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10.再会

 再会って言葉をご存じだろうか。離れてしまった者が再び出会うこと。だそうだ。ナロニカ戦役にて引き離された者は数多くいれども、嬉しき再会が身近に迫っていた―


「全員、所定位置につき、槍を構えよ!」


ロリスの行く手を阻むかのごとく、廊下いっぱいに兵士達が整列し、槍を突き出すように構える。真っすぐ進めば串刺しになる。かといって後ろは剣を振り回しながら襲ってくる追手がいる。明らかなる挟み撃ちだ。


「これで奴もおしまいだ」


先程から号令をかけているのはロリスの取り調べを行ったあの司令官である。散々蹴られたうえに女にやられるという司令官としてのプライドに泥を塗られ、腹を立てていたのだ。


「チッ」


ロリスはかるく舌打ちすると走る速度をあげた。強行突破しようというのだ。向けられた槍の先をかわせるなどとは到底思えない。完璧に無謀な行動であった。


「突き出せ!」


槍の刃が一斉にロリスへと迫る。ロリスは軽く跳び、槍の柄に乗ると兵士の頭を踏み台に飛び越える。兵士達は目でロリスの姿を追うが、手出しができずにいた。

痺れを切らした司令官がロリスが着地するのと同時に剣を抜き、斬りかかる。


「らぁっ!!」


「くっ…」


司令官の馬鹿力に押され、ロリスは思わず息を漏らす。剣は剣でよく司令官の馬鹿力という怪力に耐えていると思われた。

最高級にいい剣であれば平気だろうし、普通の剣であれば、もろく、すぐに折れてしまう。ただ、なまくらソードといわれる、ただたんに鉄を溶かして固めただけの剣ならば耐えられるだろう。

いくら司令官でも最高級の剣を持つことは難しい。よって持っているのはなまくらソードと思われる。


「馬鹿だけの力だけでは私はやられぬ!」


「んだとぉっ!」


顔を真っ赤にする司令官を相手に少しもたじろがず、驚かず、恐がらずに立ち向かうロリス。ふと見せた背後に兵士達が刃先を向ける。ロリスはそれひとつひとつを見極め、回避した。


「フッ」


かるく息を吐き、飛び上がると右足が大きく宙を薙いだ。司令官の顔が大きく歪み、壁に叩きつけられる。


「ぃやぁぁぁっ!」


気合を入れて斬りかかってきた兵士の太刀を手錠の鎖で受け止めると、鎖は小さなかけらを飛ばしながら砕けた。二つの枷は離れ離れになり、自由を手に入れた。


「あ、ぅ………」


「な、なにやってんだよ!バカっ」


ロリスの手錠が拘束具でなくなったことに戸惑いと動揺が隠せず、剣を構えていた兵士は一歩一歩と剣をブルブル震わせながら後退していく。

檻を突き破った猛獣を見るような恐怖に怯えた目をしている。


「ようやく解放された…なっ!」


「ふぐわっ!」


ロリスの視界からふっとけり飛ばした兵士が消える。次に視界に入る時は壁のところでぐったりと動かなくなっている。


「引くなら今だぞ?」


「誰が引くか、バカめが。侵入者を捕らえるのが俺らの仕事なんでな」


司令官は重そうな体をドスドス揺すりながらロリスに向かって突進してくる。ぐわんと空気までも揺すぶる快進撃をロリスは難無く避け、懐に飛び込む。身軽にステップを踏み、下から顎を蹴りあげる。

司令官は怯み、数歩よろめきながら後ろに下がる。

ロリスは素早く剣を収め、司令官の背後に回ると背中に一撃を食らわせ、振り向いたところ、みぞおちを集中的に殴り続けた。


「うぐっうぐわっ」


司令官は体を折り、白目をむきながらなすすべもなくロリスの攻撃を受け、胃液を口から飛び散らせた。


「これで終わりだ」


ロリスは腹部に横から蹴りをいれ、司令官を弾き飛ばした。司令官はサンドバックを飛ばすように体を蹴られたところより二つに折り、三階から一階へという中庭に落下していった。


「し、司令官っ!」


周りにいた兵士たちは指揮官がいなくなり、統率が取れなくなった。それぞれ騒ぎ、司令官をも倒したロリスを化け物のようにみるのだ。


「さて…黙ってそこを通せ」


「うぅ…」


兵士たちは剣を構えながらも腰は逃げ腰だ。


「私に手を出さなければ何もしない」


ロリスは静かに言い、スタスタと兵士たちを通り抜ける。目で追っていた兵士たちの一人がロリスの背後から斬りかかる。ロリスは難無くその攻撃をかわし、斬りかかってきた兵士の両腕をつかむと、中庭へと投げ飛ばした。


「はわぁぁぁぁぁぁぁっ」


ドポンッ


兵士は情けない叫び声をあげながら消えた。中庭にある池にでも落ちたのだろう。激しく水柱をあげ、水しぶきが飛んだのが見えた。他の兵士たちはそれを見て完璧に戦闘意欲をなくした。






「6年の時を越え、彼女はやってきた…」


「うそ…ロリスが…」


「私はすっかり悪役ですね。戦争で襲ってきて姫をさらった魔王」


男は苦笑しながら淡々と語る。


「この物語の結末はどうなるものか…」


「クス…魔王は勇者に殺されるべきよ」


ナロミーネ姫は意地悪そうに笑い、男を嘲笑した。男が肩をすくめ、大きなため息をつくと、部屋の扉がガッと開き、兵士の一人が勢いよく飛んできた。


「だはっ」


「きゃっ」


突然飛んできたのが兵士だったのでナロミーネ姫は短い悲鳴をあげた。男は兵士が飛んできた方向、つまり扉の方を見た。靴のつま先が見え、赤いズボン。続いて青髪が見えた。噂で聞いていた女…侵入者のことだ。


「…あなたが、シャロレイド・ロリスですか」


「…コ、コルン兵士長…お逃げ…下さい」


倒れていた兵士が必死に頭をあげ、男を見上げている。ロリスは室内に入るなり扉を閉め、錠を降ろした。すぐに「開けろっ」という怒声と共に扉がガタガタ揺れる。援軍防止だ。


「ロリス…」


ナロミーネ姫は目を潤ませ、目頭を押さえていた。助けにきたとか何よりも生きていたということが嬉しいのだ。


「私は、ドトラーネ・コルン。ナロニカの兵士長です」


コルンは静かに落ち着いて言った。が、その相手であるロリスは穏やかではなかった。


「く、ナロニカめっフェンリルを滅ぼしておきながらよくもしゃあしゃあとっ!」


ロリスは怒鳴ると地を蹴り、一気にコルンへと間合いをつめる。コルンは細い目を少し開き、目を見開くと、剣を抜き、ロリスの一打を耐えた。


「姫殿の側から離れろっ賊めっ」


ギィンッ!


「ロリス?」


ロリスは怒りに身を任せ、剣の一撃一撃に恨みと怒りをこめた。コルンはそれを受けるので精一杯で、なかなか反撃はできない。ナロミーネ姫はベッドの上でただ二人の戦いを見ているしかなかった。


「く…いきなり出会い頭に刃を向けるのですか」


「当然だ。憎きナロニカの人間。罪のないフェンリルに攻撃を仕掛けた。それの仇討ちだ!」


カン、キンと剣戟の音が響く。扉はガタガタ揺れながら怒声が聞こえてくる。色々な音が聴こえてくる中、二人は戦う。戦い続ける。


「く、あなたは何か勘違いをしているっ」


「言い訳か?見苦しいぞ!殺してきた者たちの罪をあがなえ!」


ロリスはコルンの話など聞く気などなく、ただひたすら目の前の敵を殺そうと躍起になっていた。

剣で何度か連続で斬りつけ攻撃をし、蹴りをいれる。コルンは間一髪でロリスの蹴りを避け、体勢をととのえた。


「やはり、アックスくんと似ていますね…」


「…師匠の名を!?」


ロリスは驚き、目を見開いた。7歳の時までロリスの剣術指南をしていたフェンリル王国兵士隊の兵士長だ。


「私は彼らを知っていますよ…」


コルンがそう言った瞬間、脇から何かが飛び出し、ロリスに斬りかかった。ロリスはコルンの剣を弾いて斬りかかってきた者の太刀を受けた。


「く…何者だ!」


容姿は10歳程度の少年で、体に似合わず大きな剣を持ち、ロリスに刃を向けて、にこにこ笑っている。


「コルンさんに剣を向けるのはボクが斬るよ?お姉ちゃん」


「ほぉ…ならば貴様の首を落とすまでだなっ」


ロリスはゆらりと揺れると地面を蹴り、少年に斬りかかった。あともう少しすれば刃が少年の首に届くというときに


「もう、やめてっ!!」


ナロミーネの悲痛な叫びが動きを止めさせた。


「姫殿…?」


「コルンももういいでしょ?腕前はわかったでしょ?」


「な…腕前だと…?」


姫の口から出た言葉にロリスは愕然とする。コルンは剣を片手にロリスをまじまじと見、頷いた。


「力量はわかりました…しかし……」


「力量がわかっただと?ふざけるなっ!!」


ギィィン。


ロリスは怒りに身を任せ、コルンを斬りつける。しかしその剣はコルンに達することなく、少年の剣に遮られた。


「このように我々に恨みを抱いている状態…とても…―」


コルンは苦笑しながらナロミーネに言う。


「お願いっ。警備隊にいれられなければ私の側に…召使でもいいわっ、整理や気も良く利くの。だから…」


「ふぅ…困りましたね……」


一気にまくし立てて懇願するナロミーネを見て、コルンは細い目をますます細め、肩をすくめた。黙ってナロミーネの言動を見ていたロリスは静かに口を開いた。


「―むかし、姫殿は言われたよな?私は姫殿の奴隷ではないっ…と」


「ロリス?」


「ふざけるなっ!フェンリルの誇りを失ってまでナロニカに飼われる気はないっ!!」


牙をむき、吠え立てる野獣のごとく、ロリスは吼え、ナロミーネに言い放った。ナロミーネは何を言われているのか誰から言われているかすらわからなくなり、ただただ困惑した顔でロリスを見つめていた。


「ナロニカに飼いならされた犬めっ」


「ロリスくん、それは言い過ぎだよ…」


「ハッ、私は失望した。そんな堕ちた姫殿に再び仕える気はないっ。契約はあの時、破棄されたのだ。もう仕える義務はないっ」


コルンのナロミーネを労る台詞にさらに発奮し、冷たく言い放つ。6年前からは絶対に想像もつかないほどの残酷な言葉をならべていく。


「ロリス…違うの。この人は私たちを…」


「黙れっ!…ナロニカの肩を持つ姫殿の言葉など聞きたくないっ。…ナマク国王殿にも顔向けができぬな。あの戦争を正当化するような姫では」


「聞いてっ!!」


「…あの時私は何を護っていたのだろうな?そのままし…―」


チャキッ


「これ以上言えば斬りますよ?ロリスくん」


ナロミーネの話すら遮り、一人すごい剣幕で喋っていたロリスの喉元にコルンの刃先が向けられる。ナロミーネの侮辱とロリスの暴走を止めるべく、仲裁に入ったのだ。


「…そうか。斬りたければ斬れっ。ナロニカは辱めることしかしない」


「…あなたがどこのナロニカ人にお会いしたか知りませんが、それは偏見ですよ」


「成程。突然私を捕まえて手錠をし、暴行を加え、尋問も発言権も人権もない状況で、それが『偏見』だと。そう言うのか」


ロリスは手錠の鎖を見せ、コルンたちを馬鹿にした。


「な…一体誰が…」


「とにかく、このようなところで働くなんてごめんだっ」


カンッ


ロリスはコルンの剣を弾き、扉へと向かった。扉を開けると押し寄せていた兵士達が一斉になだれ込み、人間ドミノとなった。


「ロリス…ッ」


ドン、ガッシャアァァン


ロリスの肩がぶつかり、飾られていた鉢植えが落下し、ロリスの足元に花などが散らばった。ロリスはそれを一瞥するように見、花を踏みつけて行くとナロミーネの呟きも無視するようにロリスは立ち去った。それと入れ違いに剣の鞘ごと担いだ男がコルンに向かって言った。


「ったく、あの女刺したくなったぜ?…リーダー、追わないのかよ?」


「放っておきなさい。手を出せばケガどころじゃありませんよ?」


「ロリスはあんな子じゃなかったのに…―」


震える唇でナロミーネは呟いた。踏みにじられた花が痛々しく見える。コルンはナロミーネの背中を優しく撫で、呟いた。


「―6年の時が流れましたからね…色々と変わってしまったのですよ。さ、少し眠りなさい。ナロミーネ…」


ナロミーネは唇を血がとまるほど噛みしめ、目を閉じた。全てが夢であって欲しいと願いながら…――

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