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従者?が現代モノだったら(クリスマス)

セリーは普通の女子高生、落合芹。異世界とか転生はナシです。



芹は目の前に立つ美青年を、帰り支度をする手を止めてまじまじ見上げた。机を挟んで向かい合うかたち、つまり自分に用があるとみて間違いない。

金髪にガラス玉のような緑の眼をした彼は、たぶん九月に隣のクラスに転入してきたネヴィルくん。超絶美形外国人が隣のクラスに!なぜうちのクラスじゃなかった!と憤る友人とともに見に行って、同じような人垣で見つけられなかったそのひとだろう。

嬉しそうな満面の笑みに、芹は照れるより混乱した。あいさつどころか、まだ、廊下ですれ違ったことしかない。教師だって用事を彼に申し付けはしないだろう、この学校に来て三ヶ月といえどまだ全員に遠慮が見える。となると、なぜこんな平凡女を見に来たのかわからない。

クラスメイトたちは、彼がやってきたときこそ騒然としたものの、一直線に芹のもとに向かう姿に戸惑い、今は固唾を飲んで見守っている。

中途半端に開いた鞄を、じじっと最後まで閉じる。無駄な抵抗はやめろー!と芹の脳内で拡声器が使われる。しばしの無言。立てこもり犯なら取引に応じる程度には諦めたが、表情を取り繕う余裕はなかった。


「ええっと、カーターくん?」

「ネヴィルで構いませんよ、落合さん」

「ネヴィルくん」


外国人なので、名前で呼ばれ慣れてるのだろうと芹は納得した。海外ドラマで苗字で呼び合うひとびとが浮かんだが、無視。

そこで芹は首を傾げた。


「あれ?なんでわたしの名前」

「この学校に来て一番に覚えました、落合芹さん」

「え?あ、冗談?そういえばネヴィルくん日本語じょうずだね?」

「お褒めいただき光栄です。覚えた甲斐がありました、落合さんと話せるのですから」

「あはは」

「ふふ」


戸惑いながらも記憶を浚う。

例えば、幼稚園の時に虐められてる外国人の少年を助けなかったか?例えば、SNSで知らない男性と親しくなったことは?例えば、例えば。しかし、浮かんでくる"実は初対面じゃなかった過去の邂逅"ネタに心当たりがひとつもない。まったく自慢にならないが、芹が外国人と話した最初で最後のことは小学校のALTだ。

用事を推察できない。となれば、聞くしかなくなる。

芹が今まで接した誰とも比べものにならないほどの美形に、じわじわ汗が滲んでくる。後光が見える。天使かなにかだろうとそのサラサラの髪を見て思った。

天使、そうか、天からの用事かもしれない。

落ち着いて見える芹の脳内は大混乱で、よく見ると目がひどく泳いでいる。遠くの友人が、羨ましさと同情を複雑に混ぜ込んだ視線をよこしていた。思考回路に堰が出来て、浅い部分しか働かない。口を開く。


「ところでどうしたの?神託?」

「神の声より落合さんの声を聞いていたいですね。落合さん、冬休みの予定は?」

「冬休み?年末年始はおばあちゃんち行くよ?」

「そうですか。新年を共に迎えることができずに残念です、日本では新年は家族のイベントなんでしたね。」

「うん、……うん?」


芹の言動にもネヴィルは一切の戸惑いを見せない。口に出してすぐに変なことを言っていると気付くので、そんな態度にも困惑が募る。そして芹が祖母の家に行かなくともネヴィルと過ごす選択肢は一覧に載らなかった。

なんだかいろいろ言いたいが、初めて話す相手にどれだけ口にしていいものかわからない。結局芹は疑問を噤んで、話を続ける。話の結末を急いでほしいがために、ネヴィルの予定は聞き返さない。


「それで、冬休みになにかあるの?」

「ええ、本当は新年を共に迎えたかったんですが、ここは日本に合わせましょう。」

「郷に入っては郷に従えって言うもんね?」

「落合さんの言う通りです。貴女のやりやすいように合わせますよ」

「あなたの……相手の?うんうん、相手に合わせるのは大事だよね」


なんだかものすごく自分を優先すると言われているような気がしたが、多少は日本語を間違うこともあるだろうと芹は納得した。日本人が日本語を使ったって誤解を与えるのだ、外国人なら尚更のこと。

それで結局、何の用なのか。芹はネヴィルをじっと見上げる。するとその白磁の目元が少し赤くなったように見えた。気のせいかもしれない。

しかし恐ろしいことに、彼は照れたように目を伏せる。色素の薄い睫毛が長いのに、女子のようには見えない。やっぱり天使かなにかでないのか。

ネヴィルはちらりと芹を見、それから彼女の鞄についた黄色いモンスターのストラップに視線を止めたように見えた。


「日本では、クリスマスが恋人の日なのでしょう?落合さんは、クリスマスに予定はありますか?」

「え、夜に家族とごはん食べるくらいだけど……」


なんだかまるでクリスマスに誘いたいみたいじゃないか、と思った芹のその通りにネヴィルはエメラルドグリーンをきらめかせた。澄んだ色の奥に、熱量を持った感情が透けている。

少女のように、それでいて艶やかに、青年は頬を染め微笑んだ。


「では、クリスマスの日、どこに出掛けるか決めましょう?」


まだ誘ってもいないのに出掛けることは確定された物言い。罰ゲームなんだろうか。何を言ってるの、と笑いとばして終わり、の、はずだったのに、芹は何故かこくりと頷いていた。

魔法にかける魔女の目のように、その瞳は剣呑な代物に見えた。





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