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ドールマスターヒロシ  作者: 我島甲太郎
4.Malevolent Sentinel

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第82話 爬虫人王の壁画

 4月の終わり際、1ヵ月に渡るダンジョン探索の末に189層を踏破した俺は満を持して横浜海上ダンジョンの190層探索へと乗り出した。


「オッス、オラヒロシ! 今日は横浜海上ダンジョンのマップ更新日だからよ、いっちょ190層のボスをぶっ殺しに行くぜ!」


 テンション高めでダンジョン配信を始めた俺の両耳には、銀色のイヤーカフが左右一つずつ装着されている。

 これは京子が用意した【魔力強化Lv4】の二つ付与された武器カテゴリー装備だ。


 第二職業補正込みで魔力が更に3.2倍も伸ばせたし、こうなるともうスキルポイントで【魔力強化】のレベルをちまちま上げる必要性が皆無になっちゃったね。


「きょうもいっぱいじばくするぞぉー!」


 人形達を連れて石室から出ると、そこはレプティリアンの巨大都市の真っ只中。

 150層にあった古代エジプトのような日干しレンガの街並みとは異なり、白い石材と多種多様な金属によって組まれたカラフルな家屋が建ち並んでいる。


 時代の針が進んだ爬虫人類文明はダンジョンでドロップした装飾品や金属系の生体装備を【山師】の覚醒スキル【地神の精錬】の元素抽出と第二覚醒スキル【地神の融合】の合金生成で加工することによって都市を大きく発展させたのだろう。


「出現するモンスターは襟巻怪獣・巨猿怪獣・三又大蛇の三種類。大精霊・爬虫妖精・アンデッドは少数。ボスモンスターの種類は偵察ドローンでは確認できていない」


 零号は視聴者にも分かりやすいように簡単なモンスターテーブルを説明した。


「こういうフィールドで一番恐れなければならないのは挟撃だ。つーわけで、まずはモンスターをおびき寄せて数を減らす。参号、GO!」

「どーらーごーん!」


 俺達は建物の陰に隠れ、100mほど先にある大通りの十字路っぽいところで参号を【自爆】させる。


 ドゴォォォォォン!!!


 大きな爆音が無人都市に響き渡り、道路を爆風が駆け巡った。


「【人形召喚】参号。もう一発ぶち込んだら俺達も突撃するぞ」

「りょうかいなのだ」


 爆音に釣られて都市を破壊しながら爆心地にやってきたのは、軽く10m近くの体高がある巨大なエリマキトカゲにキングサイズのゴリラ、三つ首の巨大蛇だ。

 そいつらが見た感じ10匹ばかり、クレーターの付近をうろついている。


「怪獣映画よろしく喧嘩してくれりゃいいのに、仲良く探索者を探しやがって……」


 道路の端っこを隠れるようにこそこそ走り寄る幼女人形を眺めていると、周囲を警戒していた壱号が声を上げた。


「マスター、こちらに気付いた巨猿怪獣がいます!」

「分かった。弐号!」


 クレーターの反対側からやってきた巨猿怪獣が二階建ての建物の上からのっそりと顔を出しているのが見える。

 ゴリラ怪獣は近くにあったレプティリアン銅像をもぎ取り、大きく肩を振りかぶった。


「私を見ろ、【魔の指先】!」


 射線を外すように俺から距離を取ってゴリラ怪獣のヘイトを取った弐号に向かって、勢いよくレプティリアン銅像が投擲される。


 【金剛力】によって増幅された筋力によって盾で上手いこと斜めに受け流された銅像は建物の外壁にめり込んだ。

 直接的な盾役だけではなく、パリィに失敗した時でも後衛に流れ弾が飛ばないようにする立ち回りがタンクの基本だ。


 奇怪な鳴き声を上げて弐号へ駆け寄ってきたゴリラ怪獣とすれ違うように、緋炎を纏った大鎌を構えた壱号が飛び出して【旋風刃】を放つ。

 脇から心臓の辺りまでをばっさりと焼き斬られたゴリラ怪獣は、地面を滑るように倒れ込んで絶命した。


 ドゴォォォォォン!!!


 巨大モンスターの群れが集まったクレーターの付近に到達した参号が再び【自爆】を発動した音が聞こえる。

 俺は参号を再召喚しつつ、人形達を連れて爆心地へと駆けてゆく。


「弐号は【治癒魔法】でヘイトを取りつつクレーターの向こう側へ向かえ! 壱号はトカゲを優先、参号はゴリラを優先! 蛇は俺がやる!」


 ベルトから魔力回復ポーションの入った瓶を抜き、空中に炎精霊を4体浮かべる。

 参号の蛇尻尾と両拳にはそれぞれ【炎属性付与(エンチャントフレア)】だ。


 先ほどの攻撃で大きな手傷を負っているモンスターの優先度は低い。

 俺が三又大蛇を1匹処理している間に、自己【治癒魔法】でヘイトを取った弐号がモンスターの間を駆け抜けた。


 弐号に釣られて背を向けたゴリラ怪獣のケツに蛇腹尻尾ジャンプで飛び込んだ参号の右腕がズボっとめり込む。


「みぎかんちょーぼんばー!」


 ボゴォン!


 穴という穴から爆炎を吹き出して爆死したゴリラ怪獣のケツからポン、と反動でロリロリドラ娘が射出される。


 小さな蝙蝠翼をバサバサと動かして空中で姿勢制御した参号は燃える蛇尻尾で着地し、再び別のゴリラ怪獣のケツに向かってびょーんと跳ねるようにジャンプした。


「ひだりかんちょーぼんばー!」


 ボゴォン!


 厄介そうなゴリラ怪獣は全て確殺できたな。


 クレーターの向こう側で盾を構えた弐号がモンスターの注意を引きつけている間に、壱号がデカい襟巻トカゲの首を斬り落とす。

 後は手傷を負って戦闘能力の落ちた巨大モンスターを順番に処理するだけだ。


「これで付近にいたモンスターはあらかた片付いたか。零号、案内を」

「了解」


 俺は魔力回復ポーションを飲みつつ、ヨゴれた参号を新品に戻して再召喚する。

 歩きながら肆号が開いたストレージから引き出したアイテム結晶の魔力回復ポーションを現実化(リアライズ)してポーションベルトに補充しておく。


 妖精魔法トラップや曲がり角での不意の遭遇を警戒して、未進化で再召喚コストの安い参号を先頭に立たせて先へ進む。

 絵面はちょっとアレだけど、これが一番魔力効率のいいやり方だ。


―――――


 1時間ほど戦闘と移動を繰り返したところで俺達は公園っぽい場所に辿り着いた。

 ボス部屋はまだまだ遠いものの、見晴らしがよく小休止にはいい場所に思える。


「どうやらここはレプティリアンの憩いの場として作られた場所のようですね」


 公園の一角にあった花畑の前でしゃがみ込んだ壱号は、整然と植えられている花の一つにそっと手を触れた。


「憩いの場って言うか……ここ魔法植物の農地じゃないか?」

「治癒ポーションの原料に使われている魔法植物の一種とそっくりに見えるな!」

「ゲームみたいに採取して調合できたらいいんだけどね。仮にできたところで、190層まで行って性能の低いポーションしか作れないんじゃコスパが悪すぎて誰もやらないわけだが」


 ダンジョン内で疑似的に再現された植物を外部に持ち出すことはできない。

 ただ、レプティリアンの製作物を【贋作師】の【構造解析】で分析して【暗神の手癖】で複製品を作ることはできる。


 しかし原始的狩猟民族の状態から急速に発展した爬虫人類文明は同族との戦争を長いこと繰り返してきた地球人類と比べると文明レベルが低すぎてそこまでする価値がないのが現状だ。


『ピピピ、[どうしてレプティリアン達は文字を持たなかったんだろう?]』


 公園のような農地の広場に設置されていた壁画を眺めていると、視聴者からそんな疑問の声が飛んできた。


「持たなかったわけではない、とは言われているようです。この壁画にも文字が消された痕跡は残っていますし……」


 王冠を被って大剣を手に黄金大蛇らしきボスモンスターに立ち向かうレプティリアンの抽象的な壁画の近くにあった、不自然なほどに何も描かれていない石碑に視線を向ける。


「製作者の意図はどうあれ、レプティリアンが車輪の発明すらしなかった脳筋種族なのは変わらないだろう」


 こいつらはダンジョンモノリスから職業の力を得た途端、ダンジョンモノリスのない場所での生活を一切しないようになったと言われている。

 ダンジョンから得られる資源だけに依存した都市国家式の魔法文明ってことだ。


「あるじあるじー、あいてむけっしょうひろったぞ!」


 花畑の中をうろついていた参号がこぶし大のアイテム結晶を手に駆け寄ってきた。


「お宝発見だな。何が入ってる?」

「さかなのにくっぽいのだ」

「肉かぁ~……」


 虫肉や獣肉と違って魚肉は味がいいものも多いのだが、フグみたいな猛毒があったら困るので帰りがけにダンジョン庁の自動買い取り機で処分することにする。

 Dチャーマーならバズ目的で焼いて食いそうだけど、それで死んだら世話ないぜ。


『ピピピ、[ドールマスター、微笑(ウェイシャオ)飯店(はんてん)にはもう行った?]』


「あー、なんか金田(かねだ)のやつが横浜中華街で肉まん屋始めたんだっけ? 俺はまだ行ってないけど、一回くらいは顔を出してやってもいいかな」


 チャイニーズマフィアの関係者が軒並み捕まって強制送還を食らったせいで、今の横浜中華街は半数以上の店舗が閉店状態の寂れた場所になっている。


 あの辺りは望月財閥と繋がりが深い藤堂会のシマになったから、テナントが集まるまでの穴埋めに知名度だけはある下っ端の金田が駆り出されたってところだろう。


 さて、適当に視聴者と雑談しながら探索しているうちにボス部屋の前に到着。

 巨大な石室の大扉に描かれたシルエットをチェックしてみたところ、どうやら今回のボスは八又大蛇のようだ。


「八又大蛇か。八岐大蛇(やまたのおろち)と呼ぶほど強くはないって話だが……」


 流石に連続でユニークボスは出ないだろうという考えのもと石室の扉を潜り、広いボス部屋の床に敷かれた魔法陣の中心に集まる光へ向かって参号爆弾を突貫させる。


 ドゴォォォォォン!!!


 俺はいつものように零号の構えた大盾の陰に隠れて爆風を凌ぐ。

 【仁王立ち】持ちのサブタンクはこういう時に便利だ。

 間もなく「テテテテーン♪」というレベルアップ音が響いた。


「問題なく倒せたようですね」

「【人形召喚】参号。こういうのでいいんだよ、こういうので。安心安全なダンジョン探索にアクシデントなんていらん」

「あるじあるじ、きょうはこのままぼすしゅうかいしないか?」

「次のマップがハズレだったらそうするさ」


 ドロップアイテムも特になかったのでそのまま191層に転移し、登山用カバンに積んでいた偵察ドローンを用いてフィールドマップと出現モンスターを確認する。

 鳥型モンスターがいると偵察ドローンを破壊されることもあるので、慎重に。


「どうだ、零号。終点は見つかったか?」


 上空高く飛ばした偵察ドローンをヘッドバイザーで操りタブレット端末に簡易的な地形情報を書き込んでいた零号に、俺は壱号手作りのお弁当を食べながら尋ねた。


「北西の方角、直線で12㎞地点に発見。ただ、森林を大きく迂回することを考えると早くとも5時間程度は掛かると思われる」

「むしろ、この状況でよく発見できたものだと感心するな!」


 どうも炎精霊が湧いているらしく、終点付近の森林は山火事の様相を呈している。

 ランダムな属性精霊の出現する70層~100層、170層~199層のマップは得てしてこういった光景が見られるので、逃げ場のない森林地帯は迂回するのが原則だ。


「モンスターの方はどうだ?」

「確認できているのは狂乱魔鹿・流浪群鼠・百節百足。ルート上には骨塚が4つ」

「アンデッド多めってことね。よし、マップ更新が入る前にサクっと踏破するぞ」

「ぼすしゅうかいはおあずけかー」

「どうせレベルカンストしたら嫌というほどやるだろうさ」


 早めの昼食を終えた俺は人形達を連れて午後の探索に乗り出した。

 特にこれといってトラブルもなく、レベル上げしつつ終点まで歩いて終わり。

 今日の撮れ高と言えば、せいぜい流浪群鼠の群れに弐号が(たか)られたくらいかな。


 【クレセントムーン】みたいにフィールド攻略や職業ごとのモンスター対策を一般向けに解説するような感じでもないし、探索記録用ならこんなものでいいだろう。


 どんな時も命大事に、それが俺のダンジョン配信のコンセプトだ。

 アホみたいなことをして承認欲求を満たすのなんて、ダンジョンの外だけで十分間に合っているのである。

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