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ドールマスターヒロシ  作者: 我島甲太郎
2.World’s Last Glass Ceiling

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第41話 黄泉路より先へ

 8月の初め、停車したリニア新幹線から京都駅のホームに降り立ったのは、顔を覆い隠すほどに深いフードを被った謎の男だった。

 夏に着るには厳しい長袖の黒いローブを着て、背中にはカバンを背負っている。


「どうして俺が顔を隠さなきゃならねぇんだ……このローブもクソ暑いしよぉ……」


 その男――もう言っちゃうけど俺はグチグチと文句を垂れ流しながら自動運転タクシーを拾い、本日の目的地へと向かう。


 やってきたのは千本鳥居で知られる伏見稲荷大社だ。

 本当は人形達と一緒に観光をしたいんだけど、【いけず石】のホームであるこの辺りは俺のアンチが最も多い危険地帯だから致し方なく我慢。


 信心深い地元の探索者達に(なら)って表参道で一礼し、神社の境内に入る。


「知ってはいたが、なんつー見た目をしてやがる……」


 狙いすましたかのように本殿があった場所を押し潰している漆黒のダンジョンモノリスを見上げてぼやいた俺は、ちゃっちゃとメニュー画面を開いてプライベートマップの90層に転移した。

 ひとまず壱号、弐号、参号、そして零号を召喚。


「マスター、まずは第一関門突破ですね」

「ああ、そうだな」


 いつもの探索装備に着替え、着ていたローブは零号に着せる。

 こういう時、いつでも呼び出せるマネキン人形は非常に便利だ。


「しかしマスター、本当にこちらで良かったのだろうか。横浜ならばすぐにでも踏破できただろうに」

「実際そうなんだけどさ、一度はケジメを付けてやらないとスッキリしないじゃん」

「マスターの期待通り、目標が釣れたらいいのですけどね」

「事前にスケジュールは把握してあるからな。あの陰湿な女のことだ、顔も隠さず表を出歩いてたら十中八九釣れるだろう」

「だといいのですが……」


 いつものように完全武装した状態で零号を送還して入口の石室を出ると、そこにはどんよりとした雲に天が覆われた薄暗い荒野が広がっていた。


 双眼鏡を覗いてみると、遠方に点々と大きな骨塚があり、そこから湧き出した動物系のアンデッドモンスターが辺りをうろついているのが確認できる。

 それに紛れるように、ポツポツと人魂のような見た目をした属性精霊まで徘徊しているようだ。


「待ってろよ餓者髑髏(がしゃどくろ)、すぐメタメタにぶっ壊してやっからよ……」


 そう、俺は伊佐那岐の仇討ちをする為にこの京都伏見ダンジョンまでやってきた。

 いつまでも面倒事を引きずっていては楽しいダンジョン探索ができないから、今日きりで【いけず石】との3ヵ月に及ぶ因縁にケリを付けるつもりなのである。


―――――


 ここで今更ながらダンジョン探索について解説しよう。

 通常、探索者パーティーがダンジョンで狩りをする場合、適当にプライベートマップの始点から終点までうろつく他にもいくつかの方法がある。


 一つ目は寄せ狩り。

 深い森や海、砂漠といった不整地にいる好戦的なモンスターを戦いやすい場所に呼び寄せて狩るやり方。

 【吟遊詩人】や【楽師】の出す音を使う方法と、【死霊使い】の人骨や【妖精使い】の妖精でトレインしてくる方法が一般的だ。


 【妖精使い】の召喚する妖精は多様なトラップを設置できる妖精魔法が使える。

 進化させるとまあまあ強いけど、ボスみたいな大型モンスター相手だと足を引っ掛けるのが精一杯なんで、ダンジョン探索もそこそこに自衛隊を退官した【銃士】と組んで山で猟師をやっている人が多い。


 二つ目は巻き狩り。

 草食系の逃走型モンスターを足の速い探索者が追いかけて、仲間の隠れている場所に追い込んで一網打尽にするやり方。

 高く売れるドロップ肉目的の【狩人】がよくする手法で、基本は【通信】スキル――地球の裏側からでもパーティー内念話が可能――を用いて狩りを行う。


 なお、【通信】はスキル装備一つあれば事足りるので、このスキルを取得できる【通信士】は野良パーティーには参加できない模様。

 悲しいけど【通信士】は同じ覚醒スキル持ちのいる複数パーティーに通信網を築く【天神の信頼】を覚えるから、受験戦争を頑張って防衛大学校に入学しようね。


 ちなみに【通信】や【情報共有】でカンニングしたらどんな試験も即失格だから要注意。

 ま、大抵は嘘を見抜く【罪の天秤】が使える【裁判官】の試験官が一人は居るから、受験ノイローゼにでもならない限り手を出すことはないだろう。


 三つ目は潜伏狩り。

 視野の狭いモンスターに見つからないように接近し、【催眠術士】の【催眠魔法】で眠らせてから一気に仕留める。

 【千里眼】が使える【観測士】とかの斥候職はこうでもしないと稼げない。


 そして最後が定点狩り。

 51層からマップに時折出現するようになる骨塚から湧くアンデッドモンスターを出待ちして狩るやり方。


 ボス部屋にアンデッドモンスターが出現するマップは全面にこういった骨塚――恐らくレプティリアンの生活跡、貝塚的なやつ――が出てくるので、グローバルマップで1パーティー1骨塚を確保すれば安全かつ安定した狩りができるのでお勧めだ。


 レベリングの狩りも多少はしたいところだが、俺達の目的はボス部屋なので今回は参号の【自爆】で道中の邪魔な骨塚をぶっ壊しながら進むことにする。

 グローバルマップだと湧き潰しは迷惑行為だが、ここはプライベートマップなので何も問題はない。


「またほねがかられにやってきたのだー」


 どこに耳が付いているのか知らないが爆音に呼び寄せられてやってきたマンモスの骨格っぽいアンデッドモンスターの突進を、参号がウネウネと伸ばした蛇尻尾の【受け流し】で脇に反らした。


 もうすっかり操作にも慣れて、今では第三の腕どころではない器用さを発揮している。

 人形のステータス平均振りのおかげで敏捷が20を越えているのがいいのかもしれない。


 俺は2体召喚中の火精霊フレアに命じて超絶火力の火槍を象骨野郎にぶち込む。

 3連撃で仕留めたので、ストレージにドロップしたてのアイテム結晶から現実化(リアライズ)した青い魔力回復ポーションを頭から被って空っぽの魔力を回復。

 ケチケチしないのが魔法職で長生きするコツだ。


「やっぱり【受け流し】は強いな。わざわざ沖縄まで買いに行って本当によかった」

「うむ、いずれは私も欲しいところだ!」

「りょうりもできないぶきようなニコは【金剛力】と【仁王立ち】だけでじゅうぶんだとおもうぞ」

「うぐっ……」


 ポンコツ女騎士設定がまたしても足を引っ張っている……。

 どうして萌は完璧超人設定にしてくれなかったんだろう。

 いやまぁ、レベル1のまま10年も放置したのが悪さしてるっぽいんだけどさ。


「マスター、ボス部屋が見えてきましたよ」


 いつものように炎の宿った大鎌を手に持っている壱号が指差した先には、遠目に巨大な石室が見えていた。


 巨大なボス部屋のあるマップは終点の石室が探しやすくていいね。

 ダンジョン庁職員によるマッピングのされていない101層以降に挑むのが今から億劫(おっくう)である。


 さて、ボス部屋の前についたら軽く休息を取ってからいよいよ餓者髑髏戦だ。


「よしお前ら、いつも通りしっかり頼んだぞ」

「うむ、守りはこのニコに任せるがいい!」


 零号から受け取った、4人くらいなら頑張れば身を隠せるくらいには大きい鋼の大盾を両手で持つ弐号が自信満々に答える。

 骨大盾を使い捨てるのはコスパが悪いので、今後のボス周回を見越して扱いやすそうなものを萌に頼んで用意して貰ったのだ。


 準備もできたところで早速、手のでかいティラノサウルスみたいな上半身の骨格シルエットが描かれた大扉を潜ってボス部屋に侵入した。

 一歩だけ部屋に入って弐号の構えた大盾に身を隠した俺は、魔法陣の中心に向かって一直線に駆け出した参号の様子を手鏡越しに観察する。


「びょーん!」


 餓者髑髏が光の中から出現したのを見計らい、床に押し当てた蛇尻尾の先をバネのように伸ばした参号が勢いよく飛び跳ねた。

 その速度たるや、まさしく砲弾の如し。


「サンはここなのだー!」


 高く空中に浮かんだロリロリドラ娘を追って顔を上げた餓者髑髏の巨大な頭蓋骨の眼孔の中に、シュンと長く伸びた蛇腹尻尾が潜り込んで巻き付いた。

 武器を身体の一部にできる人形にのみ許された芸当、なんと器用なことだろう。


「つかまえたのだー!」


 まるで釣竿のリールが巻かれるかのように勢いよく収縮した蛇腹尻尾によって、本体の人形爆弾が背中を向けたまま引き寄せられる。

 そして、眼孔から頭蓋骨の中にすぽっと入り込んだ参号は【自爆】を発動した。


 ドゴォォォォォン!!!


 内部から爆破された餓者髑髏の頭蓋骨は第二形態移行時の肋骨散弾どころではない勢いで爆発四散! サヨナラ!


 間もなく「テテテテーン♪」という零号のレベルアップ音が響く。

 遠い入口付近で弐号の構えた大盾に隠れていた俺達は当然のように無傷だ。


「こんな雑魚に殺られるなんてな。攻略クランが聞いて呆れるぜ」


 そもそも【いけず石】は90層で挑むボスの選定を間違っていたんだよ。

 100層の黄金大蛇に【魔の指先】が効かない以上、もっと倒しやすい別のボスで安全に踏破した方が良かったのに、ダンジョン配信の絵面を優先したのが最初の(あやま)ちだ。


 ダブルタンク構成によるヘイトの取り合い、綱引き戦術が強いのは認める。

 でもな、ヒヤリハットの事故要素を少しでも削るのが一流の探索者だということを声を大にして主張したい。


 例え1%の確率だろうと、100周すればおおよそ63.4%の確率で引いてしまう。

 ソシャゲなら0.1%でも神引きすりゃ単発でも簡単に出るんだぞ。

 だから俺が目指すのは、常に確実な勝利以外ありえない。


 それならどうして今回こいつに挑んだんだって?

 俺にとっての餓者髑髏は100%勝てる雑魚ボスなのだから別に構わないのだ。


「ポーションすら落とさないとか最後までケチな野郎だ。さっさと次行くぞ次」

「あるじあるじ、もういっかいやらないか? のうてんぼんばーはおもしろいぞ」


 再召喚した参号は随分とのうてんぼんばーがお気に召したようである。

 しかし俺は心を鬼にして目の前にいるロリロリドラ娘の要求を却下した。


「二度とコイツとはやらん。階層更新を優先だ」

「ちぇー」


 ドロップ確認でメニュー画面からストレージを見ていたので、そのままシームレスに階層選択画面へ移行、91層の入口にあたる石室に転移した。

 経験値分散の原因になる足手纏いの零号はこのタイミングで大盾を預けて送還だ。


「お前ら、この層は属性魔法を使ってくる精霊系モンスターが大量に出てくるらしいから注意しろよ」

「了解だ、マスター!」

「のうてんぼんばー……」


 目標の100層までもう少し。

 俺達のレベルは90を越えて、次のレベル上限も見えてきた。

 そうなったらいよいよ、お楽しみのハクスラタイムだ。

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