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27話 宇宙的脅威




「本来ならゆっくりとお相手をしたい所なんじゃが、今は一刻も早く薬を作らねばならん。お許し下され」


「いえいえ、そちらの作業を優先して下さい。なんなら僕で良ければ手伝いますが」


 頭をカキながらそう言うと、興奮した面持ちで長老が迫って来た。



「おおっ! そうかね! そりゃあ助かる! 正直あの薬の調合には少々やっかいじゃで助かりますわい! 今すぐ始めたいんだが構わんかね?」


「はぁ、まぁ大丈夫ですが」


「そうか! では参ろう!」


 長老は言うや否や強引に僕の手を引いて、家を出た先の離れに連れて来た。そこは山小屋の様な外見だけれど、中に入れば全く異なった趣の空間だった。


 薄暗い室内にはランプが1つと得体の知れない植物達。背表紙がボロボロになった本があったり、魔女の家にありそうな竈がある。何よりもスゴイのが、嗅いだ事のない刺激臭だ。それは思わず鼻を摘まんでしまう程で、ファラも同じ様にしていた。器用に両足は僕にしがみついたままだったけど。


「この臭いは何ですか?」


「ふぁっふぁっふぁ! ここにはありとあらゆる薬の元があるのさね。古来より我ら獣人族は魔法の扱いが余り得意では無い、であるからしてその代わりに薬学が発達したという訳じゃ」


「なるほど」


「魔力を内に秘めた草木やモンスターの部位は、加工して使用する事で、驚く様な効果がでる。自然の恵じゃな」


「は、はぁ」


「善宏殿、いかがされたかな?」


 僕の怪訝な態度を見て長老は聞いてきた。


「いや……そのですね。なんか、ごそごそしてるなーと思って」


 僕はさっきから視界の端でチラチラと動く謎生物の影を追っていた。こんな所で何か動物でも飼っているんだろうか? でも獣の臭いはしないんだよな。


「兄ちゃん、変なのいる」


 ファラも流石に気が付いていたか。眉間にシワを寄せながら部屋の一角を睨んでいる。


「おお、もうお気づきか。ちょうどこれの話をしようと思っていた所でしての」


 そう言うなり長老さんは、素焼きの鉢植えをたぐり寄せて、ランプの明かりの下へ置いた。


 目の前には大根の様な植物が3株あった。しかしこれの異様な所は、ゆさゆさと大きめの葉を揺らし、どこからかギチギチと音を立てている点だ。


「これがアルマニチムッシュと一緒に調合させる薬草、マンドレクーダですじゃ!」


 不安になった僕は、懐からスマホを取り出して正体を確かめた。




 マンドレクーダ 35㎝ ナス科マンドレ属の植物


 薬の原材料として特に有名であり、呪術、魔術、錬金術や祭祀の類いにも幅広く使用されている。根茎が幾枝にも分かれ、人型に似たその姿は見る者を戦慄させる。根を引き上げた際に悲鳴を上げる事で有名だが、詳しい仕組みは謎である。魔力の強い密林に自生しているが、近年人工栽培に成功しており研究者や愛好家がいる。そのまま使用すると、幻覚、幻聴を伴い時には死に至る毒性が認められており、注意が必要。しかし特別な下処理をした後は、止血、沈痛、解熱、免疫機能正常化、解毒、瘴気払い等々に幅広い薬効を示し、他の薬物と併用しても副作用が軽くて済む万能薬の元として知られている。




 なんだこの謎生物。宇宙的脅威を感じるぞ、うごごご。


「我ら獣人族に古くから伝わる薬の原材料でしてな、多くの病や怪我なんぞに良く効きまする。ですが1つやっかいな点がありましてなぁ」


 ご老体が優雅に髭を撫でながら仰られる。僕は固唾を飲み込んで次の言葉を待った。嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。



「ふむ、まぁ説明するより直に見てもらった方が宜しかろう。では善宏殿、お嬢ちゃん、これを着けて下され」


「こ、これは」


「耳栓ですじゃ」


「……」


 僕はファラを下ろすと、渡された綿をその小さな耳穴に着けてやり、僕も自分に着けた。


「これでも聞こえますが、まぁ無いよりマシですじゃ。では行きますぞ」


 長老さんはどこからか木槌を取り出して、作業台代わりの切株に置いた、そしてやおら左手でマンドレクーダの葉を握ると、一気に埋まっている茎根部分を引き抜いた!


「ギィイアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」


 奇っ怪な形をしたその根は断末魔の叫びを上げた、なんだコレ! 怖すぎる! しかし村長は、ビビル僕に構う事なくさっと切株の上に人型の根っこ部分を横たえると、手にした木槌を思いっきり振り下ろした。


「ギギャアッ! ……」


 びくんと大きくのたうった後、それは静かになった。木槌には粘りけの強い緑色の液体がべったりと付いており、一層不気味な雰囲気を醸し出す。筋張った根は巧妙に目と口の様に見えるが、今は潰されてぺっちゃんこだ。


 残酷というか何というか、とにかくこれは引く。精神的な値がガリガリ削られるのを感じざるをえない。


「と、まぁこんな感じですじゃ!」


 ニコニコと笑った長老が、事もあろうにさっきまで手にしていた木槌を僕に渡して来たでは無いか。とても嫌だけど手伝うと言った手前、受け取らざるを得ない。


「え、えぇ」


「マンドレクーダはとても有用な薬草なんじゃが、難点がありましての。根を土から引き抜いた時に放つ絶叫があったですじゃろ? あの叫びには魔力が含まれておるのです。着けてもらった耳栓には幻覚防止の薬液を添付してありましてな、普通にあの声を聞くと、卒倒しますですじゃ」


 長老は人型根っこの口部分を指さして続けた。


「そして叫び声が響けば響くほど、その体内に蓄えられた魔力量は減りましてな、薬草としての価値は大きく下がるのですじゃ。ただでさえ人工栽培は天然物と比べ半分以下の性能しか持ち合わせないのじゃから、なるべく外に漏れ出ぬ様にせねばならんのです」


「だから木槌で殴ると」


「その通り。何故か刃物では魔力がダダ漏れになりイカンのです。薬師連中の戯れ言では、マンドレクーダは引き抜かれた瞬間に死を迎える訳じゃから、死因くらいは自分で選びたいのじゃろう等と下らぬ事を言う者もおりましてな。ふぁっふぁっふぁ!」


「ははは、は」


 笑えない。いや顔では笑っているんだけど、心では全く笑えないよこんなの! 不気味過ぎるって!


「獣人族とおしなべて申しましても、色々な種族や生体があるですじゃ。しかしそのほぼ全てが五感、特に聴覚と嗅覚に優れておりましてな、いくら耳栓があるからといっても皆嫌がって、なかなかこの仕事をやりたがらんのです。やれやれ、歳になると木槌を振るのも疲れるんじゃがのう」


「た、大変ですね」


「じゃが、今回は善宏殿が手伝って下さるので助かりますじゃ。村の皆の衆を救うには最低あと30株ほどやっつけねばならんのですじゃが、とてもとてもワシ1人ではまかないきれんのです。しかし善宏殿は線が細い様に見えますが、あの森を抜けて来た猛者であらせられますじゃで、楽々でございましょう」


「あ、あはは、そう、ですかね?」


 ぬぅ。確かにレベルアップで筋力値は上がったけれど、コレをやるのか、僕が。見れば見るほどグロいなぁ。


 僕が躊躇っていたその時、幼い声が聞こえてきた。


「面白そう。お兄ちゃん、ファラやってみたい」




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