職員室での一悶着
そんなこんなで、部員が揃った。
僕と健二にくわえ、江田と宮本も入部を表明した。掛け持ちになるのに、みんな快く引き受けてくれた。つくづくいい友人たちに恵まれたものだと思う。
これら四人に、宮本ファンクラブの四人の阿久津を足し、計八人が、新制ココア部のメンバーとなる。顧問はミルク部の先生に兼任を頼んだ。是非ミルク部の牛乳でおいしいココアを作ってくれとのことだった。
結局、理事長がなにを考えているのかはわからなかったが、ココア部を再建できるとわかった今、それはどうでもいいことだ。僕と健二は、意気揚々と職員室に向かった。復活のための申請書を提出するためだ。だが、ここでまた一悶着ある。
「ココア部は認められない」
学年主任の強面先生は、申請書を一瞥するときっぱりそう言った。
「な、なんでですか!?」
僕はもちろん抗議した。こんなこと、承服しかねる。
「部員も揃えたし、顧問もいる。いったいなにが問題なんですか……?」
「……」
強面先生、目を逸らして黙り込む。そこへ健二が畳みかけた。
「理事長の圧力ですか?」
「な、なぜそのことを……!」
職員室中に緊張が走るのがわかった。どの先生も、さりげなく聞き耳を立てている。どうやら図星らしかった。だとすると、なおさら諦めるわけにはいかない。
「正当な理由もないのに、こんなのっておかしいです。僕たちは真剣なんですよ!」
「し、しかし、わかるだろう? 理事長に逆らったが最後、我々教師のコーヒー豆やお茶っ葉が取り上げられてしまうんだ。そうなっては生きていけまい」
「カカオなら取り上げられてもいいって言うんですか!」
「そうは言ってない。そうは言ってないが……」
強面先生の表情はすでに強面じゃなくなっている。弱りきった顔で、しどろもどろに言い訳を並べ始める。くそ、このままじゃ埒が明かない――。僕と健二は焦りを感じ始めていた。
「いいじゃないですか、許可すれば」
そこに助け舟を出してくれたのが、ナイス・バディーの美人女教師だった。スーツもタイトスカートも、はち切れんばかりに突っ張っている。
「み、宮本先生! なにを言うんですか!」
「まあまあ、落ち着いてください山川先生」
動揺しながらも宮本先生の豊満なバストに釘付けになる、強面先生あらため山川先生。僕と健二は宮本先生の谷間を凝視する山川先生の禿げ頭を見つめていた。
「責任なら、私が取りますから」
「むぅ、そういうわけには……」
「そこをなんとか、お願いできませんか」
宮本先生は、深々と頭を下げた。それを皮切りに、がたがたと、いっせいに周りの男性教師たちが立ち上がった。
「宮本先生、責任は俺が取ります! だから結婚してください!」
「いや俺が! 俺があなたを養います!」
「おいてめえら抜け駆けはナシっつったろうが!」
「山川先生! 俺たちからもお願いします! 俺たち、宮本先生の株を上げたくて仕方ないんです! 下心のカタマリなんですよ。先生だってそうでしょう?」
「むむむぅ……」
山川先生は唸る。
「確かに、その気持ちはある。あわよくば手とか繋いでみたい。だが……」
「結局、生徒の問題は生徒が解決するしかないと思います」
顔を上げた宮本先生は、真剣な表情で言った。
「これがきっかけで、彼も変わってくれるかもしれません」
「……」
山川先生は、しばらく無言のまま考え込んでいた。
「……わかった」
やがてその首が重々しく縦に振られると、僕や宮本先生より先に、周りの男性教師どもが歓喜の声を上げた。
「……ほら、お行き。コレは受理しておくから」
なぜかお祭り騒ぎの職員室だったが、当の宮本先生は飄々としていた。僕の手から申請書をピッと奪い取ると、片目をつむってウィンクしてみせた。なんだか仕草一つ一つが妙に艶かしい。
「あの、先生、ありがとうございました」
「頑張ってね。これから少し、大変なことになるかもしれないから」
「大変なこと?」
それには答えず、宮本先生は露骨に話題を変えた。
「あ、そうそう。それから、夕菜と仲良くしてやってね」
宮本先生はなんと、あの宮本の実の姉なのだそうだ。謎のモテ気質は確かに姉妹に共通するものがある。姉に栄養が行き過ぎて妹のほうには全然回らなかったんだな、と胸の二つのふくらみを見て思ったことは内緒だ。