22話 秘密道具?
「あああ、あの! 優しいお兄さん! 助けてくれて、ありがとうございました!」
ドアが開くと、緊張した面持ちのリスっ娘リンスが立っていた。着てるものはファラのワンピースだな、よく似合ってる。ただファラ用だから短くて、ちょっとミニスカみたいになっているんだが。
「いや、間に合って良かったよホント。でも危ないなぁ。何だってこんな森の奥に1人で来たのさ、死ぬところだったんだよ? って、僕もファラに助けられてるから大した事言えないけど」
自嘲気味に笑うと、リスの子はブォンブオンと聞こえて来そうな程、頭を左右に振った。
「いいえ、そんな事ありません! もの凄く格好良かったデス!」
「いやそれほどでも」
ふんすふんすと鼻息も荒く真っ直ぐな瞳で言われると、流石に照れる。そして何故か不機嫌な顔をしたファラが、僕の後ろに隠れた。人見知りさんかな?
「あの、すみません。助けて頂いた時に、籠を見ませんでしたか?」
「んー記憶にないなぁ」
「そうですか」
そう言った途端、頭頂にある2つのリス耳がシュンと項垂れた。
「大事な物が入ってたの?」
「はい、アルマニチムッシュっていうキノコが入っていたと思うのですが」
「あるまになんとかって何? ルーシー」
「はい、アルマニチムッシュは俗名、幻の幸福とも言われる針葉樹と広葉樹の双方に形成される菌根菌です。食べると頭痛と吐き気を催した後に多幸感のある幻覚を見ます」
「毒キノコかよ!」
「えぇその通りです。しかし特殊な方法で良く煮沸する事により毒性は消え、薬効が生まれます」
「そそそそっ、そうなんです! 実は今、私達の村で流行ってる病気がありまして、それを治せるかも知れないからって、アルマニチムッシュを取りに来たんです!」
「う~んでも、1人で来なくても良いでしょうに」
「周りのみんなには内緒で来たんです。言えば反対されますし」
「そうなの?」
「はい、この森は危険な所だって知ってます。でも病気を治すために先週村の男衆のみんながここに来て、それで……」
「誰も帰って来なかったと」
「そう、です」
リンスは、白いワンピースの裾をグッと握った。俯い瞳から涙が落ちる。
「他にも色々手は尽くしたんですが、やっぱりこの森に賭けるしかないって大人の人達は言ってました。このままだと余計に酷くなるって。そしてとうとうお母さんまでも、その病気にかかっちゃったんです」
「すると、どうなるの?」
「はい、熱が出て動けなくなります。身体が弱い人達の中にはそのまま死んじゃう人もいるんです。長老様が言うには、大陸の方から来た獣人のみにかかりやすい伝染病だそうで、お母さんは元々身体が弱かったから、あたし、心配で……」
そこまで言って、リンスはぽろぽろと泣き出した。
「大丈夫だよ泣かないで。身体が動くようになったら一緒に探しに行こう」
「善宏様、またそのような事を仰られると」
「ごめんルパートさん。でも何とかしてあげられないかな。こう、モンスターを上手く避けられる様な方法を見つけてさ」
「そんな都合良くは……」
「いえルパート、可能性はあります」
「ルーシー、それは本当なの?」
「え? マジで?」
驚愕する黒猫さん、そして僕とリンス。
「はい。モンスターは人種を知覚すると無差別に襲って来ます。ですが例外もあるのです」
「ほほぅ」
「それは己を上回る強者です。知能の低い者達でも、相手の宿る魔力を潜在的に感じる事は出来るとされています。故にレベルの差が開いていれば、襲撃の危機は減ります」
「なるほど。でも僕のレベルは上がってもたかが知れてるし、具体的にはどうしたらいいんだろう?」
「そこでファラです」
「へ? この子?」
僕は後ろに回り込んで、すっかりと大人しくなったファラをちらりと横目で見た。
「はい。善宏様等を救ったあの咆哮は、この森に絶対の強者が居ることを知らしめました。声にも魔力が籠もるからです。周辺のモンスターで、彼女の前に立とうとする者はいないでしょう」
「そら凄いなぁ。確かにファラが居れば安心なんだけど、結界の外に出られないんじゃな」
僕が嘆息すると、ルーシーの間延びした効果音が室内に広がった。
「ぴかぴかぴかん! てってれてってって~れ~て~!」
そして白猫さんは、胸元から1枚のチケットを取り出した。なんぞ? その秘密道具。
「が~い~は~く~け~ん~っ!」
またかよ! 日本の国民的猫型ロボットのモノマネをしても、僕以外に分かる奴は居ないぞ、ルーシー! そしてやはり僕はつっこまん、つっこまんぞ!
「そ、それは何だい?」
平静を保ちつつ、何とか震える口を動かして聞いてみる。
「よくぞ聞いてくれました!」
そら聞くよ。
「これぞ、期間限定ではありますがファラを外出させる魔法のアイテムです! 今回はこの二泊三日外出券をな、なんと! 特別に進呈したします!」
「お……おお~っ! それ凄くない!」
何という事だ、あのポイント魔のルーシーがタダでそんな良い物をくれるだなんて。これがあれば、小さな家で暮らして来たこの子に、ちょっとは広い世界を見せてあげられるぞ。
「ルーシーありがとう!」
僕はチケットをもらおうとして手を伸ばすと、何故か白猫さんはパッとそれを後ろ手に隠してしまった。
「ですが、それには条件があるのです」
「なにぃ!」
「続けてご紹介致しますのは、こちら! じゃじゃん!」
にっこにこな猫さんの手には、先程のチケットではなくて、銀色のバングルがあった。シンプルなデザインで金色の文字がびっしり書き込まれてあり、なかなかにオシャンティー。どっちかって言うと女性物かな。
「その腕輪がどうしたの? ま、まさか」
嫌な予感がする。これはもしかして、通販でありがちなあのパターンか?
「はい、多分その通り! こちらの商品をお求めになる事で、外泊券も一緒に付いてきます!」
「嫌な予感的中だよ! そのものズバリだよ! こちとらポイントなんかもう無いんだよ!」
「まぁまぁそう言わないで、出血大サービス、採算度外視、利益還元キャンペーン実施中の目玉商品なんですから!」
「どぇも、お高いんでしょう!」
こうなりゃやけだ、半ギレで聞いてやる。
「いえいえ今回は特別に頑張りました! そして気になるお値段は!」
「こいや!」
「20万徳分ポイントになります!」
「んなもん払えるかぁぁぁぁぁぁ!」