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ドールマスターヒロシ  作者: 我島甲太郎
2.World’s Last Glass Ceiling

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第46話 #ケツ上げ土下座

 100層の入口に転移した俺達が石室の外に出ると、撮影役の立花(たちばな)(かおる)――【踊り子】のカオりんが空中に浮かんだ乳白色のプレートに映るチャット画面に向かって笑顔で挨拶を始める。


「江戸川ダンジョンロビーの会場に集まってくれたみんな、インターネットを通じてDTubeやDチャームで見ているみんな! いよいよ【クレセントムーン】と【いけず石】による黄金大蛇への挑戦が始まります! これまでの集大成をぶつけるつもりだから、応援よろしくね!」


 カオりんがばるんばるんと巨乳を揺らしながら華麗なステップを踏んで【五彩の舞い】を発動させると、パーティー全体に全ステータスを強化するバフが付与されてほんの少しだけ身体が軽くなった。


 俺は筋力に振ってないからそんなもんだが、ダンジョン内に転移した直後に召喚した人形達は初めての強化状態に嬉しそうな表情を浮かべている。


「素晴らしいスキルですね、マスター」

「うむ、モンスターと戦うのが楽しみだ!」

「どらごーん!」


 出発が少し遅れて時間も押しているので、俺達はそのままボス部屋へと向かう。

 100層は1層とそっくりな見た目をした草原マップだが、これまで登場した全ての雑魚モンスターがランダムで出現する危険な特殊フィールドとして広く知られている。


 とはいえ俺を除いた他のパーティーメンバーはここでレベル上げを兼ねた連携訓練配信を何度もしているわけだし、特にこれといって苦戦することもないだろう。


 今は林からやってきた狂気餓狼の群れのヘイトを自己【治癒魔法】で一身に集めた槍と盾装備の魔法タンク伊佐那美と、彼女の背中を守る大盾持ちの物理タンク佐々木三郎太(さぶろうた)が耐えている間に他の前衛が外から囲んで処理しているところだ。


「がんばれー」


 戦っているのは大鎌持ちの壱号くらいで、弐号は後衛の俺達と一緒に周囲の警戒。

 道中での活躍はちょくちょく【魔の指先】でバックアタックを仕掛けてきたモンスターのヘイトを取ったくらいかな。


「ヒロシ、貴様ふざけているのか?」


 またぞろ俺に文句を言っている【風属性魔法】特化型【魔法士】の望月京子が持っている長杖は、八雷神(やついかづち)という【風属性強化】が二つ付与された神器だ。

 70層のボスを2年も周回して手に入れたっていう、俺の業火のタクトの互換武器。


 これで空を飛ぶ鳥系モンスターとか物理攻撃の効かない精霊系モンスターに10万ボルトをバカスカ撃つ――ポロゴンショックみたいになるので視聴者からは不評――ってのが彼女の戦闘スタイルだ。


 風精霊みたいな雷に耐性のあるモンスターには腰に差した3本の短杖――それぞれ【火属性魔法】、【水属性魔法】、【土属性魔法】が付与されている――のどれかを用いることで【魔法士】を最強たらしめる合成魔法による複合属性の耐性貫通まで使えちゃう。


 雷炎の渦とか雷水の激流とか、そんな感じのセンスが問われる派手なやつね。

 【魔法士】は4種類の属性魔法と4種類の属性強化を取得できる関係でスキルポイントがカツカツなので、1つか2つの属性に特化するのが基本だ。


「おいおい、俺が本気を出したら移動どころじゃなくなるぞ。京子だってそれくらい分かってるだろうに」

「がおー!」


 俺はすぐ(そば)に待機させていたゴスロリ服赤髪ロリロリドラ娘の肩に手を置いた。

 本命のボス戦までは【自爆】について口外しないよう厳重にお口チャックさせてあるので、今の参号はロクな言葉も喋れないただの癒し系マスコットキャラだ。


「本番ではきちんと働いてくれると、そう信じているぞ……」

「言っておくが、俺の出番があるのはお前らが下手こいた時だけだ。あの使えない貧乳【忍者】連れて踏破する気だったんだから、当然それくらいは理解してるよな?」

「よなー!」


 白髪婆め、無視すんなし。

 このギスギスとした空気にはきっとロビー会場もヒエヒエに違いない。


 ちなみに【治癒士】の一条マリアは仕事がない時はただの背景だ。

 引っ込み思案な無口キャラだから仕方ないね。


 さて、前衛による狂気餓狼の処理が終わったところで移動を再開する。

 そうそう、余裕がある今のうちに現状のステータスを開示しておこう。


大木土博士 人形使いLv99 [精霊使いLv99] SP:1/0

筋力:1[+1]

魔力:50[+103]*2.4

敏捷:3[+1]

耐久:52[+1](+60)*1.8

幸運:2[+2]


スキル:人形召喚Lv4 霊神の神格 魔力強化Lv2 [火精霊召喚 風精霊召喚 水精霊召喚 土精霊召喚 属性付与 霊神の偏愛 魔力強化Lv4]

装備:防水腕時計【情報共有】 人形師の外套++【魔力強化Lv2】【耐久強化Lv2】 強化繊維の胸当て++【魔力強化Lv2】 登山靴++【耐久強化Lv2】 耐久の指輪Lv15*2

眷属:陶器人形壱号Lv99 陶器人形弐号Lv99 木人形参号Lv99 木人形零号Lv45

パーティー:☆望月京子 魔法士Lv99 藤堂ララ 侍Lv99 佐々木三郎太 重戦士Lv99 立花薫 踊り子Lv99 伊佐那美 貴族Lv99 一条マリア 治癒士Lv99 九鬼菊花 蛮族Lv99


 昨日、京子に【情報共有】で連絡した後、余らせてあった【人形使い】のスキルポイントを1だけ残して残りを【魔力強化】へと振り分けておいた。

 たったの20%しか増えていないから焼け石に水だが、無いよりはマシだ。

 装飾品は電鋼団子虫周回前に装飾品屋で買った中古品だから特に言うことはない。


 次は人形達の装備について。


陶器人形壱号Lv99

装備:農夫の大鎌++【筋力強化Lv2】【魔力強化Lv2】 麦わら帽子++【筋力強化Lv2】 強化繊維のオーバーオール++【筋力強化Lv2】 猛進牛革のグローブ++【筋力強化Lv2】【筋力強化Lv2】


陶器人形弐号Lv99

外装:爬虫人骨のコアリング++【魔の指先】

装備:電鋼の剣 隕鉄の盾++【魔法耐性】 仁王の鎧★【金剛力】【仁王立ち】 白銀の脛当て++【耐久強化Lv2】【耐久強化Lv2】


木人形参号Lv99

外装:珊瑚海蛇の蛇腹鞭尻尾++【受け流し】【範囲縮小】 大顎鰐革のビキニ++【自爆】 吸血大蝙蝠の翼++【範囲縮小】


木人形零号Lv45

装備:業火のタクト★【火属性強化】【火属性強化】 高そうなスーツ


 目新しいのは壱号の猛進牛革のグローブと弐号の白銀の脛当てくらいか。

 いつもの海パン姿だとアレなので零号は高級オークションの時に使ったスーツに着替えさせてある。

 業火のタクトは必要になるまで隠しておくつもり。


 それにしても、俺達も随分と強くなったものだ。

 誰にも自慢できないのが勿体ないくらいだぜ。


―――――


 そんなこんなで2時間弱が過ぎ、俺達はボス部屋の巨大な石室の前までやってきた。

 現在は腹ごしらえがてら最後の小休止を取っているところだ。


 周囲は人形達にしっかり警戒させているので、俺は安心して折りたたみ椅子に座って貰った軽食――貧乳用に兄者が作ったらしいキャラ弁――を食べている。

 正直、【精霊使い】抜きでは勝ち目が薄いことを知っている現場の空気はかなり微妙だ。


 そんな状態でもDTube・Dチャームの視聴者数合計1000万人越えのダンジョン配信は続いている。

 ここは一丁、新参者の俺が率先して質問をぶつけてみるのも悪くないかもしれない。


 そう思い立った俺は、黙々と食事を続けるレイドメンバー全員の顔を見渡した。

 誰がいいかな……よし、まず最初のターゲットは赤備えの全身鎧姿をしている黒髪丸顔のホモ受けしそうなヒゲ面【重戦士】佐々木(ささき)三郎太(さぶろうた)にしよう。


「なあ、三郎太。お前は本当に京子を手伝っても良かったのか? 守るべき家族もいるだろうに」


 大きな石の上に座って愛妻手作りの爆弾おにぎりを片手にインスタント味噌汁を飲んでいた三郎太――荷物持ちは彼の担当――は真剣な顔で答えた。


「わしゃあのう、レインボーヘアが原因で(しゅうとめ)からイジメられていた嫁と子供の脱色手術代を出して貰った恩があるんじゃあ。じゃっで彼女の為ならこの命を捧げようとも一向に構わん! それが薩摩に生まれた九州男児ってもんじゃろう!」

「きっぷのいい男だ。星崎聖夜とかいう他人を食い物にするのが趣味のクソ野郎に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだぜ」

「ガハハ、わしの爪の垢なんて飲んだら腹を壊して全身が水虫になってしまうど!」


 俺は三郎太とは何があっても一緒のお風呂には入らないようにしたいと思う。

 さて、次はチューブトップブラの薄着姿で地面にあぐらをかいている大柄で筋肉質な赤毛の【蛮族】九鬼(くき)菊花(きっか)にするか。


「そんで、菊花。お前はどうして伊佐奈美に付き合ってるんだ。伊佐那岐抜きでは勝てない戦いだって初めから知ってるだろう」


 ちょこんと折り畳み椅子に座って温かい緑茶を飲んでいる清楚な黒髪シスター【治癒士】一条マリアと付かず離れずの菊花は、縮こまるマリアの肩を片手で撫でながら答えた。


「あたい? あたいは一条家の目付役だから。マリアを一人で死地に送り出しなんてした日には、一家丸ごと瀬戸内海で魚の餌さ!」

「あ、そうなの……」

「なあに、勝ちゃいいんだ勝ちゃ! 餓者髑髏(がしゃどくろ)をソロで討伐したヒロシの腕前、期待してるぜ!」

「もちろん、視聴者の度肝を抜く派手なエンターテインメントを披露するつもりだ」


 最後のメインディッシュは巨乳の谷間がよく見える可愛いアイドル衣装に身を包んだピンク髪の【踊り子】立花(たちばな)(かおる)にしよう。


「じゃあ、カオりんは?」


 彼女はしきりに貧乏揺すりをしているが、これは【五彩の舞い】のバフ効果を切らさないようにしているだけなので気にしないで大丈夫。

 皿の上のプリンみたいにふるふると揺れ続けるナイスなおっぱいには、きっと視聴者の視線も釘付けになっていることだろう。


「カオりんはー、難しいことはよく分かんない! 沢山の人に見て貰って、沢山の人に楽しんで貰えたらそれで十分だと思ってる! だって、それがアイドルってものでしょう?」


 カオりんは有名な芸能事務所の新人アイドルオーディションに合格して、悪徳プロデューサーから枕営業に出されたところをラブホ前で偶然通り掛かった京子に間一髪で救われたという奇跡の経歴を持つ。


「そうか……。みんな、教えてくれてありがとう」

「おいヒロシ、アタシには聞かないのかよ」


 俺が話を終わらせようとすると、顔を隠す鬼兜を脇に置いた鎧武者姿の金髪ヤンキー【侍】藤堂ララが(しか)め面で文句を言ってきた。


「ヤクザの孫娘なんて勝手に死ねばいい」

「あ? なんか恨みでもあんのか?」

「あるある、超あるよ。実はな――」


 俺は江戸川ダンジョンのロビー広場や家のモニターの前で張り付いて配信を観ている視聴者の為に間を持たせようと、藤堂会金田組元若頭、現海の家ニコニコの店主、金田(かねだ)(いさむ)との因縁を面白おかしく吹聴した。


「ハハハ、ばっかじゃねーの! だから延々と30層回して例の【魔の指先】装備を拾ったってか! こんな偶然があったなんて笑えるぜ!」


 どうやら俺の不幸話が菊花のツボに入ったらしい。

 彼女は両手で腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。


「そのせいでお前ら鬼女(きじょ)に死ぬほど粘着されたんだからな……生きて帰ったら片っ端から訴訟してやるから覚悟しておけ。あ、XDで両足を大きく広げてお尻を高く突き上げた状態で土下座する画像を投稿したやつだけは許すから『#ケツ上げ土下座』タグ付けて投稿ヨロシクな!」


 無様エロの特殊性癖を持った人妻好きが大喜びしそうなバズネタを提供した俺は笑顔でカメラ目線のサムズアップをしつつ、菊花の隣に座っている伊佐奈美にチラっと視線を向ける。

 すると、彼女はそっと俺から目を反らした。


 ロビー広場登場以降、ずっと俺に熱視線を送っていた京美人ズラしたメンヘラ女も、俺の好感度がゼロを突き破ってマイナスに突入していることをようやく理解したらしい。


「貴様ら、いつまで遊んでいるつもりだ。もう出発の時刻は刻一刻と迫っているぞ」


 一人だけ休みもせずに人形達と周囲の警戒をしていた京子に水を差された。

 まったく、「ケツ上げ土下座」が世界で一番似合いそうなこの高飛車女はエンタメって言葉を知らないらしいな。


 バカ高いグッズを買い揃えて熱心に高額投げ銭をしてくれる養分……もといファンが山ほどいる大人気ネットアイドルのカオりんがいてくれなかったら【クレセントムーン】は100層にさえ挑戦できていなかったってのによ。


「だとさ。お前ら、心の準備はできてるか?」

「おうとも、腹ごなしには丁度いい戦いになりそうじゃあのう!」

「よーし、今日も頑張っちゃうぞ!」

「当然、アタシも死ぬ気で行かせて貰うつもりだ!」

「は、はい……」

「大暴れの時間だ! うらー!」

「ナギくん、待っててな。ウチもすぐ会いに行くさかい……」

「私達の足を引っ張るなよ、ヒロシ」

「俺を誰だと思ってやがる。日本最強の【人形使い】だぜ?」

「前衛はこの私、【農夫】人形のイチゴにお任せください」

「マスターは【剣士】人形のニコが絶対に守り通して見せる!」

「どらごんにんぎょうのサンだぞ。がおー」


 正午12時00分、俺達は大扉を潜って黄金大蛇の待つ巨大な石室の中へと侵入した。

 日本有数の実力を持つ探索者の集まったレイドパーティーが挑む最初で最後の一大決戦、絶対に見逃すんじゃねえぞ!

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