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1.君と会えたなら

場所が変わり、事故から7年後―


 本島から離れた離島ではあるが、四季があり、時差はなく、過ごし易く、特に田舎というわけではない。栄えたところは栄えているのである。その栄えたところが彼、傷ついた少年の住処である。

 何年経とうとも両親を亡くしたという過去は消えない。当然失った悲しさも寂しさもを負わなければならなかった当時、幼い少年にとっては可哀想なほどであった。

しかし、親戚からの資金援助もあり、少年は心の傷を隠しながら屈強な高校生になっていた。


少年・・・いや、青年の名は音丸(おとまる) 功治(こうじ)


「よぉ、音丸」


肩を叩き、現れたのは中学校から幼なじみの畑山(はたやま) (ゆみ)で勝気で男勝りなとこがあるこの女子はいつからか友達になっていた。



 小学校からあまり友達ができず、公園で野良猫と戯れていた音丸のところに中学になった時、突然現れ、野良猫をじっと見ていて気にせず音丸が野良猫とじゃれていると「よし、お前はあたしの友達だ」と音丸に向かって言ってきた。わけわからんと言わんばかりに弓を見ていると、


「いや、そのにゃんこと友達になりたいんだけどさ・・・」


「じゃぁ僕の友達じゃないじゃん」


「や、んとさ、遠回りかもしれないけど、仲いい人と友達になった方が色々知れるじゃん」


弓がなかなか頭いいと思ったのはその時だった。本人とすぐ付き合うよりその側近に近づいた方が色々知ることができるということ。賢い。

そんなことから今でも縁が続いている。


「占い見たか?」


楽しそうに弓は聞いてくる。朝のテレビをつけるとメザマシなんとかでやっている占い番組だろう。十二星座で占われたこれは意外と当たるとの評判だが、弓は占いなんてあたんないと馬鹿にしていたはずだが・・・。


「テレビなんて朝は見ないよ」


苦笑しながら言った。朝の一分は貴重なのだ。テレビなんて観ていれば時間がなくなってしまう。


「今日は幼なじみに会えれば金運アップだと」


「もう金は十分でしょ・・・ってか信じないんじゃなかったの?占い」


音丸は苦笑した。弓は貿易商社の社長夫婦の娘で豪邸に住んでいる。性格からしても金持ちだと自慢しないので音丸も弓の家を見た時は絶句した。


「いやいや世の中は金。金が無いとダメだぜ。いいことだけは信じるのさ」


「いやな高校生だ」


音丸もお金がなければ生きていけなかったので敢えて追求はしないが苦笑して弓を見ていた。




 学校につき、ホームルームを待っているとクラスの雰囲気がいつもと様子が違うことに気が付いた。いつもより騒がしい。弓に聞いても分からないという。元々二人とも情報収集に疎く、クラスに友人がいるわけでもないのでこういうことで噂は伝わらないのだ。


「おーし、静かにしろー」


クラス担任の北海(きたみ) 道長(みちなが)がのしのしと入ってきながら言った。いつもは戸を閉めるのに今日は開けている。いつもと違う。


「こんな時期だが転校生がきた」


とんだ変わり者だ。わざわざ編入してきた理由がわからない。急に生徒たちが騒ぎだした。


「あー静かにしろ。さ、入ってこい」


北海が合図をして教室に姿を現したのは膝まで伸ばした青い長髪の少女で、生徒たちを眺め回すその瞳は透き通るような蒼色だった。右髪が寝癖なのか面白いほど撥ねているのが彼女の特徴だと直観的に察した。


「あー、名前言えるか?」


北海の方を向き、静かに頷く。


「静かタイプかよ・・・」


弓は彼女の行動を見て音丸にぼやいた。弓自体が活発なため、おとなしいのは好きになれないらしい。特にネクラなどはアウトオブ眼中だそうだ。


「私はフェンリル王国騎士団所属の・・・」


「え・・・」


音丸は思わず声を漏らした。これは新手の自己紹介及び宗教宗派案内だろうか・・・隣りで聞いていた北海も苦笑しながら立っている。


「シャロレイド・ロリス・・・」


ゆっくりとクラスを眺めながら喋っていたロリスの目の動きが一瞬止まったように見えた。しかも止まった場所は明らかに音丸を捕らえていた。


「こーじ殿?」


彼女の薄く柔らかそうな唇から呟かれた言葉は意外な単語だった。


「何だ?音丸、知り合いか?」


北海は物珍しいものを見るような目で音丸を見る。弓も驚いたのと好奇心の眼差しを向ける。


「え、いや・・・」


政治家のように「記憶にございません」と言いたかったが、あれは知っていて誤魔化しているが、これは本当に記憶にない。

あれこれ考えている内に北海は音丸の隣りに机を持ってきてロリスをそこに座らせた。


「あとは頼んだぞ☆」


北海はかっこよくウインクしながら立ち去った。音丸は呆れながら立ち去った北海からロリスへと視界を移動させた。

よく整った顔立ちに透き通るような白い肌。目にかかる青髪を払いのける様子まで見とれてしまうほど興味をそそられるものだった。

じっと見ているとこちらの視線を感じたのかロリスが不思議そうにこちらを見てきた。なんとなく気まずくなったので苦笑して誤魔化すとロリスは白い歯を見せてニカッと笑った。




 音丸はホームルームが終わると同時にロリスに聞いた。チャイムが鳴る前から腰を浮かせて待っていた者たちより先に。


「えーと・・・ロリスだっけかな・・・」


頭をかきながら音丸はロリスに話しかけた。


「こーじ殿、何か?」


「あ、いや、何で名前を知っているのかな・・・って」


音丸は真直ぐ見つめられ、直視できず、目を逸らしながら聞いた。ロリスの澄んだ瞳はなかなか直視できない。


「・・・?こーじ・・・ではなかったか?」


「あ、いや、あってるんだけど・・・教えてないのに・・・」


「え?・・・こーじ殿が以前・・・」


ロリスは言いかけて言葉を切った。そして物寂しそうに音丸を見ると弱々しく笑った。


「ロリス、こいつに会ったことがあるのか?」


弓は気まずくなった雰囲気を打開しようとロリスに聞いた。


「あ、うん・・・」


力なく頷き首を振った。


「おい、音丸。こんな可愛い娘に会ったのに覚えてないって失礼だぞ?」


「いや、会ったことがあれば覚えていると思うんだけどなぁ」


そこで二人の会話は中断された。痺れを切らしたクラスメイトたちがロリスに質問しようと殺到したためであった。

 音丸は弓に連れ出され廊下に出た。


「ほんっとに知らないのか?」


「うん」


「転校前のガッコにいたとか・・・」


「昔からここに住んでいたし・・・」


会話は泥沼化へと進行していった。すると他のクラスが騒がしいことに気が付いた。人が集まっているところに向かうと、人の中心におとなしそうな女の子が体育着姿で泣きそうになっていた。


「誰だよ、女子に嫌がらせしたの」


「しっかし犯人は変態だよなぁ」


「サイテー」


「お前が犯人だろ!このキモオタが」


一人の男子が乱暴にメガネをかけた明らかにオタク顔の男子を捕まえ、胸倉をつかんだ。


「ななな、なんのこと?」


メガネのオタクは明らかに驚き、怖がるように胸倉をつかんでいる男子を見た。


「しらばっくれんなよぉ?一条 美瑚の制服盗んだんだろうが」


「ちちちち違うよ」


突然の濡れ衣にあわてふため、メガネのオタクは手をバタバタ動かした。


「あぅ・・・その・・・」


当の本人はとめようとしているのか、言葉にならない言葉を発している。被害に遭ったのは一条(いちじょう) 美瑚(みこ)演劇部の裏方のスター。物凄いシャイなところが母性本能をくすぐるとかで一部の人たちの間で人気である。ただあまり喋らないので意志疎通が難しい。


 今回は何やら朝練で衣装を着ていたため、制服を教室に置きっ放しにしていったらしく、戻ってきたらなくなっていたそうだ。荷物を置きっ放しにしたという時点で非はあるので強くは言えないが、盗難があったことには変わりがない。今回は制服だったが、貴重品の警戒は強化されることだろう。

巻き添えというか、濡れ衣を着せられたのは後藤(ごとう) 一郎(いちろう)という一条と同じ演劇部員で顔からしてオタク臭が漂い、アニメ業界に精通していて、何かを見つけると無駄に「萌え」と発言をする彼は、女子は愚か、男子からも嫌われている存在である。それに女子に執着し、制服を盗んで匂いを嗅いでいようがハァハァしようが想像できない話ではない。

 第一印象と顔、日頃の行いというのは大事だと実感させられるものだった。とにかく見つからない限り、一条は一日中体育着で過ごさないといけないわけだ。


「世の中にはサイテーな奴もいるんだな」


弓は吐き捨てるように呟いた。


「いい出来事があれば悪い出来事もあるということさ」


音丸は教室に向かいながら言った。


「しっかしなかなか可愛い娘と知合いだなんて見直したぜ?」


「いや、だからしらないんだって・・・」


「ふーん」


弓は疑うように音丸を見て呟いた。他クラスの盗難事件より自分のクラスの出来事の方がビッグニュースだ。一条の話は全く関係なく、他人事でしかなかったのだ。

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