証明写真
締め切られた密室の中で震える君は閉所恐怖症
画面に映る君の姿は青ざめていて生気が無い
全く真実を映し出してなどいないのに誰もがこれを君と言う
JRの高架下は騒がしい
間断なく訪れる硬質の響き
ふらふらとカーテンから飛び出す君は浮かない
平常の世界から弾き出されたガラス玉のよう
もしかしたら一生に一度かもしれない大寒波の中
それでも歩いているモノ好きなんて幾らでもいる
雪など降ってくれるのではないかと言う期待は外れた
ただ凍える風を向かい風にして虚しく歩くばかりだ
コートのポケットの中に突っこんだ写真を取り出し眺める
どれだけ睨んでみても現実は変わることは無い
ああした方が良いかこうした方が良いかなどと繰り返す
撮り直すつもりもないのだけれど
開け放たれた世界の中で震える君は対人恐怖症
街角に設置されたウインドウを覗き込む顔には生気が無い
それでもそこに映る顔は真実なのだろうに諦めきれずに口角を上げる
横断歩道を渡る時に白い辺りを踏み込む意識を殺して
殊更に小さな歩幅で歩くことが大人の証明なんて悲しすぎる
些末な悩みを一つ打ち捨てることで子供から大人へと
変われるのならばそれはとても安い話なのだけど
持ち合わせている全てを捨てれば
楽になれると思ってそうしてきたつもりだった
それでも捨てきれないのは諦めきれないのはどこかに
自分が自分で無い何かだとそんな意識を有しているからなのだろう
内向く夜近づくアスファルト冷たく照り返す陽光
朧過ぎて見えない程翳った空の隙間さえ眩く
翳む視界ポケットの中の偽物の自分を掌の中で握りつぶす
目を閉じる深く目を閉じるクラクションの海クラクションの海クラクションの海