表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/34

25話 新兵器




「大丈夫かい? リンス」


「ハァ、ハァ。へ、へいきれす」


 次の日の早朝、僕達は日が昇るのと同時に家を出た。昨日の夜は遅くまでミーティングしてたんだけど、お子様達は早めに寝てもらった。


 あれから僕は徳分ポイントを使って、必要最小限の物を購入した。バングルのレンタルで2000ポイントを前払いして、残り3498ポイント。村に行っても怪しまれない様に、異世界になじむヨーロッパ風ファッションを僕とファラの分、合わせて1200ポイント購入して、残り2249ポイント。これを何に使うか、僕は悩んだ。


「お兄ちゃん、これ邪魔なんだけど」


「そう言うなよ。お兄ちゃんの新しい武器なんだから」


 背中にたすき掛けにした新装備について、おんぶされているファラはぶーたれた。


 そう、残された2100ポイントで僕が購入したのは、この包丁だった。




 鮪切り包丁 正兼まさかね (木サヤ付 本水牛八角柄) 66㎝


 日本料理の繊細さを素晴らしく表現するために生み出された一品。その制作過程は日本刀のそれと同じである。腐敗と刃こぼれ防止の魔法が施されており、? 鉱を丹念に? 鉄と鍛造した刀身は本霞研ぎで本刃付けされ、折れず曲がらず良く切れ、鉄すらも泥を薙ぐ様に絶つ。水牛桂が高級感を醸し出している。




 異世界通販のラインナップを確認すると、その中に武器の取り扱いは無かった。あるのは各種スキルと、日用品や雑貨、衣服に食材、調理器具。特殊な所で家とかだ。望遠鏡とかもあった。


 でもここまで品揃えが良ければ、ロングソードとか武器も売ってくれればいいのにさ。ルーシー曰く、それは規約により無理との事だった。う~む。


 だけど僕は見つけたね、このチートアイテムを。


 本当は調理器具なんだけど、こいつはまさに人斬り包丁そのものだ。見た目は片刃の直刀で、忍者刀やヤクザの長ドスとそっくりだ。違いと言えば、刃元と柄元の閒に刃マチと言う包丁独特の空間があるくらいだ。欲を言えば鍔が欲しいんだけど、それは今度余裕がある時に何とかしよう。


 こいつが今回のリーサルウェポンだ。ファラには不評なんですけど。




「そもそもせっかく外出出来たんだから、自分で歩けばどうなのさ」


「そのうちね」


「なんじゃそら。リンスが疲れたら変わるんだよ」


「んにゅ」




 分かった様な分からない様な返事をして、再びファラは僕の背中で眠りについた。まったくもー。リンスがこんなに必死になってキノコ探してんだから、せめて自分の足で歩いてくれよなぁと思うけど、その実、一番役に立っているのはファラだ。


 例の雄叫び効果が効いているのか知らんが、今朝家を出てから、モンスターにはほとんど出会っていない。時折吹き抜ける風に乗って、ファラの甘い香りが漂うからか分からないけど、効果は抜群だ。途中で2匹のゴブリンに遭遇したけれど、こっちを見るなり向こうがスタコラ逃げていった。はっはっは、戦わずして勝つとはこの事か。愉快愉快。


 リンスは無くした籠を無事見つけて、それを背負っている。中には例のアルマニなんとか……アルマニチムッシュか、それが1つ手つかずで入っていた。


 日の下でまじまじと噂のキノコを拝むと、確かにどう見ても毒キノコだ。茎の部分は白くて綺麗なものの、傘の部分はドス黒い紫色で、黄色の禍々しい斑点が浮かんでいる。毒抜き処理をするからって言っても、食うのかこれを。マジすか。


 厳密には細かく刻み薬湯に付けて、そのダシ汁を飲むらしいんだけど、どう見ても美味そうではない。まぁ薬だから味は関係ないんだけど。


 リンスはその可愛いお鼻をスンスンさせてキノコの臭いを追っている。僕も頑張ろう。


「あっお兄さん! そこは駄目!」


「へ?」


「足下にあります!」


 見ると確かに、踏み下ろそうとした足の下には例の禍々しいキノコがあった。リンスはそれを慎重に摘んで籠に入れ、大きな葉でくるんだ。アルマニチムッシュの持つ胞子は強烈で、少し刺激を与えるだけでも拡散して幻覚を見せるので、リンスは口元に布を巻いている。


 ファラを背負っているせいもあって、採集の手伝いができない。せめて危険が無い様に周囲を警戒しておこう。でもさっきから鳥の鳴き声一つしないのは何故だろう? みんなこの幼女にビビり過ぎだろ。


「んっ」


 むにゃむにゃと小さな口を動かして、背中の子は浅い眠りにまどろんでいる。その右腕に光るのは、例のバングルだ。実はこいつがなかなかの優れものである。


 今ファラの頭には角が無く、背中には翼が無く、腰には尻尾が無い。それはどういう事かと言うと、全ては腕輪の機能だ。


 こいつにはファラの魔族としての身体的特徴を変化させ、魔力を隠すという力がある。ファンタジーのテンプレだけど、やはり人間にとって魔族というのは恐怖または迫害の対象であるらしい。だから外出券とバングルがセットなのは、よく出来た話しだなと思う。


 副作用としては、普段の10~20%しか能力を発揮できないそうだ。因みに外出中勝手にこれを外すとペナルティが発生して徳分ポイントが減るらしいので注意が必要との事。


 しかし弱体化しても今の僕より強いってのが泣けるな。現在ファラのレベルが26で、僕が18だ。ゴブリンとの死闘を経て強くなってもなお、まだ格差がある。


 ルーシーに言わせると初、中級冒険者に並ぶレベルだとの事で、めざましい成長速度らしいのだけど、なんだかなぁ。果たしてファラより強くなって、兄としての威厳を示せる日が来るのだろうか?


 しかし以前と比べれば、格段に身体が軽く、丈夫になった。でこぼこと隆起した木の根の閒を1、2時間歩き続けていても、全然疲れない。ファラをおんぶしていても、リンスを置いていく程だ。気を付けないと。




 家を出てから3時間経った。


 リンスの背負った籠には、大小19本のアルマニチムッシュが入っており、これだけあれば村人全員に行き渡るとの事で安心した。


 少し休憩しようと言うと、リンスは先を急ぎましょうと言う。今この瞬間にも薬を待ち望んでいる人達が居るからと、健気だ。その姿勢に押されて10分程トイレ休憩を取った後、リンスの暮らす村に向けて歩き始める。


 でも2時間ほど経った時、流石に疲れが出始めて歩みが遅れ出した。僕はファラを下ろして、リンスをおんぶする。


「そんな、悪いですお兄さん!」


「僕なら大丈夫だって、ほら」


 遠慮するリスの子を背負う。確かにファラよりは重いが、大した事は無い。


「むぅ、寝てたのに」


 幼い眼をこしこしとこすり、恨めしげに僕を見るファラ。お前さん、どんだけ寝るんだ。


「ご、ごめんね。ファラちゃん」


「いやぁ、お兄ちゃん、ファラと一緒に歩きたいんだ。駄目かな?」


「……しょうがないなぁ」


 そう言うと幼女さんは、まんざらでもなさそうな感じで足取り軽く先頭を歩き始めた。ちょろい。ちょろ可愛い。


 今日は天気が良いな。木漏れ日の差す森の中、粛々と僕達は歩みを進めた。


 リンス達の暮らすトゥーパイ村は、このまま直進で後2時間くらいらしい。初夏の陽気でウトウトとし出したリンスをそのままにして、謎の鼻歌交じりでご機嫌なファラと歩き続けた後、森を抜けた丘の向こうに柵に囲まれた集落が見えた。あれがきっとそうなのだろう。


「着いたよ、リンス」


「っ……はっ! ご免なさいお兄さん! って本当だ! あの村です! あれが私の村!」


 そう言うや否や、リンスは背から降りて駆けだした。よほど嬉しかったんだろう。


「駆けっこするの? よ~し、負けないぞ!」


 それに釣られたどこかの少女が、弾丸の様に追いかけて行った。フォームも何も滅茶苦茶だけど、兎に角早い。流石野生児。


「お兄さんも早く来て下さい!」


「早く! 早く!」


 遠くで2人の女の子達が僕を呼ぶ。なんだか姉妹みたいで微笑ましいなと思っていたら、益々催促が激しくなった。やれやれ。


「また走るのかよ。特にゴブリンに追われている訳でもないんだけどなぁ」


 不満を口にしつつも、爽やかな気分で僕は、彼女達の後を追った。




「ただいま!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ