表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100年後の世界で。  作者: 田村 オクト
【東京】:白い竜との再会
10/10

白とピンク。

「さて、久しぶりだな。」


 家来の姿が見えなくなったところで時雨はクルッと後ろを振り返り白い竜の方を向いた。


「……。」

「また無視かぁ。」


 再度ガックリと肩を落とす。

 これ以上、この白い竜に構ってると心が荒みそうだ、無視されるという点で。

 …帰ろう。


「あの貴族がまた来るとは思わないけど今度は気をつけろよ。じゃあな。」


 クルッと白い竜に向かせた体をまた反転させて、時雨は展望台に帰るために一歩を踏み出した。


「ん?」


 しかし、時雨はまた違和感を感じて足を止めた。

 キョロキョロと辺りを見回すと後ろの白い竜が上空を見ているのに気づき、時雨もそちらを見た。


「えぇー、マジかよ。」


 見たのは大量の竜の軍勢だった。

 青や黄もいるが、赤い竜がほとんどで、それらが物凄い速さでこちらに迫ってきていた、明らかに敵対心を見せて。


「グオォォ!!」

「ガァァアア!!」

「グルォォ!!」


 何百体もの竜が咆哮を上げながら白い竜の側に着地した。


「すげぇ、迫力だな…。」


 竜は10トントラック並みの大きさだ。

 その竜が何百体もいて、さらに鋭い牙と眼光を見せて時雨を威嚇するのだ。

 迫力というか、いっそ恐怖心も通り過ぎて全てがどうでも良くなり、PKの連続使用で既にほとんど力が使えなくなっている時雨はこのまま死ぬのかなー、と思い始めていた。


「キュイーー!!」


 突然、甲高い鳴き声が空から聞こえた。

 見上げると一回り二回り小さいピンク色の竜がこちらに向かってきていた。


「速すぎな気がする…って、なんか俺の方に来てる気がするんだけど…。」

「キューー!!」

「俺の方じゃなくて、確実に俺に向かってる!」

「キュイーーー!!」

「おい、ちょ、まっ!!」


 ーズドオォン!


 案の定、一直線に時雨に向かってきていた小さな竜はそのまま時雨に突進した。

 そして、砂を巻き起こし辺り一面砂埃に覆われる。

 余談だが、人間を一切恐れず突進した小さな竜を竜たちが大人として認めたのはこの瞬間だった。


「……。」


 竜たちが静かに砂埃の中を見つめる。


「……。」


 今度は、死んだんじゃね?、と顔を見合わせる。

 そうしてしばらく待っていると。


「乗っかるなぁぁーー、ぐえっ。」

「キュイーー!!」

「抱きつくなぁぁーー、ぐはっ。」

「キュイキュイ!!」


 砂埃が晴れて一人の人間と一匹の竜の、竜たちから見れば、ジャレ合う姿が見えた。

 しばらくジャレ合いは続き、時雨が立ち上がることでやっと終焉を迎えた。


「はぁはぁ……。」

「キュイ?」

「……はいはい、もう好きにしろ。」

「キュイッ!」


 砂埃から出てくると時雨はこの小さな竜と簡単な意思疎通ができるようになっていた。

 今のは、腕を掴んでいい?、だ。

 腕を見つめて言われればなんとなく察しがつく。


「キュイ?」


 今度は顔を見て何かを訴えてくる。


「んー、それはわかんないな。」

「キュイ…。」

「ごめんな。」


 ピンクの頭を撫でる。


「キュイ!」


 どうやら満足してもらえたようだ。


「ふぅ。で、そこの竜たち。色々質問したことはあるんだけど、まず、俺は敵じゃないからな。」


 隣で目を細めて満足そうに頭を撫でられてる竜を見れば言葉は伝わってるはずだが、…どうなんだろうか。

 時雨は竜を見ると、警戒心はあるが敵対心はなくなったように感じた。


「わかってくれたか。じゃあ、次に質問じゃなくてお願いだけど、その白い竜を傷つけた人間を見逃してほしい。」


 そういうと竜たちはガヤガヤと騒ぎ出し、白い竜を見るものや俺を睨みつけるものもいる。


「勘違いするな。俺はそいつらをかばって言ってるわけではない。現にそこに散らばるものを見ろよ。」


 時雨は腕を持ち上げ後ろを親指で指し示す。

 竜たちはそれを見ると俺から一歩引いてコソコソと話し始めた。


 え、そういう反応するの?

 普通ここは褒めてくれるところじゃないの?

 まぁ、良いけどさ。


「で、あれを作ったのはその逃した人間にここに来ると危険だってことを他の人間にも伝えるためだから、殺されると困るんだよ。わかるよな?」


 竜たちはしばらく考えた後、理解した様で一歩引いた足を元の位置に戻してくれた。


「それで、次は質問なんだけど、どうしてこの竜は俺に懐いてるんだ?」


 時雨は未だに頭を撫でながら、撫でる反対の指でピンク色の頭を指す。


「それはお主が15年前にその竜の命を救ったからじゃ。」

「え、15年前…、この竜…あの時の?おぉ、すげぇ大きくなったなー!」

「キュイイーー!!」


 時雨はピンクの頭を両手で撫でる。

 まだ中型犬のような大きさだった体が今や時雨より大きい。

 時雨は素直に喜ぶ。

 だが、ピタッと突然撫でる手が止まった。


「キュイ?」


 ピンクの小さい竜が首をかしげて時雨の顔を見る。

 その時雨は恐る恐る顔を上げて言った。


「今の誰っ!?」


 あまりにも自然に会話に入ってきたせいで気づくのが遅れてしまった。

 そもそも、竜は人の言葉を喋れないはずなのに質問していた時雨がおかしいのだが、それに答えた人は一体誰なのか。

 あの貴族以外人の気配は一切なかった。

 ということは喋ったのは竜以外考えられない。

 そして、竜が喋るならどれが喋ったのか見当はつく。


「おいこら。なんで今まで無視してたんだ、そこの白い竜。」

「お主が信用に足る人間かどうかを判断するためじゃ。人間は意思疎通が図れないからという理由で同じ人間を放逐したりするからの。」

「それはさっきお前を助けた時点で判断できるだろ。なんで無視し続けたんだよ。」

「それは…私に勇気が出なかったからじゃよ。」


 ほっほっほっ、と品の良いおじいさんのような声で笑う白い竜に時雨はイラッとする。

 何かしてやろうかと思ったが、PKの連続使用で力はまだ使えない。


「お主にこれをやるから、そういきり立つでない。」

「ん?あ、あぁーー!!」

「キュイ?」

「おぉっと、『ルナ』は見るでないぞ。」

「キュイ。」


 白い竜がピンクの竜の目を翼で塞ぐ。

 そして絶叫している時雨にブツを渡す。


「どこでこれを?」

「偶然、砂の中に埋もれてるのを見つけたのじゃよ。」


 時雨が受け取ったのはいつかの行方不明になっていたエロ本の表紙だった。


「人の趣味は人それぞれだが、お主、それがタイプなのか?」


 白い竜が爪で表紙の上裸の女を指差す。

 その女はだいぶ年齢のいった熟女と言われるものだった。

 タイトルも熟女パラダイスという万人受けはしないものだった。

 時雨は白い竜の質問に答える。


「正直、タイプではない。というか、むしろ真反対。若い子の方が全然好きです。」

「じゃあ、なぜ貰って喜ぶのじゃ。」

「それはまぁ憧れだな。当時、紙媒体のこういうものは全部電子書籍に置き換わって絶滅危惧種だったからな。」

「では、そこまで大切じゃないということじゃな。」

「まぁ、そうだな。え、何するの?」

「それ。」

「え、うわっ、あつっ!!」


 時雨は突然燃え始めた表紙を砂の上に落としてしまう。


「あぁ、貴重な骨董品が。どうしてこんなことを…。」


 どんどん上裸の熟女が真っ黒になっていく。

 PKの使えない時雨にはどうすることもできなかった。


「ルナの教育に悪いからの。それは焼却処分じゃ。あと、そこの肉も。」


 時雨の後ろで炎が上がり、鼻をつく焦げた臭いが充満する。


「これで完璧じゃな。」

「そうだな。」


 満足そうにおじいさん声を出す白い竜に恨みがましい視線を送るが効果はないようだ。


「ところで、そのルナっていうのはそのピンクの竜の名前か?」

「そうじゃ。」

「どうして、ルナなんだ?」

「あの日の夜に彼女は産まれ、彼女は弄ばれ、彼女はお主に救われた。だからルナなのじゃ。夜の運命にはぴったりの名前じゃろ?」


 笑って白い竜は言う。


「そうだな。ぴったりだな。」


 つられて時雨も笑みを浮かべる。


「キュイ!」


 白い竜から解放されたピンク色の竜、ルナが時雨にまた抱きつく。


「彼女ってことは、ルナは女の子だったんだな。」

「キュイ!」

「まったく、可愛いヤツめ。」

「キュイキュイッ!」


 またしばらく時雨とルナがじゃれ合う。

 その間に白い竜が他の竜たちに指示を飛ばす。


「グルォォ!!グラァァ!!」

「グルゥゥ。」

「ガル。」

「ガォ。」


 時雨にはわからないが、白い竜は時雨のお願いに従うことと、時雨に手を出さないことを他の竜に指示をした。

 その指示に竜たちはもちろん従う。

 時雨の推測通り、白い竜は長だからだ。

 そうして指示を受けた竜たちは一斉に羽ばたき空へ飛び立った。


「おぉ、これは圧巻だな。」

「キュイ!」

「あれ、ルナは行かないのか?」

「キュイキュイ。」


 首をふるふると横にふる。


「じゃあ、どうするんだ?」

「それに関してはお主に話したいことがあるのじゃ。」

「ん?」


 白い竜がこちらを向く。


「まずは助けてくれたお礼をしないとじゃな。」


 白い竜は前足と後ろ足を器用に折ってその頭を砂につけた。


「遅れてしまいましたが、この度は私を救っていただきありがとうございました。」


 声は変わらずおじいさんだが、のじゃ言葉が消えて雰囲気が変わった。

 どういたしまして、と時雨が言うと白い竜は一瞬笑って話を続ける。


「私は東京一帯の竜を治めている『実験体識別番号001』、コードネームは『ハクア』。」


 ………はい?

 識別番号?

 実験体?


「どういう意味?」

「どういう意味とはどういうことじゃ?」


 のじゃ言葉が帰ってきた。

 だが、時雨はそんなことよりも白い竜、ハクアの口から出てきた理解不能の言葉に戸惑う。


「今の発言全て。いや、東京一帯を治めてることは予想がつく。でもその後のはどういう意味だ?」

「お主、私ら竜がどういう存在か100年近くもここにいるのに知らなかったのか?」

「PKを使える文明崩壊後の新生物…大方トカゲとかヘビがPKで変異した存在じゃないのか…?」

「違う。そうじゃな…一つ、お主のPKが回復するまで昔話を聞かないかの?」

「……、ルナもいるけど良いのか?」

「キュイ?」

「構わぬよ。これからのためにルナにも聞いてほしいことじゃからの。ルナ……、お主、名前は時雨であってるかの?」

「え、あぁ、まだ名乗ってなかったな。俺は桜 時雨だ。」

「うむ、シグレじゃな。ルナ、時雨の隣に座るのじゃ。」

「キュイ!」


 ルナが時雨の隣に座った。

 時雨も腰を下ろす。


「それは110年前のことじゃ……」


 白い竜、ハクアが口を開く。


 話を聞いたら早く帰って寝ようと思っていた時雨は、自身がこの後、約100年を経過した日本列島を巡ることになるとはこの時夢にも思っていなかった。

8月10日0時に第11話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ