都庁のガラスの修復。
雷雨だった次の日。
時雨は砂の処理を終え二つ下のフロアに来ていた。
「あぁ、窓が割れてる。とりあえず砂は腐る程あるから直していくか。」
割れた窓から、砂を掘削しながら、外に出る。
「さてさて、久しぶりに本気を出しますか。」
砂を持ち上げる。
そして、燃やした。
ガラスの原料は珪砂(二酸化ケイ素)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、石灰(炭酸カルシウム)の主にこの三つだ。
珪砂というのは、幼稚園の砂場の砂、学校のグラウンドの砂など、砂のことを言い、それはほぼ無限にある。
ガラスそのものはその珪砂を超高温、約1,700℃以上、にしてドロドロに溶かして冷やせば完成する。
ソーダ灰は1,700℃の珪砂の融点を1,000℃まで下げるためのもので、石灰はソーダ灰を加えることによって水溶性になってしまったガラスを水に溶けないようにするためのものだ。
その三つでガラスは完成だが、今、時雨の元には砂しかない。
だが、その砂を1,700℃以上にさえあればガラスはできる。
ゆえに、燃やしているのだ。
「これ、障壁を張らないとこっちまで焼け死ぬな。」
目前には蜃気楼のように周りの景色を揺らす砂が温度を上げていく。
「そろそろドロドロに溶けてくるかな。」
一部が光を放ちながら赤い液体に変化し始める。
それを見て追い上げとばかりにさらに力を込める。
「おっ、きたきた。」
赤い液体に変わっていたところから全体に融解が生じていく。
「焼け死ぬ前に失明するな、これは。」
融解時のまばゆい光に、時雨は目前に張った障壁に遮光効果も追加した。
熱し続けると珪砂は完全にドロドロに溶けた状態となる。
これを割れた窓の寸法に合わせて分割して形を整えていき、熱するのをやめる。
「これで放っておけばガラスの完成だな。」
宙に浮く赤い液体が急速に冷却されて透明な結晶になっていき、見慣れた窓ガラスになっていく。
余熱もそっと風を送り冷やしてしまう。
「よしよし、じゃあ後ははめるだけか。」
数枚のガラス板を浮かせながら、割れた箇所の窓枠を外して、そこに作ったガラスをはめ込む。
最後の一枚をはめ込み、そのガラスを右指の第一関節で叩くとキンキンと高い音が鳴る。
「これじゃあすぐ割れるか。でも、強化ガラスの作り方はわからないんだよなぁ。」
今度、国立図書館でも発掘しようかと思いながら時雨は窓から中に入っていく。
「あれ、でも、あそこは昔全焼してたような…。」
思い立った矢先いきなり出鼻を挫かれた時雨は白い長い髪を床に垂らし項垂れた。
8月4日0時に第4話です。