純黒
短編です
小学生の頃、いろいろなものを入れていたお気に入りのポーチを落としてしまって、いじめっ子が拾ったことがあった。明らかに私のだとわかった様子で、にやにや笑ういじめっ子たち。でも私は控えめな性格だったから、返してほしいと言えなかった。
「ねぇ、それ私のなんだけど」
私の背後から、凛とした澄んだ声が聞こえた。途端に男子たちはにやにやとした顔をやめ、ばつの悪そうな顔をして、ポーチを放り投げて行ってしまった。
「はい、コレ」
そう言って彼女は落ちたポーチを渡してくれた。身長が高くて、綺麗で、可愛くて、でもズバズバと手厳しいことも言えてしまうから、いつも一人でいた彼女。あれから私は、彼女と一緒に行動することが増えた。
中学校、高校、大学と、学部は違うけど、同じ学校に進んだ。彼女は私なんかと仲良くしてくれて、一緒に過ごすうちに、親友なんて呼べるような、濃い関係になれたような気がしていた。
大学四年のある日、彼女はパッと就職先を決めてしまった。はっきりとした性格だから、就職先には困らなかった。引く手数多の彼女が選んだのは大企業だった。勉強も性格も良いとは言い難い私には到底無理な会社だった。
「就職先まで一緒だったらよかったのになぁ」
「えぇ、アンタもあの会社狙ってたの?まだ募集かけてるんだから試してみたら?」
彼女は真っ直ぐ私を見つめてくれる。私にできないことなんて無いとそう言い聞かせるような真っ直ぐの視線。彼女の目が、私に勇気をくれた。
「そう、かな・・・。じゃぁ、試すだけ試してみようかな」
「良いじゃん、一緒に頑張ろう!」
背中をバシンと叩いて、私を勇気づけてくれた。彼女の為にも、私、頑張ろう。
入社試験は彼女の指導の下、なんとか合格圏内を狙えそうな程度に学力が向上した。問題は面接だけど、ソレも彼女が助けてくれて、何と卒業間近に、同じ企業に滑り込むことが出来た。
「やった~!」
と私以上に喜んでくれる彼女には、お礼を言っても足りないくらいだ。私には彼女が必要で、彼女も同じように思ってくれている。
そう、思い込んでいた。
入社してから3年、私たちは全く違う部署に配属された。せっかく彼女と同じ会社に入社できたのに、彼女とは全く会えないし、話せない。
メッセージは時々やり取りできるけど、大学生の頃のような密な連絡はできない。
そんなもやもやとした感情のまま、彼女の部署に書類を届けるようにと上司に言われ、私はすぐさま彼女の部署を訪ねた。途中の廊下で、彼女を見かけて声をかけようとしたら、男性に手を振る様子を見かけてしまった。
ただの同僚というには、もう少し親密に見える。あ、手を触れた・・・物陰で、キス?・・・。
急に私は何かよくわからない、足元がおぼつかないような感覚に襲われた。
ガラガラと地面が崩れていく。膝に力が入らない。次第に私は、彼女に対する失望と共に、相手の男に対する怒りを覚えていた。
なんで、どうして、私がいるのに、その男を見るの?その男に触れるの?
だめ、やめて、触らないで。私の大切な友人をこれ以上穢さないで。お願い、駄目、やめて・・・。
力の入らない足を踏ん張って、私は二人の元に歩み寄った。
——ねぇ、それ、私のなんだけど・・・。——
純粋であるが故




