エピローグ
朝になり、私は彼に言われたとおりどこかへと運ばれた。そして車が到着した先は、大きなお屋敷だった。
緑色の植物庭園に囲まれたそこで私はこれから自由をなくしていくのだ。飛ぶことも出来るかわからない、創作もない。そんな娯楽のない生活を強制されるのだ。昨日までの私ならば、絶望して死を考えただろう。
だが今は違う。
自分の物語を野に解き放つことに成功したのだ。それも彼に、人間に初めて語った。こんな鳥の戯言を人間が真面目に聞いてくれたのだ。それだけでこの単純だが、過酷な道を進む原動力には十分だった。
私を迎えたのは一人の男と少女だった。中年ぐらいに見えるその男は少女の父親のようだった。彼が私を連れてきた男と話している間、私は飼い主である、その少女との面会だ。
少女の方は十八か十九ぐらいだろう。
「あなたが私の新しい家族ね」
私の新たな主人は私を見るなり、そう言って微笑んだ。優しげで柔らかいく安心感を与えられるが、同時にどこか儚い幼さを残したような不思議な笑みだった。
私はその表情にどこか引っかかるものを感じた。どこだっただろうか、するとある古い記憶が首をもたげてゆっくりと上がってきた。
あの時に見た笑みと重なるのだ。数年前、木の下に私が見た女の子のそれに。
私の創作のきっかけとなった女の子。あの時より身長は伸びて大人びているが間違えない、彼女はあの女の子だ。
その瞬間何とも言えぬ喜びが全身を襲った。たとえ単調な道であったとしても、彼女と一緒ならば、それはただの単調な道ではない。少なくとも何らかの変化を持った道になる。
「よろしくね、金糸雀さん」
私と少女はしばし互いに見つめ合った。鳥籠を挟んで、数年前のように。すると少女はふと驚いたように眉を上げた。
「私昔お母さんが死んでしまって、すごく落ち込んでいた時があったの。その時偶然鳥を見つけて、その鳥に元気をもらったのよ。貴方、その時の鳥に似てるわ」
言いながら自分でも可笑しくなったのか、そんなことわからないよね、と彼女は直後に苦笑した。
私は一つ、肯定するように鳴いた。