白い竜との再会。
「うおぉぉーー!!」
現在、時雨は自由落下中であった。
「あんなところで寝るんじゃーー!!」
何か違和感を感じて、昼寝から目を覚ました時雨はそれを確認しようといつも通り寝起きの伸びをして活動を開始しようとした。
だが、寝てる場所が窓の縁だということを完全に失念していた。
結果、縁につこうとした手は空を切り、この通りスカイダイビングをしていた。
「ほいよぉぉーー!!」
時雨は変な声をあげる。
すると落下速度が段々と緩まっていく。
そして、砂の上にゆっくりと着地した。
「あぁ、マジ怖。いきなり落ちるとかマジ怖。……ちょっとちびったかも…。」
時雨は震える体を抱きながら、今後絶対窓の縁では寝ない、と当たり前のことを心に誓った。
「さて、それで俺は何に起こされたのか。よいっと。」
時雨は発掘したフロアの分だけ盛り下がった砂丘の上から展望台に戻る。
「やっぱり空飛ぶのは疲れる。」
あんまりやりたくないなぁ、と思いながら展望台から周りを見渡す。
「よく見えないな。」
突き出るビルと砂ばかりの変わらない景色。
「はぁ、あれを使うか。」
時雨は嫌そうな顔をしながら、瞼を閉じた。
もちろん、視界には何も映らない。
しかし、この後目を開ければ何が映るのか予想できてしまう。
時雨はふぅ、と息を吐き出してから口をきゅっと結んだ。
そして…。
「『開眼』」
一言呟き、そっと瞼を開いた。
すると時雨の片方の黒い瞳が金色に輝いていた。
「くっ…。」
時雨苦しげな声を出す。
今すぐ解除したいがそれでも周りを見渡し違和感の正体を探す。
そして見つけた。
「あ、あそこか…。」
殺伐とした砂の景色の中、一点を視界に捉えると瞼を閉じた。
「『閉眼』」
そう言って再び瞼を開けると元の黒目に戻っていた。
「…はぁはぁ。うっ。」
時雨は窓の縁から降り、口を抑えて床に膝をつく。
額からは大粒の汗が出てきていた。
時雨が金色の瞳で見ていたのは視界を埋め尽くす無数の感情と情報の色だった。
砂丘に変えたり、天気を季節外れにしたりする東京への恐怖、誰かの願い、想い、攻撃的な思考、思想…。
あらゆる場所から流れてくるそれらを時雨は金色の瞳でのみ色として捉えることができる。
正確にはできるようになってしまった。
だが、それをするには脳を異常に酷使する。
そして酷使すればするほど、脳の神経細胞を焼き切るような痛みと胃から込み上げてくる吐き気が時雨を襲う。
だが、おかげで違和感の正体をつかんだ。
金色の瞳で捉えた場所が他の場所より一際黒く染まっていたのだ。
「何十年ぶりだ…、東京に人がくるなんて…。」
黒色というのは人間特有の攻撃的な色だ。
他の生物も攻撃的な時には特有の色を持っている。
それが人間は黒なのだ。
「…はぁふぅ、なんか他の色も見えた気がしたけど…、ちょっと行ってみるか。」
全回復には程遠い重たい体を持ち上げて黒色に染まっていた場所に向かって歩き…、ではなく走り始めた。
時雨の心中が疲労感より好奇心の方が勝ってしまったのだ。
砂の上を足を沈ませることなく走り続けると現場に到着した。
そこには一人の西洋貴族のような恰好をした男と、揃いの柄の羽織を着た十数人のお付きのような男たちがいた。
そして、傍にはいつか見た大きな白い竜が横たわっていた。
「綺麗な白い竜がいるって聞いてきいたが、これがその竜なのか?」
「らしいですよ。」
「かなり強いって話だったが?」
「運が良かったんですよ、お館様。」
「そうかそうか。」
機嫌が良さそうな声で白い竜を男が見る。
「ガァァ……。」
白い竜から声がした。
そして白い竜の周りに岩が漂い始めた。
「まだ、生きていたか。威勢のいいことだ。」
余裕たっぷりの声で男が白い竜に近づく。
「ガァッ!」
白い竜の咆哮で、浮き上がった岩が男に襲いかかる。
「聞かぬ、『粉砕』!」
だが、男はそれを宙で砕いた。
「そろそろ終わりだ、白い竜。岩よ、『浮け』『尖れ』。ぐぅ、少し無理があったか。」
少し声に覇気がなくなった男が横にあった大きな岩を浮かせ、それを尖らせた。
「グルァァ…。」
白い竜は諦めたような声色でか細く鳴いた。
「私の勝ちだ。『刺され』。」
男の元から尖った岩が白い竜に飛んでいく。
こんなものが刺さってしまえば間違いなくこの竜は死ぬだろう。
だから、時雨は…。
「いや、俺の勝ちだな。」
物陰から伺っていた体を白い竜と男の間に晒した。
そして、白い竜の首筋目前に尖っていた岩を宙に静止させ、砂の上にバラバラに崩れ落とした。
「なに!?」
「グルァ!?」
男と竜から驚愕の声が上がった。
8月7日0時に第8話です。