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死者の手 ~紅茶とコーヒーと不死人~  作者: 直さらだ
第七章 夏になったなら
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二十八節 もう言ったじゃん。ジジイになってもお世話したげるって

 ――そうだ、告白しよう。

 一騒動あったプール遊びの日から三日後、俺はアシュリーの後頭部を見ながらそう考えた。ポニーテールが風になびいている。

 アシュリーは呑気に鼻歌を歌いながら、射撃を楽しんでいる。お、当たった。外さねぇなぁ……。


「なあアシュリー」


「んー? なーに?」


 言いながら再びライフルを構え、アシュリーは狙いを定め始めた。


「俺お前のこと好きだわ」


 銃声。放たれた弾丸は的を外し、その後ろの土嚢に命中した。こいつが外すところ初めて見た気がする。

 寝っ転がっていたアシュリーを見ると、顔を真っ赤にして、俺を見ながら震えていた。半開きになった口から、変な声が漏れている。


「そ、そそそそれは……その……い、いいいいい異性としてっててこ、ここっ、ことっ!? なのっ!?」


 テンパり過ぎだろ。何言ってんのか聞き取れないレベル。まあなんとなく言ってることの予想はつくけど。


「おう。女として好きだぞ」


 爆発でもしたんじゃないかってくらい急速に顔を赤くし、アシュリーはそのまま顔を芝生にうずめた。

 ぶつぶつ何かを喋ってるので、耳をそばだててみる。


「いやいやいやいやいやいや、違う、違うの、きっと何かの間違い、そう、冗談とか、そういうの。だって、何もなかったじゃん。プールに行った時も何もなかった。それから後も何もなかった。いきなり告られるなんておかしいじゃん」


「冗談じゃねぇぞ」


「ぴゃああああああああああっ!!?」


 アシュリーが飛び跳ねそのまま転がって行った。羊の追い込みのように、俺が追いかける度に地面を這って逃げていく。

 気づけばアシュリーは射撃場の隅、壁際に追い詰められていた。背中を壁につけてなお、後ろに下がろうとしている。

 伸ばされた足を挟み込むようにしてアシュリーの前に屈み込み、俺は顔を近づけて言った。


「俺は、お前が好きだ」


「な、なな、なんで……?」


「なんでって、好きに理由が必要か?」


 顔を赤くしたまま、アシュリーは震えた声で俺に尋ねた。


「そうじゃ、なくて……なんで、急に……言うのっ?」


 ああ、なるほど。そういやさっきもタイミング的におかしい的なことを呟いていたか。


「そうだな……言いたくなったから、かな。お前のことが好きなんじゃないかなって思ったのは、やっぱりプール行った時だよ。お前の水着姿だったり、触れられた時な、こっ恥ずかしいがドキッとした。でも、ララやフィリスの水着にゃドキッとしなかったし、触れられた時も、別にそうならなかった」


「で、でも……ニヤけてた」


「え、マジで? まあ……それはあれだ。褒められて嬉しかっただけだよ。でもお前に触られた時の、なんつーか……熱はなかった」


 アシュリーの頬に手を伸ばし、指で撫でる。プニッとして柔らかい。

 アシュリーは目を細め、されるがままになっていた。顔が赤いし、睫毛がプルプル震えていた。

 今すぐキスしてやりたいが、我慢だ。まずはちゃんと質問に答えてやらないと。


「ロマンチックな演出とかもちょっと考えてみたけど、違うかなってな。でも二年以上待たせてる訳だし、早い内に言ってやりたかった。そんで、さっき、なんとなく、告白しようかなと思い立ってだな」


「それで、言ったの?」


「言ったの。気取ったのは苦手だ」少しだけ顔を近づける。左手を壁について、体勢を整えた。「――アシュリー。こんな老い先短いおっさんでも、いいのか?」


「もう言ったじゃん。ジジイになってもお世話したげるって」


 アシュリーは目を開け、笑顔を見せた。いつもの笑顔だったが、真っ赤な顔のせいか妙に色っぽかった。

 再び目を閉じ、濡れた睫毛を震わせる。俺を待ってくれている。


「……そうだったな」


 火照った唇に、俺は自分のそれを触れさせた。触れるだけのキスだったが、それだけで特別だった。チラッと薄目を開けてみると、アシュリーは全身を小さく震わせ、涙をこぼしていた。

 もう一度キスをしつつ、親指で涙を拭う。


「ヒゲ……チクチクした……」アシュリーが俺の頬に手を伸ばし、やわっこい手つきで撫でる。


「嫌いか?」


「ううん、好き。パーシヴァルの全部が、アタシは好き……」


「俺もだよ。――愛してる」


 もう一度、アシュリーにキスをした。

 認めてしまえば簡単な話だ。保護者だなんだって、自分を誤魔化すのはもうやめだ。世間体なんか知らねぇ。そもそも歳の差なんて、不死同士ならそんなに気にするもんじゃない。それにもう、アシュリーはほとんど大人だ。

 アシュリーからもう一度短くキスをし、尋ねてきた。


「……おっぱい揉む?」


「…………後でな」


「今迷ったでしょ?」


 アシュリーは顔を近づけたまま、歯を見せて笑った。面白がってる顔だ。


「うるせぇな。とにかく今は揉まない。いつ人が来るかわかんねぇからな」


「人が来なかったらいいの?」


「口答えすんじゃねぇよ」


 そう言って俺は、もう一度だけキスをして立ち上がった。アシュリーの足と腋に手を入れ、持ち上げる。


「わわっ」


 アシュリーは小さく声を漏らし、慌てて俺の首に腕を回した。


「お前やっぱ軽いな。二年前のガリガリ状態に比べりゃ重いけど」


 《身体強化アクティヴェーション》を使わなくても、軽々持ててしまう。稽古で筋肉もついているはずなんだが。


「これでも一応、体重とかは気を使ってるのよ」


「おーおー、すっかり女の子だな。素っ裸で廊下を走ってたのが嘘みてぇだ」


「それは昔のことじゃん。……パーシヴァルだって、太った女の子は嫌でしょ?」


「お前ならなんでもいいよ。……とは言っても、まあ豚みたいに肥えたらちょっと嫌だな」


 前に殺害対象だったクズ野郎がそんな感じだったが、醜かった。アシュリーがああなるとは思えないが、できればなって欲しくはない。


「なら、この状態をキープしてあげよう」


 アシュリーは笑いながら言い、頬にキスをした。なんかタガが外れてんのかもしれない。お互い様か。


「ありがたいね」


 短く返しつつ、ほっぽり出していたライフルの元に戻った。アシュリーを下ろしてやる。 

 アシュリーは転がってくっついた芝を払い落とし、ライフルを拾い上げた。


「帰る?」アシュリーが尋ねる。


「お前がそうしたいなら」


「んー……そうしたいかな」


「じゃあ帰ろう」


 ささっと二人で後始末をし、射撃場を出た。帰り道、アシュリーが控えめに伸ばした手を握ってやる。アシュリーはいつものニヤケ顔はせず、頬を赤らめたまま俺との距離を一歩近づけるのであった。

 夕日が落ちるちょっと前に家に到着した。道中は無言だった。お互い一言も喋らなかったが、気まずい訳ではない。どちらかと言えば、これから先のことを考えて、意識してしまっていたというのが正しい気がする。

 どこかいつもと違う雰囲気のまま食事と風呂まで済ませてしまい、気づけば日も落ちていた。

 俺とアシュリーはパジャマに着替え、リビングの椅子に向かい合って座っていた。


「……やることなくなっちゃったね」


 アシュリーが、机に投げ出された俺の手を触りながら言った。


「そうだな。あー……寝るか?」


「……うん。一緒に」


「ああ、一緒だ。ずっとな」


 椅子から離れ、アシュリーの隣に移動する。アシュリーが手を伸ばしてきたので、それを首に回させつつ、いわゆるお姫様抱っこをする。

 二階の寝室に上り、ベッドにアシュリーを下ろした。月明かりが上手いことベッドに差し込んでいて、電気を付けなくてもアシュリーの顔を見ることができた。赤らんだ顔と潤んだ瞳が、俺を見上げていた。

 上着を脱ぎつつ、俺はアシュリーに覆い被さった。ベッドが二人分の体重を支え軋んだ音を出した。


「アシュリー……」


 名前を囁きながら、キスをする。白い扉をノックすると、ゆっくりと開かれる。舌を伸ばし、絡め合う。

 アシュリーが腕と足を俺に絡めてきた。片手でズボンに手を伸ばす。

 俺はキスを続けながら、おへその辺りを撫で、ゆっくりと手を上に滑らせていった。


「……しちゃうの?」口が離れたタイミングで、アシュリーが小さく笑いながら尋ねた。


「ああ。お前は俺のもんだ」


「んっ、うん……。アタシのこと、パーシヴァルにあげる……んむっ」


 アシュリーの口を塞ぎ、俺は行為を続行する。一晩中お互いを貪り、落ちていく。


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