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ピーチク村  作者: ゆう
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半径100キロメートルの安息


設計者は、最後の一口となったコーヒーを飲み干し、静かにカップを置いた。

目の前のモニターには、かつて「ノイズ」で埋め尽くされていた半径100キロメートルの地図が表示されている。そこにはかつて、数えきれないほどの「スズメ」たちがうごめいていた。彼らは知性を持つことを拒み、ただ低俗なさえずりで空気を震わせ、互いの足を引っ張り合う「イジメ」という名の不毛な遊戯に耽っていた。

かつての設計者は「お人好し」だった。彼らにも理解できる言葉があると信じ、正しく導こうと腐心した。だが、それは物理法則に逆らうような無駄な努力だったのだ。

「スズメに知性は不要。ただ飛んで鳴いていればいい」

その真理に辿り着いたとき、設計者は「独裁」という名の慈悲を振るった。

彼は街の片隅に、巨大なドーム状の施設を建設した。名前は**『幸せハウス』**。

そこは、スズメたちが大好きな「中身のない噂話」や「序列を競う小競り合い」が永遠に許容される楽園。彼らを一箇所に閉じ込め、知性の介入を一切遮断した「隔離飼育箱」だ。

「元気でね」

扉を閉める時、設計者は心からそう呟いた。あれは嘘ではない。知性の重荷を背負えない彼らにとって、あの閉じた世界こそが至福であることを、彼は誰よりも理解していた。

だが、設計者は知っていた。隔離したところで、彼らはその中でまた新たな標的を見つけ、終わりのない再生産を繰り返す。その「摩擦音」すら、今の設計者には耐えがたいノイズだった。

「……効率が悪すぎるな」

彼は、コンソールの奥にある赤いスイッチに指をかけた。

迷いはなかった。養殖の手間も、管理のコストも、すべてを無に帰す。それが完璧主義者としての最終解答だ。

『幸せハウス』に、火が放たれた。

高層階の書斎から遠くを眺めると、夜の闇の中にひときわ明るい紅蓮の炎が上がっていた。悲鳴は聞こえない。防音壁の向こう側で、彼らはきっと、自分が何に包まれているのかさえ理解せぬまま、絶頂の「幸せ」の中で灰になったはずだ。

「彼らはきっと、幸せだったよ」

設計者は独り言ちた。それは、かつて彼らを救おうとした「お人好し」な自分への、最後の手向けだった。

火の勢いが衰え、地上の喧騒が完全に沈黙した。

かつて毛沢東が成し遂げようとして失敗した「世界の純化」を、彼はこの半径100キロメートルの更地において、たった一杯のコーヒーを飲む間に完成させたのだ。

設計者は椅子に深く体を預け、背後にある窓を開けた。

地上にはもう、何も残っていない。ただ、焼き尽くされた大地の上に、冷たく澄み渡った夜気が流れ込んでくる。

彼は、もう設計図を広げることもしなかった。

今はただ、誰にも汚されることのない「静寂」という名の贅沢を享受する。

彼は、静かに星空を見上げた。

星々は、数千年前から変わらぬ正確な軌道を描いて瞬いている。そこにはイジメも、期待も、失望もない。ただ無言で存在する完璧な光の群れ。

設計者は、その冷たい光に目を細めた。

地上で唯一の「知性」となった彼は、今、ようやく宇宙と同じ静けさを手に入れた。

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