わたしのお墓参り
夏休み最後の日曜日
毎年この日は私のお墓参り
妻と子供たちは雑草が伸び放題の
私のお墓を綺麗にしてくれる
暑いのが苦手な妻は
朝早くから眠そうな子供たちを
連れてやってくる
去年はそうだったけれど今年は…
やっぱりそうだ
まだ日が昇る前
麦わら帽子の親子がやって来た
「うわぁスゴイ伸び様ね
暑くならないうちに、頑張ってキレイにするよっ」
早寝早起きで、いつも朝から元気だった妻が言う
毎年のお墓参り第一声のセリフ
子供たちは何も言わずしゃがみこんで
草をプチプチむしっている
いや
今年はちゃんと抜いている
2人共もう5年生だもんな
双子の姉“凛りん”は
妻と同じように端っこから小さい雑草も残さずに
弟の“隆たか”はでっかい草を引っこ抜いている
「おかあさん 抜いた草はこの袋に入れるよ
隆、抜いた草の土はちゃんと落としてよっ」
凛が荷物からごみ袋を出してテキパキ片づけている
ほぉっ1年でこんなにしっかりするのか
隆はまだ眠いのか
ムッとしながら土をはらっている
2人とも元気そうで
お母さんを助けてくれて良かった
私がこのお墓に入ったのは5年前
突然の別れだった
何の整理もつかないまま
離れてしまう世に後悔、未練を残した
まだ幼稚園に通っている子供と妻の事が
何よりも心残りだった
世間知らずだった妻が1人で子供を育てていけるのか
49日最後の日まで泣いていた妻を心配し、申し訳なかった
5年間
人間はここまで変わるのか
きっとたくさんの苦労をしたんだろうな
妻はたくましく仕事、子育てをしているようだ
今年はどんな報告をしてくれるかな
隆は抜いた草を袋に集めながらおねだりを始めた
「おかあさん がんばって草抜いたんだから
プレステ4買ってもいいでしょ
もうお小遣い貯まったから」
へぇ もう4まで出てるんだ
隆はどんなゲームをするんだ
「モンスターをみんなで狩るゲーム
みんなやってるんだよぉ」
みんなって何人だよ?
「颯太と裕也ぐらいでしょ!」
凛がすかさずつっこむ
「凛はうるさい
ねぇおかあさんいいでしょぉ」
隆はまだまだ甘えん坊のようだな
「お父さんが良いって言ったらね~」
妻は立ち上がって軍手で汗を拭きながら笑って言った
「お父さんダメよ 隆は今成績悪いんだから
算数のテスト45点だったんだよ!」
凛が私の方を向いて言っている
45点は良くないな…
ちゃんと宿題して、予習復習すれば
もうちょっと点は取れるぞ
「私は90点 ちゃんと勉強したからね~」
凛はムクれた隆の方をチラっと見ながら言った
「ほら軍手取って おとうさんに報告するよ」
3人並んでしゃがみ手を合わせた
雑草がなくなり、お花でいっぱいになったお墓
そういえば家でもお花が絶えることがなかったな
生きている時は気にも留めなかった
妻が報告してくれる生活は
年末にするTVのニュース特番のように1年間を凝縮してくれている
きっともっと悲しい事や辛い事や腹が立つことやいっぱいあって
私に話したいこともいっぱいあっただろう
だけどそんな事はなかったように
最後は笑って「また来るね」で終わる
5年前は一緒にいて
悲しい事や辛い事や腹が立つことも共有できたのに
私は何をしていたんだろうか
何を生きていたんだろうか
凛は水泳を頑張っていることを
隆はプレステ4を買ってもらえるお願いを
私に言った
凛 お父さんも水泳は得意だったんだ
練習休まずに続けろよ
隆 夏休みの宿題はできたか?
宿題と予習復習ができるならプレステ4買ってもいいぞ
2人ともお母さんを助けて
そしていつまでも仲良く
お父さんが出来なかった分も…
日が昇って暑くなった墓場
3人が背を向けて帰っていく
妻が持っていた荷物を1つづつ
凛と隆が取り
凛が言う「お父さんがお母さんの荷物が重そうだって」
そして隆が言う「お父さんがプレステ買ってもいいって」
「そうね今年もお父さん泣いてたね」
妻が笑う