表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

5話 聞いてない



「そっそれで、どんなスキルをくれるんですか? 一撃でドラゴンを葬る魔法とか? あっ、せっかくだから空飛べるようになりたいんですけど!」


「落ち着いて下さいませ善宏様。時間はございますので、ゆっくりご説明させて頂きます」


 ルパートさんはそう言うけど、これが落ち着いていられるか! 前世でゲーム会社に就職したのも元はといえば、ファンタジーが大好きで、その世界観を自分で作り出したかったからだ。


 当然異世界転生もののラノベなんかも一通り網羅している私に死角などない! 予行練習は充分だ!


「よしよしいいぞ! 完璧なスキル構成で俺つえーだ! はははは! 怪力幼女もどんとこーい! これで勝つる!」


 などと浮かれてはしゃいでいる僕をルパートさんは、生暖かい目で見てらっしゃる訳で……


「コホン、説明を続けても宜しいでしょうか?」


 黒猫さんのわざとらしい咳払い、ぐぅ可愛い。は、さておき、少し冷静になろう。深呼吸だ深呼吸。すーはーすーはー。


「おっ、オナシャス」


 緊張して思わず淫夢用語を使ってしまった。餅付け俺。


「はて? オナシャスとは何でございましょう?」


 くっ黒猫執事さん。お願いだからそこに食いつかないでクレメンス。


「そっそれはいいんで、続きお願いします!」


「はい、かしこまりました。まずはこれを」


 いつのまにか差し出された肉球の上には、スマホがあった。震える手でそれを受け取る。ずれたメガネをかけ直し、まじまじと観察する。見れば見るほど以前使っていた物と同じ黒色のスマートホンに見える。


「これは?」


「えぇと、少々お待ち下さいませ」


 そう言うとルパートさんは、胸元からメモ書きを取り出して読み上げ始めた。


「失礼しました。それはこの世界での情報を解析したり、案内する超魔道具となりまして、不壊にして不即不離のアイテムでもあります。あくまで原則の話ですが」


「そしてシャノン様によりますとその機械こそが、善宏様の今後を決める大きな力になるとの事です。ではまず電源を入れて画面を触ってみて下さい」


「はい」


 黒猫さんがメモを読み上げ、僕がスマホを操作する光景。なんだこれ。


 スマホが起動して、見慣れたアプリが並ぶ待機画面に……ならないな。いくつか項目があるけれど、クェスチョンマークで隠されているものもあり、全てを選ぶ事は出来ない。うぬぅ、気になるが仕方がない。こういうのは物語の終盤に明らかになるもんさ。


 地味に嬉しいのは、カレンダーと時計だ。ぱっと見この世界は13ヶ月あるみたいだな。時刻は24時間表記みたいだけど。


「選択肢が出てきましたか? それではその中のステータスを見てみましょう。出てきた数値がこの世界で簡略化した貴方様のパラメータになります。しかし、シャノン様曰く、あまり当てになる物ではないとの事なので、目安などとしてお使い下さいとの事です」


「え? そうなんですか?」


「はい。例えば、レベル100の戦士と戦ったとしても、急所に刃を突き立てれば子供でも勝てるでしょうから」


「なるほど確かに」


 要するに、ゲームみたいに徐々にヒットポイントが減って行って死ぬなんてのはないって事か。失血死ならそうなんだろうけどさ。因みに僕のレベルは3で、12歳の少年相当らしい。わーい、若返ったね。あれ? 目から汗が。デスクワークだったからね。しょうがないね。


 ん? 何だ? 


 その時、急に画面全体が光ったかと思うと、一面にコンシェルジュサービスと出た。これを押せって事なのかな? ポチッとな。


 するとスマホは目映い閃光を放ち、その表面上に立体映像が浮かび上がった。なんだこれ、まるでSFだ!


 光の中から浮き出たのは、ルパートさんと同じ黒の執事服に身を包んだ、白猫さんだった。


「お初にお目にかかります善宏様。私、スマホ形多機能操作魔道具に宿りまするコンシェルジュのルーシーと申します。以後お見知りおきを」


 優雅にお辞儀をする様も、ルパートさんそっくりだ。僕が唖然としていると、何故かルパートさんも、びっくりした顔をしていた。え? 何で?


「もしかして、ルパートさんも知らなかったの?」


「はい、私はメモと魔道具を託されただけですので。少々たまげました」


 シャノンさんの説明不足は相変わらずの様だ。そんな中、件のルーシーは僕達を見てコロコロ笑った。


「私もルパートと同様にシャノン様の眷属ですが、善宏様のお役に立つよう申し使わされております。どうぞ宜しくお願いします」


「こ、こちらこそ宜しくお願いします」


「では以降の説明は私がさせて頂きたいと思いますが、いかがでしょうか?」


「えぇそれがいいでしょう。頂いたメモにはもう特に記述がありません。彼女に任せるという事でしょうね」


「じゃあお願いしようかな、ルーシーさん宜しくです」


「はい、承りました。そしてどうぞ私めの事は気軽にルーシーとお呼び下さい。これから長いおつきあいになるのですから」


 丁寧にもう一度お辞儀をした白猫ルーシーは、ニッコリ笑った。声が高いから女の子かな?


「うん、分かったよルーシー、これでいい?」


「はい! それでは始めさせて頂きます」


 ルーシーは、やっぱりとても丁寧なんだけど、どこかルパートさんに比べるとフランクな感じがするので、気軽に名前で呼ぶことにした。視界の端で黒猫執事さんが首をひねっているのが見えた。すんません。印象の問題なんです。


「では重要な事から簡潔に説明をさせて頂きます。こちらをご覧下さい」


 浮かんでいるルーシーの後ろに数字列が浮かび上がった。ちょっと見づらいので、スマホを地面に置いて胡座をかく。側にルパートさんも呼んで、二人? で食い入る様に見た。


「159850ポイント。これが現在善宏様がご利用になれる徳分とくぶんポイントの全額になります」


「徳分ポイント?」


「はい、このポイントを操作すると、この世界で様々な恩恵を授かる事が出来ます」


「そういやシャノンさんが、徳がどうのって言ってたなぁ。僕はそれが多いって」


「はい、その通りです。善宏様は前世で使い切れなかった分がございましたので、それをこちらに移動しまして……」


「ちょっ、ちょっと待って。念のためもう一度説明して欲しいんだけど」


「そうですか、かしこまりました。徳と劫の関係をおさらいしましょう」



「徳とは有り体に申しますと、自分を含めた人間や社会、文化や神に貢献した分が加算されて算出される、天界の指針です。これの大小で、生きている人間は幸運を掴んだり、死んだ者は天国に行ったり、良い環境で生まれ変わったり出来ます」


 そうそう、確かシャノンさんもそんな事を言っていた。あれ? でもそうなるとおかしいな。


「すんません今思ったんですけど、その論理だと僕が前世でブラック会社にこき使われて過労死したのは、変な感じがするんですが?」


「それは良い行いが徳としてカウントされるように、悪い行いはごうとして数えられているからです。基本、この二つは相殺されないとされています」



 ほうほう。要するに良い事をしたら徳が貯まって、悪い事をしたら劫がたまるのね。んでそれらは、生まれ変わっても引き継がれるという話だったね。急展開の連続で忘れてた。


「でもそれって。あ――もしかすると」


「はい。善宏様は前世の時点で、多くの徳分をその前の人生から引き継いでおられましたが、同時に多くの劫も背負っておられたのです。ですが前世での悲劇的環境での死により、劫はほとんどなくなったみたいですね。劫は何らかの形で本人が苦しむ事によって贖われますので」



「なんだそりゃ。でも徳分が残ったから、結果良かったのか悪かったのか。あっでも、そこにシャノンさんが目を付けたという事かな?」


「そういう事になりますか」


「なるほど、リクルートの意味が分かったよ。残った徳分ポイントだけを持って、異世界に移住しませんか? て事なんだろうけど、随分打算的だなぁ」


「私共からは、何とも申し上げられません」


 白黒の猫執事さんがそろって頭を下げた。


「因みに、今回の提案を断って元の世界で生まれ変わった場合、具体的にはどうなってたの?」


「はい、シャノン様曰く、相当な富豪か王族の子として誕生していただろうとの事です。使い切れない程のお金に囲まれ、一生異性にモテ続ける将来が確約されていたそうですよ」



「なん……だと」


 異世界に来て一番の衝撃が僕を貫いた。このうち震える感情をなんと言葉にしたら良いだろう。僕は全身全霊で叫んだ。



「聞いてねーーーーー! 失敗したーーーーーー!」


 青く澄み渡る空に、悔恨の雄叫びが響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ