髪を首下で一本に纏めた隻眼の侍少女クラミツハが、テニス教本片手に苦闘していた。

 

「それにしてもさ、せっかくのコラボ回なのに何で俺ちゃんが出れないわけ?」

 

 そうボヤくのは鋼のような……もとい文字通り鋼の肉体を持つ巨漢のサイボーグ、タヂカラオだった。

 

「対戦相手は……山岡……たい、しり? あぁ! たいち、山岡泰知って人だよ。見た感じいい人そうだね」

 

「いいやニギ、ああいう人の良さそうな面してる奴に限って腹の中ではえげつない事考えてやがるもんさ」 

 

「そうかなぁ、クエビコさん思考がネガティブすぎるよ」

 

「お前がそれ言うか」 

 

――――――――――――――――――

 

クエビコ達とは反対側のフェンス外ベンチでは、ラフなジャージを着用した四人の男女がいた。

 

「あれって……カカシだよね?」

 

 緑のジャージに身を包んだ小柄な少年がテニスラケットを振りながら他の三人に聞く。


  彼こそクエビコと戦う山岡泰知である。

 

「みたいですね、どういう原理で動いてるのかはさっぱりですけど」

 

 青いジャージの少女が後ろ手で反対側のベンチをじっと眺める。

 セミロングでスタイルの整った彼女は香澄莉子という。

 

「俺はあのサイボーグが気になる。ちょっと手合わせを願ってみるか」 

 

 白いジャージを着た筋肉質の男、髪を目一杯刈り込んだ若宮隆明が不穏な事を言った。

 

「止めんかいアホ! 今日はテニスすんのやさかいテニスで決めぇ!?」 

 

 若宮の頭を丸めたテニス教本でバシンッとしばいた赤毛の少女が突っ込む。

 着用している赤いジャージが髪色に呼応するかのように彩っている。

 

「さて、それじゃテニスしてくるよ」

 

 山岡がフェンスをくぐってコートインする。

 それを確認したクエビコが慌ててコートに入ってくる。

 

「わりぃ、待たせたな」

 

「いえいえ」

 

 審判のホイッスルが試合開始の合図を報せる。  

 

――――――――――――――――――


「サーブは譲りますよ」

 

「あぁ? どういうつもりだ?」

 

「ハンデですよ、未経験者へのね。僕は一応経験者なので。ゲームだけど」

 

「…………まっありがたく頂くわ」

 

やや納得のいかないという顔をしながらクエビコは右手を山岡へと差し出した。そして山岡とクエビコはコート越しに軽く握手を交わす。

 

 実況席のエッツェルがテンション高めに叫ぶ。

 

「さあ! 選手達の熱い握手が交わされたところでルールを説明しよう!

 

 ルールは普通のテニスと変わらない、相手のコートにボールを返せなかったりサーブを二回失敗したら失点になる。

 

 そして今回は特別にスリーゲームマッチとなっている。

 簡単に言えば二回ゲームを取ればいい。

 

 わかったかな? オモイカネ君」

 

「イエース! オモイカネバッチリー!」

 

「いい返事だ! 因みにコートはグラスコートという天然芝のコートだ。ウィンブルドンで有名なあれだな!

 

 キープはクエビコ、ブレイクは山岡だ」

 

「オーケーオーケー、オモイカネ実はあんまりよくわかってないけどオーケー!」

 

「よし! 試合スタートだ!!」

 

 ビーーッという試合開始のホイッスルが鳴り響く。

 

「しゃっいくぜ! 」

 

 クエビコはボールを高く投げ、落ちてくるタイミングを見計らってラケットを振る。

 

 スカッ。


クエビコのラケットはあえなく空を切った。

 

「フォルト!」

 

 審判の声がクエビコの耳に刺さる。

 

「うわっ、クエちゃんダサッ! あんなに気合いいれてたのに」

 

「うっせータヂカラオ! これからだっつの」

 

 もう一度ボールを投げてラケットを振る。

 スカッと再び空を切るクエビコ。

 

「ダブルフォルト、ラブフィフティーン」

 

「ドンマイ、クエちゃん」

 

 タヂカラオはニヤけた顔でそう慰める。明らかに馬鹿にしている。

 

「く、クエビコさん! これからだよ」

 

 ニギは両手で握り拳を作って一生懸命に応援している。

 そんな姿にクエビコは若干の安心感を得た。

 

 しかしそんなニギに異変が起きる。

 

「おいニギ! 何か光ってるぞ!」

 

「へ? わわっ何これ!?」


 ニギが着用している巫女服の上衣が光っている、そして突如ビリッと破れた。

 

「わうっ! なんで〜」

 

「説明しよう!」

 

 突如として黒いカラスが現れた。ヤタガラスと呼ばれる神の使いであり、クエビコ達はこれを通信機のように使っている。

 

「何処から現れた!? つかヤタガラスってことは、アマテラスか!?」


「その通り、超美人のアマテラス様だ」

 

「てめぇまたなんかしたのか」

 

「ああ、神の力でポイント取られたら自動的に誰かの服が破けるという設定にした」

 

「神の力を無駄遣いしてんじゃねええええ」

 

「ではさばらじゃー」

 

「待てこら!」

 

 クエビコの叫びも虚しくヤタガラスは飛び去ってしまった。

 

「うぅ〜、クエさん絶対に負けないでね」

 

「お、おう」

 

 さっきまでの健気な様子はどこへやら、今は薄らと涙を浮かべて若干嗜虐心をそそる。

 

 湧き上がる煩悩を振り払いボールを投げる。もう失敗は出来ない。

 タイミングを合わせてラケットを振る。

 

 パコーン! 子気味良い音をたててラケットからボールが放たれる。

 

 当たった!

 

 ボールはまっすぐに飛び相手側のコートに入る。

 山岡は指先一本動かす様子は無かった。

 

「しゃっ入ったああ! どうだ!」

 

「サーティーンラブ」

 

 30vs0 つまりクエビコの失点。

 

 ビリッ!

 

「わあああクエビコさんのバカあああ」

 

「はあああ? 何でだよ! 入っただろ!」

 

 理不尽な結果に怒鳴るクエビコ、その疑問は程なくテニス教本を熟読していたクラミツハが解消する。

 

「む、これか。クエビコよ、どうやら『しんぐるにおいては、サーブを対角線上に入れなければならない』らしいでござるぞ」

 

「はあ? そんなルール知らねえぞ」

 

「いやクエちゃん、ルール確認ぐらいしないと」

 

「テニスってハネツキの羽が玉になってバウンドしたのを打ち返すだけの遊びだろ?」


 はあ〜、とクエビコ勢が一斉にため息を零した。

 

「とりあえずニギ、拙者の羽織を着るでござる」

 

「ありがとうクラミツハさん」

 

 と友情を深める女子二人を背中にボールを投げるクエビコ。

 力の限り思いっきりラケットを振る。

 

 ボールは対角線上に飛ぶが、勢いが強すぎてコート内に着地せずにそのまま山岡の後ろにあるフェンスまで飛んで当たった。

 

「フォーティーンラブ」

 

 ビリッ!

 

「拙者の羽織がああああああ」

 

「スマン」

 

 続くサーブも見事に外して、ニギは下着だけを残すのみになった。

 

「ウォンバイ山岡、コートチェンジ」

 

「クエビコさんの馬鹿馬鹿ああああああ」

 

「……すまねえ」


――――――――――――――――――――


 コートチェンジのため移動する山岡泰知とクエビコ、山岡はクエビコとすれ違う寸前ボソッと呟いた。

 

「予想通りですね」

 

「なに?」

 

 お互いの足が止まった。

 

「テニス初めての人がサーブを上手く打てるものですか、打てても大した威力はない」

 

「まさかてめえ、それを見越してサーブ権を」

 

「ええ、まさか一つも入らないとは思いませんでしたけど」

 

「くっ」

 

 クエビコは悔しさから拳を力強く握る。

 ムカつくが戦術としては悪くない、むしろ禄にルールを確認しなかった自分が悪い。

 

「てめえ、覚悟しろよ! 次は勝つ!」

 

 山岡はフッと笑ってコートに入った。

 

「トゥーゲーム、サーブ山岡」

 

 山岡がサーブする。クエビコと違いまっすぐコートに飛んでくる。

 しかしスピードは無いため充分対応できる。

 

 せめて返すぐらいは!

 

 クエビコはフォアハンドでボールを打つ、パコーンと子気味良い音を立てて相手コートに入る。

 

 山岡は一瞬驚いた顔をした後、フォアハンドでボールを打ち返す。

 しかしそのボールはネットにあたりクエビコのコートには入らなかった。

 

「ラブフィフティーン」

 

「驚いた。レシーブ上手いですね」

 

「自分でもビックリだよ、さあ誰の服が脱げるんだ!?」

 

 クエビコはラケットを山岡のベンチコートに向ける。

 

「俺っちは赤髪の子に脱いで欲しいなあグヘヘ」

 

 実をいうとクエビコ自身も赤髪の子が脱げるのを期待していた。

 

 そして、ビリッという音と共にジャージが破ける。

 

 若宮隆明のジャージが。

 

「「なんでだああああああああああ」」

 

 クエビコとタヂカラオの絶叫がコート全体を震わせる。

 

「俺っち! こんなにも悔しい思いは初めてだ!」

 

「ああ、タヂカラオ。俺もだ、本気でやってやる」

 

「クエビコさん、最低」

 

「全くでござるな」

 

 女性陣の冷たい視線が刺さるが、そんな事はどうでもいい。

 今やクエビコには負けられない理由が出来たのだから。

 

「さあ来い!」

 

 山岡がサーブを打つ、クエビコはフォアハンドで打ち返して山岡がいるのとは反対に打ち返す。

 山岡はそれを見越してか既に走っていた。返す。

 クエビコも再び返す。

 

 しばらくラリーが続き、そして。

 

「あっ」

 

 山岡が取りこぼした。

 

「サーティラブ」

 

 ビリッ!

 

 若宮の乳首が顕になった。

 

「「嬉しくねええええ」」

 

 山岡のサーブ、クエビコは難なく返す。段々慣れてきた。

 

 しかし、山岡が打ったボールを返した時、ラケットに違和感を感じた。そう少し重いのだ。

 これは、下回転が掛かっている!

 そしてボールはネットに引っかかった。

 

「サーティフィフティーン」

 

 ビリッ!

 

「うぅ」

 

 ニギの胸の下着が破け、小さな乳房が現れる。だがそれを見る事の出来たものは誰もいない。

 何故ならクラミツハがすんででニギを隠し、ベンチコートから遠ざけたのだ。

 

「「チッ」」

 

 タヂカラオとクエビコが同時に舌打ちした。どうもやさぐれてきている。


 山岡のサーブ、打ち返す。ラリーの押収、山岡がボールを浮かせた。

 

「貰った!」

 

 クエビコのスマッシュが決まる。

 

「フォーティフィフティーン」

 

 ビリッ!

 

 若宮のパンツが顕になる。

 

「「………………」」

 

 山岡がサーブする。

 

「ダブルフォルト! ウォンバイクエビコ」

 

 二回失敗してクエビコの得点になった。

 若宮のパンツが破れて男の一物が現れた。

 

「「「「いやああああああああ」」」」

 

 女性陣全てからの悲鳴が轟く。若宮は隠す事はせずそれをプラプラとさせていた。

 

「変態です! 若宮さんせめて手で隠して下さい!」

 

 茶髪の香澄莉子が若宮から目を逸らして怒鳴る。

 見慣れていないのか顔が真っ赤である。

 

「ふん、男の大事な武器だぞ。何を恥じるか!」

 

「いや恥じろよ! おめえタダの変態じゃねええか!」

 

 咄嗟にクエビコが突っ込んだ。

 その間に山岡は静流に何やら耳打ちした。

 

「えぇっ? ウチがやるん?」

 

「うん、こういうのは女性の方が効果あるんだ。セクハラなのは分かってるけどお願い」

 

「しゃーないな」

 

 静流が前に出た。クエビコは内心何をする気なのか興味深々だ。

 

 静流は拳をプルプル震わせながら若宮をキッと睨む、そして視線を下にやる。

 

「おいおいあの赤髪の子チ〇コガン見してるよ、俺ちゃんビックリ」

 

 しばらく見られたからか若宮の顔が赤らんでニヤケついた。

 そして静流が無慈悲な言葉を掛ける。

 

「ちっさ」

 

「ッッッッッ!!!」

 

 若宮の声にならない悲鳴がその場に男連中の心に響いた。


「あいつ何て恐ろしい事を言いやがる!」

 

「不味いよクエちゃん、俺ちゃん涙出てきた」

 

 若宮はその場に膝を屈して四つん這いになった。

 そんな若宮に香澄莉子がこっそり山岡から渡されたメモを片手に慰めの言葉を掛ける。

 

「えっと、短小でもドンマイ」

 

 若宮の心臓が停止した。


――――――――――――――――――――


 若宮の死体はベンチコートに放置された。

 

「さあゲームもいよいよ第3! 泣いても笑ってもこれで決まる!

 

 因みに今まで何してたかって?

 描写されてないけど実況してたんだ!」

 

「エッツェルそれはメタいヨー」

 

「オモイカネ君、細かい事は気にするな!」

 

「便利な言葉ダー!」

 

 そして第三ゲームが始まる。

 サーブはブレイクしたクエビコ。

 

「もう慣れたからな、今度はさっきみたいにはいかねえぜ!」

 

「それはどうかな」

 

 ニヤリと山岡が不敵に笑った。

 クエビコが危なげなくサーブを打ち、山岡がそれを返す。

  

 クエビコが更にそれを返そうとしたその瞬間、クエビコの足元が爆発した。

 

 山岡を除くその場にいた全員が爆音に耳を痛める。

 

 クエビコは右足の膝から先を損失していた。

 

「な、何が起きた……」

 

 クエビコが右足を抑えながら起き上がる。

 膝先から藁が伸びて新たな足が生えてきた。

 カカシのクエビコにとってはこれくらい造作もない。

 

 そして全員の疑問を実況のエッツェルが払拭する。

 

「あれはMS3圧力型爆風地雷、山岡の奴め、さっきのゲームで仕掛けたな」

 

「それってどういう事ネ」

 

「つまり奴は、あらかじめコートに地雷を仕掛けていたんだ!」

 

「「「「「「「な、なんだってええええええ」」」」」」」

 

 山岡とエッツェルと若宮を除く全員が叫んだ。

 

「それ反則じゃねえのかよ! 地雷が何なのかはわかんねえけど! 明らかに武器だろ!」

 

 クエビコが叫ぶ、当然の事だろう。実際クエビコ以外のメンツも口々に異を唱えていた。

 

「せやで! スポーツマンシップはどないしてん!」

 

「ボクもそれは卑怯だと思う」

 

「拙者、納得いかんでごさる!」

 

「山岡さん! 卑怯ですよ!」

 

「ところで俺っちの腰巻が破れてんだけど」

 

 等々。

 そんな意見は審判には届かず、無慈悲にも山岡に得点が入った。

 

「お忘れですか? テニスとは相手コートにボールを返せなかったら失点。つまりそのルールさえ守れば他は何をしてもいいんですよ!」

 

「なん……だと」

 

 クエビコは胸の内に何かがストンと落ちた気がした。

 他の連中は未だに抗議している。

 

 だがクエビコは逆に楽しげな、そう心の底から楽しそうな笑顔を浮かべた。

 

「そうか、何をしても良かったのか。つまり、ココから先は神の力を発揮してもいいわけだな」

 

 ブワッと黒いモヤみたいなのが浮かび上がった。

 

「いいね、そういうの。嫌いじゃない」

 

 対する山岡も満面の笑を浮かべた。その目を金色に変えて。

 

「あの人、目の色変わってる」

 

「なんと面妖な」

 

 ニギが最初に気付いた。次いでクラミツハが戦々恐々とした。

 

「あの二人ほんとはめっちゃ気い合うんちゃう?」

 

「あぁ、私も思いました」

 

 と、山岡側のベンチコートで静流と莉子が納得していた。

 

 そしてゲームが再開される。

 

「いくぜ! おりゃああ」

 

 気合い充分! これまでになく力強い一球を放ったクエビコ、山岡は冷静にそれを打ち返そうとする。

 

 しかし。

 

「甘い!」

 

 突如コートの芝が伸びてボールを弾き軌道を変えてしまった。

 

「フィフティーンオール」

 

「ここが天然の芝で助かったぜ」

 

 クエビコは豊穣の神、その力は植物の成長を自在に操れる。

 

「神様舐めんなよ!」

 

「クエビコさんカッコイイ!」

 

「うむ、見直したぞクエビコよ」

 

「ところで俺ちゃん今全裸なんだけど……あっ、無視?」

 

 と意気揚々となるクエビコ勢に反して、山岡側では静流のジャージが破れてちょっと混乱していた。

 

 クエビコは心の中でガッツポーズをとった。

 気を取り直して。

 

 クエビコがサーブを打つ。今度は山岡の進行方向に芝を伸ばして道を塞ぐ。

 

 だが、山岡はその芝をいつの間にか両手に装備したトンファーで切り裂きながら進んだ。

 

 トンファーの側面からは刃が出ており、先端にはテニスラケットが嵌め込まれていた。それでボールを返した。

 

「んだそりゃああ」

 

「この日のために魔改造を施したテニスラケットですよ! しかも着脱式!」

 

 クエビコはバックハンドで返した。

 同時に芝を伸ばす。

 

「甘い!」

 

 山岡は打ち返される前に手榴弾を投げた。ボールがネットを超える寸前に爆発し、その爆風でボールをクエビコ側に戻した。

 

「フィフティーンサーティ」

 

 ビリッ!

 

 タヂカラオの筋肉が弾けた。

 

「ぎゃあああ中の機械が剥き出しにいい」

 

「おおっとこれは神業だあああ」

 

「今のはオモイカネでもワカルヨー、爆風を利用したカウンターってやつダネ」

 

「流石オモイカネ君、適応能力が高い」

 

――――――――――――――――――――


 15vs30 山岡が一歩リードだ。

 エッツェルの実況が流れる。

 

「言い忘れていたが、デュースは無しだ。つまり山岡は後二点、クエビコは三点とったら勝ちだ」

 

「デュースってナニネー?」

 

「ググれ!?」

 

「オオ!? それ解説が言ってはイケナイヤツー!」

 

 因みにエッツェルは実況である。

 

「まだまだいくぜ!」

 

 クエビコがサーブする。瞬間、山岡の目の前の芝が伸びて視界を塞ぐ。

 

「くっ」

 

 トンファーを振るい胸の高さのとこで切り裂く。ボールは目の前に来ていた。

 マトリックスよろしく、身を大きく反らして回避する。

 そしてその体制のままトンファーの先のラケットで打ち返した。

 

 しかしボールはネットに引っかかってクエビコ側に帰ることは無かった。

 

「サーティーオール」

 

 ビリッと静流のシャツが弾けて下着が顕になった。

 

「わわっ、ちょっ! 泰知! 絶対こっち見たらあかんで!」

 

「はいはい」

 

 静流が真っ赤な顔で胸を隠した。

 クエビコは顔がニヤつくのを必死で抑えた。

 

 ふと山岡がジャージを一枚脱いでベンチコートに投げ入れる。

 

「とりあえず静流、ジャージ預かっといてよ。ちょっと暑くなってきたからさ。別に着てもいいよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 静流が少し照れながら山岡のジャージを羽織った。

 

 それを見ていたニギ、不満気な顔で。

 

「クエビコさんにもあれくらいの優しさ示して欲しかった」

 

「全くでござるな」

 

「うるせえよ!」

 

 クエビコがボールを投げる、その瞬間、山岡の手から破裂音が響いた。

 一瞬遅れてクエビコの手首に強い衝撃が走った。

 

「おおおおおっと山岡! クエビコに自前の拳銃で直接攻撃を仕掛けた!!」

 

「もうメチャクチャネ」

 

 クエビコが手首を抑える。程なくして弾が出てきた。

 それを見た山岡は

 

「実はですね。あなたが神様で、ちょっとやそっとじゃ死なないうえに傷もすぐ再生する事は事前に調べてあるんです。つまりあなた相手にはやりたい放題やっていいんですよ! と作者さんに言って貰いました」

 

「いや、あんた許可なくても死なない程度にやりたい放題やるやろ」

 

その場にいた全員がウンウンと頷いた。

 

「いやだって生みの親が直々に『無茶苦茶にしてやっていいよ!』てノリノリで言ってくれたからさ」

 

「唐突にメタネタぶっこむなや」

 

 クエビコがボールを投げる。再び山岡が銃撃する。

 しかしそれを見越したクエビコが芝を伸ばして防ぎボールを打った。

 

 続いて芝を連続で伸ばして鞭のようにしならせて山岡を襲わせる。

 

 山岡はそれらの芝を躱しながら返球に成功する。

 

 クエビコは難なくボールに接近して返す。

 山岡は襲いくる芝を切り払いながらギリギリのところで打ち返す。すかさず手榴弾も投げる。

 

「同じ手を食うかよ!」

 

 クエビコは手榴弾からボールを庇うように伸ばした芝を配置する。

 

「それはどうかな」

 

 手榴弾が爆発する。しかしそれは爆風や爆炎を生まず、眩いばかりの光と耳を破壊せんばかりの爆音を響かせた。 

 

「ぐっ、目と耳が……」

 

 クエビコが顔を手で覆って呻く。見るとベンチコートの面々も一様に呻いていた。

 無事なのは山岡と足の筋肉が弾けたタヂカラオだけだ。

 

「うおおおお目がああああ耳がああああ山岡めなんてものを!」

 

 実況のエッツェルも呻いていた。

 たっぷり時間を掛けて皆の目と耳が治るのを待つ。

 

「エッツェル、あれは一体ナンネ?」

 

「あれはスタングレネード、わかりやすく説明すると光と音で相手を無力化する爆弾だ。山岡め、周りの被害はお構い無しか」

 

 これで山岡のマッチポイント、あと一点とったら山岡の勝ちになる。

 

「まだそんな隠し玉があるなんてな」

 

 クエビコがサーブを打つ。山岡は前に出て返そうとする。だが。

 

「動けな……」

 

 山岡の足は芝に巻き付かれて動かせなくなっていた。

 慌てて芝を切る頃にはボールがコートに入っていた。

 

「フォーティーオール」

 

 ビリッと静流の着ていたジャージが破れた。莉子があらかじめ脱いでいた自分のジャージを着せる。

 

「へっ、次で終わりだな」

 

「ですね」

 

 お互い不敵に笑う。

 

「せっかくだ、最後は普通に打ち合わないか?」

 

「いいですよ、正々堂々やりましょう!」

 

 クエビコの提案に山岡が同意する。

 泣いても笑っても最後の勝負。正々堂々とまっすぐぶつかり合いたい。

 

 今このコートはその空気に包まれていた。

 

「いよいよ最後の一球、勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」


「何だか感慨深いというか、やっと終わるというか。オモイカネ疲れたヨー」

 

 クエビコがボールを高く投げる。

 

 そして。

 

 山岡は拳銃を取り出して発砲し、クエビコは芝を伸ばして山岡を襲う。

 

「てめぇ正々堂々はどうした!!」 

 

 クエビコが銃撃を躱してサーブする。

 

「そっちこそ普通に打つんじゃないんですか!!」

 

 山岡は芝を避けながら返球、同時に手榴弾を投げる。

 

「んなもん嘘に決まってんだろうがあああ!」

 

 芝で手榴弾を高く弾いたクエビコはボールをバックハンドで返す。

 頭上で爆発音がした。

 

「この外道神が!!」

 

 芝をあらかた切り払った山岡は急いでボールを追いかけて返す。

 

「てめえが言うな!!」

 

 山岡とクエビコが白熱してる中、ベンチコートにていつの間にか香澄莉子と村井静流、ニギとクラミツハが合流していた。

 

「着替えたら食事にいきませんか?」

 

 と莉子がニギ達を誘う。

 

「わう! い、いいの?」

 

「勿論やって、行こうや」

 

「うむ、拙者も行きとうゴザルな」

 

 こうして山岡とクエビコに呆れ果てた女子達による女子会が出来あがり、彼女達はクエビコと山岡を放置してその場を立ち去った。

 

 一方実況席は、タヂカラオがオモイカネに頼み事をしていた。

 

「ちょっと俺ちゃんの身体直してくんない?」

 

 タヂカラオが剥き出しのフレームや機械類をオモイカネに見せる。

 

「ウワー、これはヒドイ。持ってきたパーツじゃ足りないヨ」

 

「ふむ、なら私のを貸してやろうか?」

 

「お?」

 

「いいノ?」

 

「私もタヂカラオの機構に興味があるからな、すぐに一室用意するから隣で修理するところを見させてくれ」

 

 そしてエッツェルはオモイカネとタヂカラオを連れて実況席から立ち上がり、どこぞへと移動を開始した。

 

 後に残されたのは若宮の死体と、未だに罵りあいながらバトルを繰り広げている山岡とクエビコだけであった。

 

「人間が神様に勝てると思ってんじゃねええぞ!!」

 

「人間様に追い詰められた分際で何を言いますか!! ていうか僕厳密には人間じゃないし!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ