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彼は一番が好き

作者: 久遠藍

 ある日のこと。

 ガラスの破片を拾った。

 踏まなければ見逃しているような、小さい小さい破片だった。


 私はすぐにそれを捨てた。

 何の破片なのか皆目見当もつかないから、取っておく意味など無いと思って捨てた。

 それに破片は踏んだとき、結構痛かったのだ。


 それから2日後。

 また破片を拾った。

 やっぱり何の破片なのか見当がつかない。

 だから捨てた。

 でも、やはり何の破片なのか気になったので確かめてみたが、何も欠けていなかった。

 一時間が無駄になった。




 一週間程して。

 また破片を拾った。

 この前のことは忘れ去っていたので、迷わず捨ててしまった。

 それに今日はゴミの日だった。

 破片の入った袋が回収されたであろう頃、唐突に思い出した。

 取っとけばよかった。

 ほんの少しだけ後悔した。


 それからというもの。

 破片は不定期にしかし必ず私の部屋で見つかった。

 なんとなくティッシュの空箱に破片を入れておいた。

 一年も経つと結構な量になった。

 塵ならぬ、破片も積もれば山となる。

 文字通り小さな山を成した破片達は、それでも何なのかは未だに分からなかった。



「なあ、これ組み立てていい?」

 了承も得ずに彼は接着剤を買ってくると、勝手に破片を組み立て始めた。

 私も拒否はしなかった。

 使い道のなかった破片達が彼の暇つぶしになるのなら、一石二鳥というものだ。

 娯楽の少ない私の部屋。

 なにしろテレビも無いのだ。


「一番大きな破片を中心に組み合わせていくんだよ。地道だけど確実だし、実は一番の近道だ」

 楽しそうにそう言うと、彼はまた組み立てに集中する。

 こうなると彼は止められない。

 ピンセットを駆使して破片を組み立てている彼を眺めるのにも飽きた。

 立ち上がって、破片が落ちていないか探すことにする。

 最近は破片が一度に複数見つかることがある。

 丁度、彼が破片を組み立て始めた日からだ。


 そのせいか破片を探すのが楽しくなってきた。

 もともと私の部屋には娯楽が少ないのだ。

 今日も破片が3つ見つかった。



「何ができるかはお楽しみ。完成するまで教えないことにするよ。でも一番に教えてあげるから待ってて」

 そう言い残して、彼は組上がってきた破片達を仕事場へ持って行ってしまった。

 つまらない。

 これでは確かめようがない。

 仕方がない。

 ………………。

 それでは彼の作業が進むように破片を探そう。

 私にしか見つけることの出来ない破片。

 何処からともなく現れる不思議な破片。

 幾つあるのかも分からない。

 そして何の破片なのかもやはり分からない。

 彼が組み立て終われば、この不思議達は解けるのだろうか。

 その疑問の答えすら、今は分からない。



 そして数日後。

 破片はピタリと出現しなくなった。



「大変だったよ。そこらのパズルなんかよりよっぽど難しい。今までで一番の難しさだった」

 そう言う割に彼は晴れやかな顏をしていた。

 破片が無事に組み合わさったとのことだ。

 私の手を引いて、テーブルの上に鎮座ましましている包みへと導く。


「素晴らしいものだよ。君もきっと一番のお気に入りになる」

 包みを渡され、私はいそいそと紐を解いた。

 現れたのは――――――。



 私の部屋だった。

 小さな小さなガラス製の私の部屋。

 ガラスでできた箱庭というべきか。

 とにかく精密で素晴らしくて、ガラスでこんなものが作れるなんて信じられなかった。


「この部屋からの贈り物だよ。一番妥当な可能性」


 ふふふと笑う彼こそが部屋の代弁者のようで。

 ちょい、ちょい、ちょいとガラスの三ヶ所を指差した。


「一番、二番、三番。君に捨てられた可哀想な破片」


 それでも皹だらけの箱庭は美しく、私はそれを眺めるのが娯楽になった。






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