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花筐:狼獣人視点

狼獣人の名前はシリンガ。



 獣人のつがいは、生まれたときから決まっている運命の相手だ。一生かかって、一割が出会えるかどうか。出会えば衝撃が走ってわかるそうなのだけど、真剣に探すやつはそういない。出会えた奴らをうらやんで、奇跡だと祝福しつつ、自分はそれなりの幸せを探すのだ。


 しかし、オレは出会った。

 出会ってしまった。運命の相手と。

 彼女は露天の動物商に捕まって、ちいさなかごに押し込められていた。ああ、言っておくが、オレが獣人だからといって知性を持たない動物に運命を感じることなんてないので誤解しないように。しかし、なので、自分に湧いた感情におおいに戸惑った。彼女は妖精だった。

 妖精族は、みかけこそ小さな人間族だが、知性はない。しかし彼女の瞳にはきちんと理性の光があって、オレは自分の直感を信じることにした。見れば見るほど愛おしく、彼女がつがいだということは間違えようがない。ただ、友人には呆れられ、間違いだと断言もされた。


「いままで他の種族がつがいになったことはあっても、それはつがえる範囲のことだろ? そもそも妖精となんて子作りもできないんだし。シリンガの直感狂いすぎだろ」


 かっこわらい。もちろん殴った。

 言っていることはわかる。もとが獣のオレたちにとって、運命とか愛情は性欲に直結するものでもあるのだ。つがえない相手を「つがい」と呼ぶなんて、オレだって愚かだと思う。

 それでもオレのつがいは彼女なのだ。彼女を見てから他の女に魅力を感じない。溜息が出るけれど、満たされた心地もある。自分の反応は、つがいを得た雄のそれに相違ないのだ。

 ほんとう、なんで彼女なんだか。自分のてのひらにすっかり乗ってしまう大きさの相手に愛おしさが湧くのは、自分でもなんだか変態っぽい。会話もできないしなあ、机の上に乗せたかごをそっと撫でる。触りたいけど触ったら壊れそうだ、羽なんて薄いしオレの力は強いし。言葉も通じてないようだから、きっとこんな狭いところに閉じこめるオレを嫌っているだろう。妖精族につがいの概念はない。

 彼女をつがいと知ってから、異種族のつがいとか妖精族についてとか、必死に調べている。しかし「つがいが異種族の場合、相手はこちらほど強い気持ちを持たない」そうだし、妖精族については生態すらいまひとつ。彼女はぜったい知性があるはずだけど、知性がある妖精族の情報だって見つからなかった。


「せめて言葉がなあ、通じれば」


 彼女の髪は白銀で、オレの溜息にきょとりと瞬かせる瞳は菖蒲色。どうしたの、とでも尋ねるような動作だ。かわいい。長い鼻っ面を机に伏せて、上目で彼女を伺う。妖精族も服を着るけれど、彼女のそれは葉や花を纏うものじゃなくて、丈夫な端切れを使っていた。市販の服を、妖精族は自分で着られないはずなのに、彼女は少し戸惑ったあとに自力で着て見せた。そうやって知能の片鱗を見せるから、やっぱり間違いだなんて思えないのだ。

 しかし、どうやってつがえというのやら。やっぱり天の采配ミスで、つがいに出会うだけで一生ぶんの運を使い果たしたというのか。つらい。泣きそう。でもだからといって出会わないで九割の幸せに混じりたかったかというとそんなことはなく、一度出会ってしまったらもうだめなのだ。いなくなったら耐えられないと思う。想像だけで死ぬ。

 なまじっか目の前にいるのに触れられないせいでつらくなっていると、ふっと、鼻筋が撫でられたような気がして閉じていた目を開いた。かごの隙間から彼女が手を伸ばしていた。

 彼女が、手を、伸ばしていた。


「!?」

「……?」

「!!?!?」


 小さな手が、オレに触れて……!

 ぐわわわわと沸き上がってくる衝動そのままにかごを抱きしめる、と、彼女は驚いてぱたりと飛び上がった。


「……っと、驚かせてごめん。大丈夫か?」


 ぱたぱたり。羽が羽ばたいて、菖蒲の瞳がこちらを見る。やっぱり言葉は通じていない。表情や動作の意味もよくわかっていないように思う。ただ、妖精族は感情を察せるそうなので、彼女を愛おしく思う気持ちは伝わっているんだろう。それはうれしいことだ。

 狼獣人特有の鋭い目をへらりと崩してかごを置き直す。そっとかごを撫でると、彼女が近寄ってきて指先に触れた。悶えそうになったが隠した左手を強く握りしめてこらえる。

 編み目の隙間から伸ばされる手はオレの指一本よりも華奢で白く、ほんの小さな感触がたまらない。なんだかうれしそうなのが尚更うれしい。


「はあ……かわいい……。愛してるよオレのつがい……」


 オレもう変態でもいい。

 うっとりとその指先を眺めていると、彼女はまっすぐにこちらを見て、考えるように唇をツンとつきだした。かわいい。しぬ。だがしかし悶えたら手が離れてしまう。ぎりぎりと歯をくいしばって、さらに机につっぷして、右手に触れるささいな感触を存分に堪能する。

 その状態でもちらちらと彼女を見ていると、彼女もまっすぐにこちらを見て、そして手の毛を軽くひっぱった。なんかもう彼女が積極的すぎて、悩んで落ち込んだオレへのごほうびかと思う。ありがとう神様。今日が命日ですか。菖蒲の瞳とじっと見つめ合う。彼女がちいさな口をかぱりと開けた。




「あー、ぃ、してる、よ?」





 あっやっぱり今日命日です?










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