前編
この作品は、「小説家になろう〜秘密基地〜」掲示板の「即興小説を書こう!」スレッドから生まれました。全ての著作権は作者様に属します。
「冬・雪・マフラー」
作者・更紗ありさ(W3245A)
「携帯・メール・クリスマス」
作者・影之兎チャモ(W6270A)
「山・乙女・魔法」
作者・AKIRA(W7051A)
「夜中・畳・絵本」
作者・影乃兎チャモ(W6270A)
「空腹・世界・娘」
作者・マグロ頭
◇◇◇◇◇◇◇
「冬」「雪」「マフラー」
作者・更紗ありさ
−−−−−−−
「――あ」
マフラーを編んでいた手を止めて、僕はふと窓の外を見上げた。
紺色の作り物みたいな空には銀の月だけで、星は一つも見えない。晴れているのか、いないのか。天候さえも曖昧に隠した夜闇に、突然白い光が落ちてきた。
「雪だよ、サエ」
「本当。もう冬なんだね」
雪は蛍のように淡い光を発しながら、はらはらと空を舞っている。
その様子を楽しげに見ていたサエは、ふと僕が編んでいるマフラーの端を軽く掴んだ。ピンクと黄色――彼女の好きな色で編んだマフラーは、秋頃から頑張ってきたせいか、もうすぐ完成しそうだ。
彼女の満足そうな笑みに、思わず僕もにこりと微笑む――が。
「早く編み終わってね。クリスマスのデートにはそれをしたいんだから」
その彼女の何気無い一言に、僕の顔が少しこわばる。
彼女の事は好きだ。大好きなんだけれども……
「……うん。でも」
立場が逆じゃない……?
そう続けようとして結局飲み込んだ僕と、とても嬉しそうな彼女を、雪の明かりが優しく照らしていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「携帯」「メール」「クリスマス」
作者・影之兎チャモ
−−−−−−−
本日は開校記念日。ごろついていたら、携帯が震えた。
めずらしい。休日にメールなんて。予定は平日に決めるし、急な呼び出しは大抵電話。誰かと目を通し、途端に、心臓がはねる。
片想い中の女の子だ。内容は更に鼓動が激しくなるもの。
「クリスマス空いてる?」
え、俺に恋人がいないことは知っているはず。もしかして誘われてる?
どぎまぎしながらメールを返す……空いてます。
すぐに返ってきた。
「クラシック好き?」
まさか誘われているんじゃ!?
もちろん俺は即答した。大好きです、と。
彼女の返事も即答だった。
「コンサートに行きません?」
キタよ、間違いないよ! 俺は思わず部屋中を乱舞した。ようやく春が来たのだ。震える手を押さえ、もちろん、と押す。
「よかった、急にバイトが入って困ってたんです。私の彼が相席することになりますけど頼みますね」
……その日から俺の長い開校記念日が始った。
◇◇◇◇◇◇◇
「山」「乙女」「魔法」
作者・AKIRA
−−−−−−−
いつからだろうか。このうら若き乙女に恋をしたのは…。
登校の時に会う名前も知らない彼女はいつも同じ時間、同じ電車、同じ車両に僕と乗り込む。
何気無い仕草に心奪われ、魔法に掛かった様に視線を彼女に向けたまま固まってしまう。
別に美女という訳ではない。胸の二つの山も申し訳程度。スタイルも何ら特別な所はない。
なのにどうして彼女がいいのか、自分にもわからない。自分で言っていて意味が分からないが。
ただ本当に言えるのは、この胸の高鳴りは嘘じゃない。
彼女が好きになった理由を彼女が卒業するまでに見つけることが出来るだろうか。それも分からない。
◇◇◇◇◇◇◇
「夜中」「畳」「絵本」
作者・影乃兎チャモ
−−−−−−−
七歳になる娘へのクリスマスプレゼントを男は熟孝した。娘に尋ねても欲しい物などないと言う。そればかりか、サンタは父、夜中に寝室に入るようなまねはするな、と言う。
小学生に上がり、変にませた娘。それならばと余計に力が入った。考えた末、娘が本屋で気にかけていた、吸血鬼の絵本にした。
聖夜、子どもには起きれない時間帯まで待つと、男は娘の眠る和室に忍び込んだ。枕元に絵本を起く。後は妻に自分は寝ていたと証言させ、サンタを信じこませよう。そう思いつつ、娘をみた。
が、そこには娘はいなかった。否、娘によく似た、目が赤く牙の生えた化け物がいた。
「だから言ったのに」
次の瞬間、畳に男の血が飛び散った。
◇◇◇◇◇◇◇
「空腹」「世界」「娘」
作者・マグロ頭
−−−−−−−
「世界は真っ暗だ。世の中は偽善と虚無の友情ばかりで夢も希望もない。つまらないんだよ、基本的に。
なあ、本気で伝えたいことを伝えあえる友人がいるか? 嫌なことを面と向かって言える恋人がいるか? いないだろ。いないんだよ。
……みんな一人なんだ。孤独で寂しくて怖くて……だからみんなに合わせて、嘘の表情と言葉を並べて安心しようとするんだ。
だけどなあ俺ぁ嫌なんだよ、そんな人生。誰とでも真剣にぶつかりあいたいんだ。真剣に向かい合いたいんだよ!
……でもなぁ、そんな生き方したら社会から弾き出されちまうんだ。あいつはおかしい。異常だ。気持悪いって。こないだ娘に言われちまったよ……父さん、うざいって、どっか消えてって。昔はあんなじゃなかったのになぁ……いつの間にかあんなになっちまって……。何だかチャラチャラした男と付き合ってるし……。
……なあ、俺がおかしいのか? 本気で向き合うことは駄目なのか? あぁ……チクショウ……! もう何を信じたらいいか分かんねえよ……」
デスクに突っ伏して泣き始めた元上司を慰めながら、早く家に帰って飯を食べたいと思う私だった。