現在、毎日を生きております。
風の音が聞こえて目を覚ました。
突っ伏した体を持ち上げると目前のノートパソコンの液晶画面には、ああああ…、と「あ」の文字が無数に羅列していた。
「やべぇ、寝ちまった。」
痒みと痛みがする頬を摩りながら、あらかじめ保存しておいたレポート1ー1を読み込み、ああああ、のレポートを削除する。
そして、ふぅ、と息をついたのも束の間、自分がどうして起きたのかを思い出した。
「あぁ、窓開けっ放しにしてたか、うわぁ、砂が…。」
開閉式の窓から都庁の展望台内にザラザラとした砂が吹き込み、床にうっすらと黄土色の絨毯を敷いていた。
「とりあえず、窓を閉めて…」
周りに散らばる紙の束を両手でかき集めながら窓を閉める。
「砂も集めて…」
椅子に座ってノートパソコンをシャットダウンさせながら、黄土色の砂を床から1mの所で押し固める。
「そして、捨てると。よし。」
閉めた窓を伸びをしながら半開きにしその隙間から元あった場所に砂を戻した。
「今日も良い砂丘の眺めだなぁ。」
都庁の展望台よりも高い砂丘に改めて感慨を覚え、今度絵でも描こうかと寝起きの頭に少々やる気を起こさせる。
「まぁ、その前にレポートを完成させないとなぁ。」
ショットダウンさせたノートパソコンに目を向ける。
「けど、問題は、新秩序の構築なんて…俺、何にも知らないんだよなぁ、今の日本。」
再び窓から外を見る。
あんなにも巨大だったはずのスカイツリーが今や砂の山からゲイン塔が顔をのぞかせているだけだった。
「はぁ、飯でも食うか。…よいしょ。」
掛け声で少し離れたところにある机から皿が浮く。
そして皿はノートパソコンの上に置かれる。
皿の中には作り置きした冷えたチャーハンがある。
温めることもできるが、冷えたままにしているのはノートパソコンの上に置くことを考えてのことだった。
「やっとの思いで直したものなんだ、壊すわけにはいかない!」
そんなことを言いつつ皿を上に乗せてしまうのはどうなのか。
その矛盾に気づかず(気付いても特に何も思わなかっただろうが)レンゲを持ち手を合わせてから冷えたチャーハンを食べ始める。
「しっかし、本当に今の日本をどうやって調べようか。」
都庁展望台の中、無意識のうちに言葉が口から出てくる。
「やっぱ、列島行脚か…。航空写真なんて100年前から更新されてないもんな。」
頭の中でこれからどう過ごそうかと様々に思考するが、レンゲが何も掬うことがなくなったのを見て一旦その思考を打ち切る。
「ごちそうさまでした。…さて、三日目の日々の日課を始めるか。」
止まらない独り言に何かを言う人は誰もおらず、一人、展望台から降る非常階段に歩みを進めた。
「はぁ、中々砂が片付かないな。未だに1フロアしか行けてないなんて…、先は長いなぁ。」
砂が片付け終わった一つ下のフロアを見てから、そのさらに下に続く砂に埋もれた非常階段を見てげんなりする。
「始めるか…。よいっと…。」
現在、西暦2116年7月7日。
天候は晴れ。
昨日の天気は晴れのち雪のち竜巻。
今日の天候も荒れる可能性あり。
よって、この晴れているうちに運ぼうと、砂を浮かせチューブのような形にしながら連続性を持たせ、窓から外に吐き出す。
そして、それを続けていると下のフロアへの非常扉が見えてくる。
「おぉ、今日は早いペースだ。」
砂の掘り出しに慣れが出てきたからか、一昨日、昨日の二倍の速さである。
しばらくすると遠くから雷のような音が聞こえた。
「今日は雷雨か。やっと普通の天気だ。」
ここ一週間の真夏の雪を思い出しながら、砂の掃除を中断し、砂が入ってこないように窓を完全にしめきる。
すると、窓を雨粒が強く叩き始める。
「おっと、今のうちに飲み水の確保を。」
やはり完全に密閉できず、どこからか入り込む湿気た砂に咽ぶ前に展望台内に風を吹かせゴミ箱の中に入れていく。
そして、その砂から水分を抽出してペットボトルの中に入れる。
だが、まだ水は濾しとれる。
「食料確保もこれでしとおくか。」
ぷかぷかと浮かぶ水を家庭菜園のために設けた一角に持っていき、ジョウロのように優しく上からかけてやる。
普段の食事もチャーハンもこの小さな田んぼと畑でとれたものを使って作っている。
小さな菜園場で足りるのか疑問に思われるかもしれないが、少食のためこの小さな菜園場でとれたもので十分だ。
「今日はもう何もできないなぁ。」
頬杖をつきながら外を降り続ける雨に、この男、桜 時雨は白い長い髪をかきあげながら、哀愁を宿した黒い瞳を向けた。
8月3日0時に第3話です。