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バレンタインはしばしお待ちを:守谷


 バレンタイン当日の日曜日に、仲の良い女の先輩に「会える?」と聞かれたら、ふつうは貰うことを期待するんじゃなかろうか。

 蛇みたいな顔をして鋭い目をぎんぎらさせている友人が、通りがかりの女子にビビられるのもお構いなしにレシピ本に熱中しているのを見ながら岡は思った。

 友人、こと、守谷嗣春。眉が薄く、一重の鋭い目付きで色白で、蛇顔代表みたいな冷たそうな顔をして、さらに寡黙無表情。付き合ってみれば案外愉快な人間だと岡は思うけれど、付き合うまでのハードルがどうも高いらしかった。持って生まれた雰囲気だろうか。動物好きなのに野良猫に怯えて威嚇されて落ち込んでいたり、子供好きなのに泣かれるから幼稚園や公園のない遠回りで帰っていたりするのに。

 そしてそんな守谷のギャップの一つに、お菓子作りが趣味、というのがある。守谷以外に幽霊部員しかいない料理同好会で、月に一度なにかしらのお菓子を作っているそうだ。岡も何度か食べさせて貰ったが、市販品と遜色ない出来映えであった。


 日曜日に会うという先輩、飯塚明里ともお菓子作りをきっかけに知り合ったという。

 岡は話したこともないけれど、遠目から見る明里は小柄でふわふわしていて、守谷と並ぶと蛇に捕食されそうなリスを思い浮かべてしまう。

 それが案外剛胆らしく、夏を過ぎたあたりからよく話す姿を見かけるようになった。年上の癒し小動物系と親密になるとはうらやましい。ではなく。


「何度もふたりで会ってて、ふたりで出かけたりもして、バレンタインに会う約束までして」

「……ん?」


 ぼやいた言葉は聞こえたらしい。熱心に見ていたレシピ本から顔を上げて、無表情のまま首を傾げた。


「いやーあ、気にしなくていい。で? 決まった?」

「んん……とりあえずガトーショコラ、と、ムース。先輩は好きだ」

「ガトーショコラが?」

「ムース」


 岡にはどちらもどう作るかわからないが、名前は知っている。おいしいやつだ。しかしバレンタインに男から貰って食べるのはむなしいに違いないので、「くれ」とは言わなかった。

 ふたつも決めたくせにまだ本を見て悩んでいるので、今度は一緒にのぞき込む。と、開いていたのはラッピング特集ページ。


「一緒に食べるんだろ? ラッピング?」

「綺麗なほうが」

「喜ぶって? まあそうだろうけど。でも気にしないだろ。それより部屋じゃね? 片づいてる?」

「普通」

「あんまり気合いいれすぎても微妙だしなあ」


 言うとむっと眉が寄った。ただでさえ不機嫌そうな顔が怒りを湛えているように見える。つき合いの長い岡はただ「おっ」と思うだけだったが、後ろで女子が小さく悲鳴をあげていた。


「えっ、なになに、気合いいれてた?」

「まあ」

「もしかしてキメるつもりで!?」

「なにを?」


 なにをってそりゃあ。にやにや笑ってしまいそうなのをこらえて、岡は微笑んだ。


「告白?」


 さらに眉が寄った。無言のままだが肯定を感じて、「そうかそうか」と頷く。結果の想像できる他人の勝負ほど楽しいものはない。そりゃあ一大事、頑張れと応援する代わりに詳しい告白プランを聞くことにした。

 彼のアドバイスがどう活きるか、月曜の報告が楽しみである。






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