第1章-1
第1章
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寝苦しさを覚えて目を醒ます。夏は朝が早いとはいえ、まだ十分に暗くあまり多くの時間眠ってない事が分かった。
背中は汗でじっとりと濡れていて寝巻き代わりに着ていたTシャツは不快な布切れと化している。空調がいつの間にか止まっていたようで部屋は蒸し暑かった。手を伸ばしてサイドテーブルに置いてあるリモコンのスイッチを入れる。低いモーター音と共にエアコンが動きだした。涼しい風が顔に当たった。
枕元の時計は午前2時を示していた。1時間も寝ていない。ため息をついて身を起こす。汗と不快な気分をシャワーで洗い流す事にした。
こうして熱いシャワーに当たっていると1年前を思い出す。あの頃はプレッシャーと歓声の中で仕事をしてきた。充実感はあったが、年間を通じて心の休まる時間がなかった。上手く眠れずに酒の力を頼る日もあった。幸い元同僚でライバルで同時期に仕事を辞めた男の様に睡眠薬をウイスキーで流し込む生活にはならなかったが。
浴室から出ると携帯電話のディスプレイが光っているのに気が付いた。
かつての部下だった男の名前がそこにはあった。今日、正確には昨日の午後顔を合わせたばかり。しかもこんな真夜中に。
通話ボタンに触れるのをしばし躊躇っているうちに着信は終わった。危急の用事ならまた掛かってくるだろう。
私は新しい寝巻きに着替え寝具に入ると午後に出会った彼の事へ思いを馳せた。