エピローグ
日が暮れて、学生ラウンジから人波が引いていく。ココア部とミルクティー部のメンバーは、穏やかな空気の中、祭りの後の片づけを行っていた。
僕と野呂は、公然とサボることを許されていた。部長同士、腹を割って話す時間を設けてくれたのだろう。
ラウンジの隅、他の部員たちとは真逆の位置に、僕と野呂はいた。テーブルについて、部員たちが紙コップを処分する様を二人して眺めていた。
「貴様には、いくら礼を言っても足りないな」
野呂がふいに、切り出した。
「これで俺は、代用品とはいえ、ココアが飲めるようになった。それに、仲間や夢の大切さというものを、貴様のおかげで思い出せた気がする」
「礼を言ってもらうことより、謝ってもらうことのほうが多いように思うけどね」
僕が冗談めかして言うと、野呂は破顔した。
「その通りだな。貴様らには悪いことをした。約束通り、ココア部は認可しよう。じいちゃんにお願いして、ココア学も復活させてやる」
「いいのかい?」
「それくらいじゃ足りないくらいだ」
申し訳なさそうに言って、野呂は目をつむった。驚きの改心ぶりである。
「貴様はもちろんのこと、あのコーヒー女にも謝らなくてはならん。父親を通報したこと……。俺にこれ以上、なにができるだろうか」
「そんなの、僕も宮本も求めてないよ」
「いや、それだと俺の気が済まないんだ」
うっとうしいくらいイイヤツになってしまった野呂に戸惑いつつ、僕はそれならと頷いた。
「だったら、お願いしたいんだけど」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
片づけが終わったのだろう。ココア部の面々がこちらに歩いてくる。僕は横目でそれをちらりと見やると、野呂に向かって笑いかけた。
「僕たちに、おいしいミルクティーを作ってくれないかい?」
野呂は目をぱちくりさせたが、次の瞬間には短く息をついて、口元を綻ばせた。
「お安い御用だ――」
ミルクティー部編は終了です。次はレモンティー部編に進み……ません。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。