ヲタッキーズ141 ヒロインシッター
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第141話「ヒロインシッター」。さて、今回は覚醒したスーパーヒロインの子女専門のシッターが殺されます。
背後にスーパーヒロインを人類史から抹殺しようとする"アンチ"の存在が浮上する中、遊び人の気まぐれに揺れるシッター達の愛憎劇も垣間見え…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 イニシエイト・リスト
朝焼けに染まる摩天楼。ベッドルームに朝陽が差す。フロアに落ちたスマホが明滅しメールの着信を告げる。
地下の洗濯室では、コインランドリーが回っていたが、ソレも停止。しかし、洗濯物を取り込む人影はナイ。
ドラムの中の洗濯物からは1本の腕が突き出ているw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の会議室。
「テリィたん!ココにサインすると、捜査のために私に同行スルのはOKだけど、負傷しても警察を訴えられナイし、場合によっては死んでも…」
「待てょラギィ。そもそも死んだら何も出来ない」
「ミユリ姉様も警察を訴えられナイけど」
僕が死ぬと…ミユリさんは遺族になるのか?
TOが死ぬと"推し"が遺族になる?素敵w
コレって新たな"TO特典"カモ←
「さ、弁護士さん。サインは何処に?」
「テリィたん、権利放棄の署名をする前に貴方は貴方の顧問弁護士に御相談されては?」
「え。何で?話せば止められるに決まってる。彼女の仕事は問題が起きた後で何とかするコトさ」
ラギィのスマホが鳴る。
「ラギィです…え?場所は?直ぐ行くわ」
「え。何処へ逝くンだょ?また"スーパーヒロイン殺し"か?SATOと合同捜査だろ?」
「私は捜査。テリィたんはサイン、頑張って」
颯爽と出掛けて逝くラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
既に現場には、ヲタッキーズのエアリとマリレが先回りして"舞い降りている"。
エアリはヲタッキーズの妖精、マリレはロケットガールだ。2人とも"飛ぶ系"←
駆けつけたラギィ警部と合流スル。
「それで?」
「コチラのお婆ちゃんは、2204号室のロゼハ・バゼパさん。第1発見者ょ。今日は乾燥機が満杯で30分待っても空かない。だから行動に移った」
「え。乾燥機の順番待ちのために"スーパーヒロイン殺し"をしたの?」
さすがのラギィも驚く。
「違うわ。待つのを止めただけ。乾燥の終わった乾燥機の扉を開けて、中の服を出そうとした。すると、スーパーヒロインが"乾燥"してて…」
「他人の洗濯物には触るなって言う教訓?」
「ソレが、この洗濯室では、乾燥が終わってれば、次の人は取り出しても良いってローカルルール。まぁ折り畳むのはヤリ過ぎだとは思うけど」
エアリの説明にマリレが顔をしかめる。
「私だったら、勝手に下着に触れられたら洗い直すな。ソレに下着って…折り畳む?」
「え。貴女、畳まないの?漂白剤のお徳用ボトルが落ちてるわ。床には血痕」
「OK。遺体を乾燥ドラムから出して鑑識を呼んで。漂白剤は分析に。念のために指紋を調べてみる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
権利放棄のサインを済ませ、僕も現場に駆けつける。
「被害者も摩天楼の住人だって?"ヒロインシッター"だとラギィの上司から聞いたけど」
「私の上司って、まさか秋葉原D.A.の大統領?被害者はサラマ・ニング。ドアマン情報だと、1705号室のピタソ家の"ヒロインシッター"。で、いつまで私につきまとう気?」
「次のSF小説のアイデアが湧くまで」
アキバに"リアルの裂け目"が開いて以来、腐女子がスーパーヒロインに覚醒する事例が相次ぐ。
そうしたスーパーヒロインの出産も相次ぎ、ヒロイン資質を受け継いだベイビーの誕生例も多い。
そうしたベイビーの世話役が"ヒロインシッター"だ。
「こーゆーシチュエーションがSF作家の感性とやらを刺激するワケ?」
「そうさ。色々な意味でね」
「でも、殺されたくなかったら捜査の邪魔はヤメてね」
ラギィは1705号室のドアをノックする。
「ピタソさん?万世橋警察署のラギィ警部です。サラマさんの件でお話を」
「どうぞ入って…あら?お連れは?」
「こんにちわ。アキバのテリィです」←
第2章 アキバを出るな
「パパとママは居間でお話しスルからね…息子には、未だ何も話してなくて。ねぇ貴方?」
「うん。息子はサラマに懐いていました。子供の扱いが上手だった」
「サラマは、ホントに良い子でした」
ピタソ夫妻は、口を揃える。
「残念です」
「あの日、サラマが迎えに来ないと学校から連絡があって、スマホにかけると留守電でした。だから、私が息子の迎えに行き、リアル帰宅したらこの騒ぎです」
「サラマさんを最後に見たのは?」
夫婦で顔を見合わせる。
「夫が昨日会ったのが最後です」
「朝は我々が息子を送り、その後でサラマが来ます」
「時間は?」
「11時です。サラマは来たら先ず掃除と洗濯をして、息子を迎えに行きます。夕食は夫と私の交代で、昨夜は彼が先に帰りました」
澱みなく応える夫婦。ウソではなさそうだ。
「サラマさんに悩みは?例えば恋人関係とか」
「恋人?侵入した変質者の犯行だったと聞いてましたが」
「捜査中です。統計的には顔見知りの確率も高い」
僕が煽るとピタソ妻は天を仰ぐ。
「あぁサラマ!なんてこと!元恋人のブレトと1ヵ月間付き合って別れたとか…もっとも別れたのは2年前ですが」
「ブレトですね?苗字は?」
「聞いてません。貴方は?」
「僕も聞いてナイな」
ピタソ夫は一瞬の間をおく。
「お邪魔しました!」
「え?あ、どうも」
「テリィたん、行くわょ!」
突然ソファから立ち上がるラギィ。
「サラマさんの御両親を御存知ですか?」
「連絡先と言う事ですね?残念ながら存じません。確か青森在住です」
「サラマさんの私物はありますか?」
「バッグがソコに」
リペアされたブランドバッグを指差す。
「お預かりしても?」
答えも待たズ、エレベーターに消える僕達。
「おいおいラギィ。アレで終わりか?」
「先ずは自分で調べたいの。あの夫婦は逃げナイわ。あら?バッグの中にスマホが見当たらない」
「思い切りバッグを漁ってるな。洗濯室に落ちてたりして」
「鑑識に聞いてみるわ。ふーん運転免許証が青森県の公安委員会なのね」
「サラマの死を両親に伝えるのか?」
うなずくラギィ。
「こーゆーのもテリィたんの小説の中なら楽なのに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「あ。ポルノ鑑賞だな?僕も入れてくれ!」
「テリィたん、人聞きの悪いコト言うな。裏のエレベーターの監視映像だ。表はドアマンがいるからな」
「見てくれ。被害者が洗濯物を抱えて地下の洗濯室に降りて行く。数分後、再び乗り込んで部屋に戻り、さらに40分後再び地下に向かってる」
刑事達が早送りで見せてくれる。
「洗濯物を洗濯機から乾燥機に移すためだね」
「YES。そして、コレを最後に画像はナイ。以降1時間以内にカメラに映るのは発見者のお婆ちゃんだけだ」
「じゃ犯人は階段を使ったのか?」
ワイワイやってるとラギィもやって来る。
「ラギィ。摩天楼の住人を調べないのか?」
「どうして?」
「住人が犯人の方が面白い。アキバで誰が隣人のコトを知ってる?連続殺人鬼"サム(ギョプサル)の息子"の時はどうだった?」
顔を見合わせるラギィと刑事達。
「確かに…誰も知らなかったわ」
「1608-B号室の男は?」
「誰?」
OK。僕のペースだw
「1608-B号室のモノ静かな男さ。髪も薄いが、影も薄くて目立たない。彼にとって若くて美しいサラマは、決して手の届かないスーパーヒロインだ。好奇心から彼女の行動を探り始める…」
僕が語り始めると、全員が一斉にヤレヤレって顔w
「彼女は、いつ1人になるのだろう?ソレが次第にエスカレートして逝く。監視カメラを避け階段を使うようになり、物陰に身を潜めてサラマを盗み見る。やがて、彼女が洗濯室に来るのを待ち伏せして…襲う」
誰かが唾を飲む音。
「生気のない彼女の瞳を見て、彼は、自分が犯した過ちに気づく。彼は、サラマに気づいて欲しかっただけだった。その時、乾燥機の熱を肌に感じる。動かないカラダを抱き抱え、優しくドラムに入れた時、幸運にもポケットにコインを見つける。スイッチを入れて、後は姿を消すだけだ…」
いつの間にか全員が息を殺して聞き入ってる。
「な?要はストーリーの"展開力"さ」
「わかったわ。摩天楼の住民も調べましょ」
「特に1608-B号室な」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風にしたらヤタラ居心地良くて客の回転率は急降下。メイド長はオカンムリだ。
「ありゃ?このエスニックな匂いは…スピアの実験料理?」
「チキンマサラです」
「御当人は?」
カウンターの中からソファを指差すミユリさん。
カリスマハッカーのスピアが寝息を立てている。
「後片付けはメイド長任せか」
「テリィ様の元カノ会の会長さんはお疲れみたいです」
「御屋敷のオーナーは僕。そして、メイド長はミユリさん。常連だからとワガママを許しちゃダメだ」
御機嫌斜めの僕にミユリさんが"牽制球"を投げる。
「テリィ様。お腹空いてますか?」←
「"マチガイダ・サンドウィッチズ"でチリドッグを食べて来たょ。美味かった」
「(食べ物の話をスルと直ぐ機嫌がなおる。扱いやすいわw)で、今回の被害者は?」
僕は声をヒソめる。
「"ヒロインシッター"だ。コレからあーゆーヤマは増えてくるだろうな」
「私はアラサーになってから"覚醒"した遅咲きヒロインなので"シッター"っていまいちピンと来ないのです。ジェダイ・イニシエイトみたいなモノでしょうか?そもそもヒロインに"シッター"は必要なの?」
「アキバで"リアルの裂け目"が開いて以来、次々とパワーに覚醒して逝く腐女子を見て、人類創世を直感スル人もいれば、ミュータント、地球幼年期の終わり、と恐怖して忌み嫌う者もいる。"反ヒロイン同盟"も結成された。スーパーヒロインの人類史におけるポジションは、未だ確立されてナイ」
御屋敷のモニターに突然ルイナが映る。ハッキングだw
「人類創世?アニメのヲヴァンゲリオンみたいね!ヲヴァの話したい!白い月と黒い月と運の尽き…」
「違うのょルイナ。テリィ様と子守の話をしていたの。もしかして、テリィ様も"シッター"に育てられたのでは?」
「家に"ばあや"はいたな…大酒呑みの変人で、僕の世話よりTVのメロドラマに夢中の無責任な老女だった。でも、マトモに育ったから良しとしよう」
"ソレはどーかしら?"と同時に首を傾げる女子2名←
「とにかく"ばあや"を恨んではいない。あの時に処女作の構想が練れたからね…あ、もしもし?ラギィ?」
会社から持たされてる社給スマホが鳴るw
「この時間に?今から?しかし、連絡をくれるナンてウレしいな…え?業務命令?」
「テリィ様。私も御一緒します。ムーンライトセレナーダーに変身しましょうか?」
「いや、五月雨だ。濡れて逝こう」←
晴れてるが。1人になったルイナがボヤく。
「テリィたんの遺伝子、私にも入らないかな」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのママ、万世橋の地下にある検視室へ。
「ミユリも一緒?話が早いわ。コレを着て」
ラギィから青い手術着みたいな服を渡されるw
「刑事って、いつも遺体の横で冗談を飛ばして大笑いしながらランチを食べてるのかと思ったょ」
「海外ドラマの見過ぎ。見て。頭部の外傷が死亡の引き金ね。その衝撃で大脳に深刻な出血を招いた。テリィたんは、どう思う?」
「ゴーグルが傷だらけで良く見えない」←
溜め息をつくラギィ。
「仕方ないでしょ。現場は予算不足なの」
「死因は?」
「漂白剤のボトルで頭を殴られ、倒れた時にこめかみを机で打った。そのせいで出血したのが直接的な死因。あと面白いコトに…彼女は死ぬ少し前に性交してる」
「性交?!」
僕の社給スマホが叫ぶ。まだハッキングされてるw
「ルイナ。アキバD.A.の大統領補佐官にしちゃ今日はヒマそうだな。ウクライダのSATO加入問題は片付いたのか?…もしかして、性交って未知の言葉?」
「ち、ち、違いますぅ」
「とにかく!性交は殺される数分前かもしれない。時間の特定は無理ね」
僕は、率直な疑問を口にスル。
「レイプかな?」
「膣の裂傷もないし、精液も見当たらない」
「じゃ性交の証拠は?」
「殺精子剤の痕跡」
「コンドームか…」
「コンドーム?!」
またまた僕の社給スマホが叫ぶ。
「ルイナ。まさか、また初ワードじゃナイょな?」
「ち、ち、違いますぅ」
「とにかく!レイプではないわ。合意の上ね。性犯罪だとは考えにくい。とにかく、コンドームを使ってるし」
またまた僕の率直な意見。
「甘いょラギィ。イニシエイト・リストの順で殺す反ヒロイン同盟のテロリストなら自分のDNAの隠蔽を図るのは鉄則だ」
「あのね、テリィたん。そんなテロリストが洗濯室で"ヒロインシッター"を殺す?今回殺されたのは、ベイビーじゃなくてシッターの方なのょ」
「いいや。洗濯室テロが得意なテロリストだっているカモしれないだろ?」
自分でも脱線してると思いつつも止まらズにいたらムーンライトセレナーダー(いつの間にか変身してるw)から助け舟w
「で、ラギィ。被害者のスマホは見つかったの?」
「捜査中。電波は現場付近の基地局が拾ってルンだけど」
「元カレから当たりましょ。確認は?」
「ソレがブレトとしかワカラナイ。連絡先も不明。スマホ会社から任意提出された通話記録を出して」
捜査本部のモニターにデータが映る。
「あら?この通話は?何度も同じ番号から着信がアルけど」
「プリペイドスマホからです、ムーンライトセレナーダー。ただ、数週間前から着信は途絶」
「サラマが先に発信を止めてる。サラマの方から避けたのね。元カレはフラれたみたいだわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署の取調室。
元カレの名前はブレト。
「ブレト・バラトさん?ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです。コチラはテリィ様。何で呼ばれたのかわかってるわね?」
「サラマのコトで話を聞きたいと。職場に警官が押しかけて来た」
「サラマは恋人だったの?」
いきなり突っ込むミユリさん。
「わずか1ヵ月だったが。激しく萌えた」
「2人に何があったのかしら」
「とにかく、別れたんだ」
続いて突っ込む僕。
「別れ話はどちらから?」←
「え。いや、お互いからなんとなく」
「お互い?」
ミユリさんがウンザリって顔でICレコーダーをオン。
"サラマ、電話をくれ。頼む"
"サラマ、無視するな。話がしたいだけだ」
"他の男って誰だ?!お前は最低のあばずれだ!"
「まだあるわょ?」
「うーん大物俳優も真っ青な迫真の演技だ」
「だ、誰から手に入れたんだ?!」
シレッとした顔のミユリさん。
「スマホ会社から任意で提供を受けた」
「ソレからプリペイドスマホをカードで買うな。メッチャ簡単に追跡されるから」
「…隠すつもりはなかった」
ウソつく男に慣れてるミユリさんは溜め息。
「そう?ではなぜウソをついたの?」
「フラれるのは不愉快だょな。僕も浮気されたコトがある。大して好きでもなかったけど、1週間もメガ盛りばかり食べた。ソレが男だ」←
「俺は違う」
だろーな笑。
「では、なぜサラマの死を知っているの?」
「セフレから聞いた。クロエ・リドソ。サラマにイニシエイト・リストの仕事を紹介した子だ」
「貴方は、なぜ彼女を知ってるの?」
澱みなくスラスラ答えるブレト。
「クロエも、あの摩天楼で"ヒロインシッター"の仕事をしてルンだ」
「…事件の夜、貴方は何処に?」
「警察が押しかけて来た職場だょ!監視カメラでも勤務記録でも何でも確認してくれ!おい、俺は容疑者なのか?」
もっともな疑問だ。だが、僕達に答える義務はナイ。
「帰ってもらって結構ょ」
「ただし、アキバを出るな」
「…わ、わかりました」
なぜか最後は殊勝に敬語を使って出て逝くブレト。
何が効いたのか全く不明。ミユリさんは僕に問う。
「テリィ様、街を出るなって…何か法的な根拠でも?」
「特にナイな」
「…次から使わせていただきます」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原のセントラルパーク、和泉パークは雑居ビルの谷間にある児童遊園だ。ムーンライトセレナーダーと降り立つ。
「懐かしいな」
「テリィ様が育った白金にも児童遊園が?」
「子供達を良く連れて来た。僕も主夫だった日々があって…何だょ、おかしいかな?」
昼間の公園は、キッズが駆け回り、ヤンママやシッターが遠巻きに見守る。成人男性の姿は皆無だ。僕以外は。
「いいえ。ただ、意外だなと思って。楽しかったですか?」
「うん。シングルマザーにモテモテだったからね…ミユリさん、結婚は?。君は管理好きだし、万事に否定的だから向いてると思うな」←
「結婚に関しては慎重です(実はプラズマ生命なのでw)。とりあえず、テリィ様に結婚を求めたりはしません。御安心を…赤いベストだわ。彼女ですね」
ちょうど幼女の手を引いたシッターがパークに入って来る。
「クロエ・リドソさん?ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです。サラマさんのお話を伺いたいのだけれど」
「今ですか?」
「直ぐ済ませますから」
クロエはシッター仲間?に声をかける。
「マギラ、ベッカを見てて」
「OK…ヲタッキーズって、ホントにメイド服なのね。その年齢でカチューシャ?痛いわ」
「…クロエ、サラマにイニシエイト・リストの仕事を紹介したそうだね?"反ヒロイン同盟"から君に秘密の指令が下ったンだと思うけど、あ、ベンチに座る?」
2人は僕を無視してベンチに座り…僕は立ってるw
「あの人から聴いたのね?サラマは、パワーに覚醒してからアンチの店主に解雇されて困っていたの。だから"ヒロインシッター"の話を聞いて紹介してあげた」
「最後にサラマと会ったのは?辛いとは思うけど、必要な情報なの。教えて」
「私達、よく仕事前に待ち合わせをしてカフェでお茶をしていました」
アキバの井戸端会議はカフェで行われる←
「事件の日も?」
「YES」
「何か悩んでいる様子はあった?」
小首を傾げるクロエ。
「何かって…例えば?」
「新しいカレがいたようね。誰かしら?」
「そー言えばシッターのお仕事、時々延長していたわ」
シッターの延長?
「ピタソ家の仕事で?」
「YES。私達、家が近くて、前はよく一緒に帰ってました。でも、ココ数ヶ月、彼女は帰りが遅かった。あ、ピタソ夫妻はDINKSで、夕食時に交代で帰宅スルのがライフスタイル」
「そうらしいわね」
ココでクロエはポーズ。ホントは話したそうだが。
「私からこんな話は出来ないわ…だって、彼は既婚者ナンですモノ!」
「え。不倫?サラマが話してたの?」
「直接は聞いてナイわ。ただ、サラマは奥さんが戻らない夜に限って、いつもシッターを延長して帰りが遅かった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
人の不倫は蜜の味。不動産屋のピタソ夫に会いに逝く。
「今、物件を見ているが、少し狭過ぎるな…お客に確認してかけ直すよ。あ、どうも」
「ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです。サラマに最後に会ったのはいつですか?」
「え。ヲタッキーズってホントにメイド服ナンだな。しかしアラサーでカチューシャって…あぢぢぢ」
突然萌え出した背広を叩く。
「サラマに会ったのは?」
「彼女が死ぬ前の日だけど何か?」
「貴方が"夕食当番"の日だ」
外堀を埋める僕。人の不倫を暴くのは楽しいw
「YES。制服警官にもお答えしましたが」
「サラマに恋人がいたとの情報を得ている」
「ブレト・バラトだろ?」
僕は、人差し指を横に振る。
「違うだろ?」
「他に誰か?…おい!まさか俺を疑ってるのか?!」
「フフフ。ご名答だょピタソくん」
完全にマウントとる僕。
「待ってくれ!あり得ない!」
「では、なぜ彼女はシッターの延長を?」
「だから、夕食の準備だょシッターなんだから」←
何かおかしい。追い詰めてるハズなのに…
「だって、サラマがシッターを延長スルのは奥さんがいない夜だけじゃナイか!」
「落ち着いてくれ。全て誤解だ」
「男の言い分はいつもソレだ!ソンなの通用しない!男はみんな狼だ!」
しかし、見事に落ち着き払ってるピタソ夫。
「わかった。ギブアップだ」
「つまり?」
「浮気は事実だ。俺は妻を裏切った。だが、相手はサラマじゃない。メイドカフェの女性だ。俺は"夕食当番の日"も実は家には帰ってナイ。電話でサラマにシッターの延長を頼んで推しメイドとプレイしてた。通話記録を調べてくれ」
呆然となる僕。急にピタソ夫が大人に見えて来る。
「わ、わかった。ただし…アキバを出るな」
辛うじて一言返す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
完敗だ。"潜り酒場"にとって返す。
「で、ピタソ夫はシロだったンだって?
「うん。風俗メイドと浮気してた」
「とりあえず、ラギィに頼んだ通話記録を調べて」
待ち構えてたエアリ&マリレに指示するミユリさん。
珍しい?僕の自滅パターンを見て何処か楽しそうだ←
「純愛ナンて過去のモノだな。円満な夫婦ナンて、今どき何処にいるンだょ。エアリ、ブレトのアリバイは?」
「確認スルけど、鉄壁みたいね。でもね、テリィたん。朗報がアルの」
「え。アキバで不倫が解禁になったとか?」
誰も笑わない。絶不調だw
「聞いて。アリバイが崩れた人間がいるの」
「誰だょマリレ」
「当てて」
マリレは1945年の陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出して来た"時間ナヂス"だ。あ、彼女は国防軍w
「こっそり教えてくれょ…えええっ?!」
「え、え、誰なの?…ウッソ!」
「もはやアキバでは誰も信じられないな」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドアが開き、出て来たのはピタソ妻←
「ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです。事件当日はどちらに?」
「何の話?」
「あの日の行動についてウソをついていましたね。貴女は会社にはいなかった。出退勤システムに記録がナイ」
名誉挽回と畳み掛ける僕だが、ピタソ妻は平静だ。
夫婦でどーゆー神経?と思う反面嫌な予感もスル←
「ドアマンの目をかすめて家に戻るのは簡単だょね?」
「待って。あのね、夫は浮気をしてるの。ご存知?」
「モチロンだ!」
勢いづく僕。ピタソ妻は溜め息をつく。
「でも、私は知らなかったのょ」
「じゃ、どーして不倫を知ったの?」
「サラマから聞いたの」
フト遠い目になるピタソ妻。
「サラマは、後ろめたかったそうょ」
「だろーな」
「口止め料の話も聞いたの?」
ソレは初耳だw
「あぁ!気の毒なサラマ!」
「何で?」
「だって、不倫を隠すために利用されたのょ?」
またしても完敗パターン。虚しく反転攻勢をかける←
「そーゆー貴女は、ナゼ会社にいたナンてウソを?」
「夫に内緒で離婚の手続きを進めるためょ!」
「はい?」
赤い気炎を吐くピタソ妻。
「弁護士事務所に行っていたの。でも、くれぐれも夫には内緒でね。法廷でギャフンと言わせてやるンだから」←
第3章 浮気と不倫のコンチェルト
再び"潜り酒場"。
「姉様にテリィたん、おかえり。何してるの?」
「別に」
「いやらしいサイトを見て倦怠期を乗り越えてるの?」
ミユリさんとPCを見てたら常連のスピアが絡む。
「テリィ様と監視映像のDVDを観てただけ。エッチなサイトなんて見てないわ」
「ラギィがDVDを貸してくれたの?破格の待遇ね…ってか証拠を勝手に持ち出しちゃダメょ?珍しく熱心にお仕事してるみたいだけど、どーせお金にならないのでしょ?」
「新刊がヒットしてる間は僕の好きにさせてくれ」
スピアがPC画像を指差す。
「この子が"ヒロインシッター"?こんなかわいい子を家に入れるなんて、奥さんはバカじゃナイの?」
「いや、シッカリ者だ。ところで!被害者のスマホが見つかってないんだ。彼女自身はスマホをどこに仕舞ってるのかな」
「つまり?」
「エレベーターを最初に降りた時は身につけてたのに次にエレベーターに乗った時には見えない」
「シッター先に忘れて来たのかしら?」
「ソレが鑑識が探しても見つからナイんだ…待てょ」
その時(誰も期待してないw)僕の鋭い洞察力が火を噴くw
「ラップタイムに5秒のズレがアル」
「どーゆーコト?」
「洗濯と乾燥のため、サラマは1日に2回エレベーターに乗るんだけど、2回目の方が5秒早いょ」
「でも、同じ階から地下の洗濯室まで往復してるだけでしょ?何で差があるの?」
僕は頭をヒネる。
「変だょな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリさんと摩天楼のエレベーターに乗ってみる。
「テリィ様と2人でエレベーター。うふふ」←
「32秒だ。地下の洗濯室とピタソ夫妻宅のある17階の間は32秒。でも、2度目は37秒ナンだ」
「なぜ長いのでしょう。中でキスしてたから?」
「ミユリさん、エレベーターの中はカメラで絵を撮られてる。自重してくれ。つまり、2度目に乗ったのは17階じゃなくて…ココだ。21階?」
「まぁ。21階に何の御用かしら」
「とりあえず、降りてみよう」
しかし…ミユリさんって良い匂いだ←
「テリィ様、ノックしないで」
「なんで?」
「相手が怖がります」
目ぼしいドアをノックしようとスル僕を止めて、ミユリさんがピンポンする。ドアが薄く開いたら…老人が出て来るw
「誰だね?」
「ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーです」
「ヲタッキーズ?実際は普通のメイド服なんだな。ニュースショーでやってるビキニの奴じゃナイのか?」
「今は変身してないので」
スケベな独居老人?はミユリさんをジロジロと視姦←
「ミユリさん、この老人は恐らく認知症でハズレだ。次を当たろう」
「おい、アンタ。俺は認知じゃナイぞ。性欲もアル。アンタこそヲタッキーズなのか?男装?」
「ヲタッキーズは私だけです…あら?テリィ様、あの子」
ちょうどエレベーターが開いて、幸せそうな母子が降りて来るけど…やや?母子共に髪が翠色だょ。まさか、あの子は?
「ベッカだ。和泉パークでクロエがシッターしてた子」
「あ、ムーンライトセレナーダーだ!わーい」
「おい!78才を馬鹿にするな!まだまだ元気なモンだぞ」
叫ぶ老人の目の前でピシャリとドアを閉め、スーパーヒロインを見て無邪気にはしゃぐ幼女の頭を撫でつつ話しかける。
「失礼。この子はベッカ?」
「はい。ムーンライトセレナーダーの連れってコトは…もしかして、貴方はSF作家のテリィたん?」
「新刊にサインをしましょうか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あっさり部屋に入れてもらえた僕達は、アフタヌーンティーのセットで接待される。
サービス精神旺盛なミユリさんは、すかさずムーンライトセレナーダーに変身スル←
「殺される前にサラマは21階にいたのです」
「クロエに会いに来たのカモ。ウチのシッターのクロエとサラマは仲良しでしたから良く来てたわ。クロエもそうですが、サラマも"イニシエイト・リスト"専門の"ヒロインシッター"でした。確かピタソ夫妻?17階にお住まいの」
「…おい、何ゴトだ?眠れないじゃナイか」
突然ベッドルームのドアが開き、ロン毛をボリボリ掻きながら、ダラシない男が出て来る。誰だ?ヒモ?
「貴方、国民的SF作家のテリィたんょ」
「え?すげぇ!よーこそいらっしゃいました。確かアンタってムーンライトセレナーダーのヒモですょね?」
「失礼な。(今はw)ちゃんと印税で稼いでる」
慌てて、シャツのボタンをしめる夫とバチバチ目が合う。
「そー言えば、クロエがサラマが来たとか言ってたわょね」
「あぁいつだっけ?」
「貴方も家にいた日だわ。確か…火曜日?」
午後3時に起きて来た夫と会話スル妻。
「サラマはココにいたンじゃナイの?」
「あれ、どーなのかな。記憶にナイや。見てナイょ」
「…トイレを借りても?」
「ソコです」
何となくシドロモドロになって逝く夫を見かねて許しを乞うと、夫婦は仲良くそろって洗面所のドアを指差す。
僕は、洗面所に入り後ろ手にドアを閉める。サイドミラー裏の棚に歯磨き、歯ブラシに男女の化粧品。そして…
コンドームw
僕はニヤリと笑い、とりあえず水を流して大きな音を立て、ミラーに向かって髪を整えてダイニングへと戻る。
「貴方、サラマが来たかどうかも覚えてナイの?」
「クロエが来た後で、俺は昼寝をスルんだ。ソレは知ってるだろう?俺は夜の仕事ナンだ」
「…コンドーム」
僕はミユリさんに耳打ちスル。ピクンとするミユリさんw
「ココでですか?」
「(ん?何の話?)御主人、お仕事は?」
「ミュージシャンだが…とにかく、サラマがココに来た可能性はあるが、正確にはわからない」
「クロエに聞いてみましょうか」
妻は気を利かす…あるいは"妻の勘"が働いたのかw
「クロエには、既に聞きました。彼女は、サラマが来たとは言っていませんでした。事件の日、この部屋でサラマを見たコトはナイと」
「では、サラマは、いつ何をしにこの部屋に?」
「あら?何の音?」
何処かでスマホの着信音がスル。
「ベッドルームの方だわ」
さっき夫が起きて来たベッドルームへと入って逝く妻。
屈みベッドの下を覗いて着信、明滅するスマホを発見。
「アナタ!コレは誰のスマホなの?」
頭を抱える夫。
第4章 最後のTO
万世橋の取調室。ラギィ警部自らの取調べ。
「なぜサラマのスマホが貴方のベッドの下で鳴ってたの?」
「そりゃテリィたんが鳴らしたからだwってか、サラマが落としていったのだろう、多分、恐らく、probably」
「貴方が寝ていたベッドの下に彼女が落とした?」
僕達は、隣の部屋でマジックミラー越しに取調べを見てる。
「あと、貴方御愛用のと同じ銘柄のコンドームをゲットして
今、分析中ょ。殺精子剤が一致したら殺人だから」
「俺のコンドーム?あ、テリィたんか!そのためにトイレに?」
「手間を省いただけ。捜査令状を取って押収も出来るのょ。念のために教えてあげるけど、貴方、かなりヤバい状況だから」
「俺は殺してない」
「でも、寝た?」
思わズ口走り、ミユリさんに睨まれるw
「…わかった、警部さん。俺は確かにサラマと寝たが、サラマが家を出た時は、まだ彼女は元気だった」
「そう。で、その後、地下室まで行って殺したのね?」
「違う」
腹を決めたミュージシャンは語り出す。
「でも、サラマとの浮気は認めるのね?サラマは何時にベッドを出たの?」
「1時前だ。クロエが1時にベッカと戻って来るからな。その10分前ぐらいだったと思う。クロエに聞いてくれ。俺は家にいたから…」
「弁護士のフラン・ルソンです」
突然、取調室のドアが開き、背広姿の男が現れる。
「ハッカ氏の不利益となる質問は困ります」
「潔白なら問題は無いハズでしょ?」
「証拠がナイのなら連れて帰ります。OK?さぁ行きましょう。早く!」
せっかく覚悟をキメたミュージシャンを連れ帰る弁護士。
「専門家だと色々と厄介ナンだな」
アキバから出るな、と描いた台詞メモを横線で消す僕w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「テリィたんがかっぱらって来たコンドームの殺精子剤、現場のと一致したわ」
「コレで性交は確定ね」
「でも、遅過ぎたわ」
鑑識からの報告に肩を落とすラギィ。
「クロエが1時に戻っていれば、彼にはサラマは殺せナイ。先ずクロエに確認しましょう」
「必要ナイ」
「あらま、テリィたん。なぜ?」
僕は、オペレーターに話して防犯カメラの画像を流す。
「画像に時刻が入ってる。被害者サラマが部屋を出たのは12時45分。48分にエレベーターに乗り地下の洗濯室へ。死亡推定時刻は、その10分後だ」
「クロエは?1時に戻ったかを知りたいんだけど」
「はい、警部」
オペレーターが操作すると小走りに走るクロエの画像。
「いたわ。12時54分。サラマがEVに乗った6分後」
「待って。クロエ1人?子供は?ベッカ。ハッカ家の娘は?」
「誰かに預けたンじゃナイか?」
「うーん一緒に戻るとハッカが話してた。ミュージシャンの夫の方だけど、ソレが何か?」
ミユリさんと目が合う。
「偶然はあり得ないな」
「クロエは…サラマの行動を知っていた?」
「急げ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田花籠町の安アパート。
「ヲタッキーズです。クロエ・リドソさんは?」
「留守ですが何か?…へぇヲタッキーズってホントにメイド服なのね」
「行き先は?」
ジャージ姿のルームメイトが出て来る。
「電気街へ行くとだけ」
「入っても?」
「どうぞ。でも、彼女が出かけたのは1時間前ょ」
ズカズカ入る。棚の写真立てを指差す。
「ミユリさん。ヤバいカモ」
ハッカ家にも飾ってあった仲の良い家族写真だが…奥さんが写っている部分だけ、人の形にキレイにカットされているw
「あ。その家族のシッターをやってるって自慢してた。イニシエイトなんだって。彼女も"覚醒"してルンだって」
「彼女は今、何処に?」
「だから、電気街ょ。ラジ館じゃナイの?ドールハウスだから8F?」
能天気なルームメイトだ。あろうコトかオナラ←
「恐らくハッカ家に向かったンだ」
「ですね。奥さんからイアンが釈放されたと聞いたら、何をしでかすか」
「イアンの命が危ナイ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
摩天楼にはヲタッキーズが先行、エアリ&マリレが待機中。
「姉様、ドアマンに拠れば、ハッカ家の1705号室から応答がありません」
「クロエはイアンの帰宅前に先回りをして待ち伏せスルつもりね。万世橋を待つ時間はナイわ。テリィ様?」
「突入だ。ただし、僕も逝く」
エアリとマリレは顔を見合わせる。
「テリィたん。姉様は言えないから、代わりに私が言うわ。"テリィたんは足手まとい"」
「では、僕は"神田明神"の代わりに告げよう。"余計なお世話だ"。ソレに今回は、特殊装備を持参した」
「特殊装備?」
防弾チョッキだけど背中に大きく"SF作家"の文字。
コレで僕は安全だ…と思うけど現場は溜め息の嵐だw
「テリィ様。ラギィの権利放棄にはサインを?」
「モチロンだ(実は未だだけどw)」
「ROG。でも、口や手は出さないコト。お願いします」
「わかった。ガマンする」
「ソレと合図スルまで廊下にいてください」
「死んでも廊下にいる」
「では、参ります」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ヲタッキーズ!動くな!」
ミユリさんが薄く開いてたドアを蹴り開けるのと、窓からエアリ&マリレが飛び込むのが同時。音波銃を構えて叫ぶ。
「イアンさん?」
「生きてます」
「リビングルーム、クリア!」
フロアに長々とノビているイアン。息はアルよーだ。
「姉様、ウォークインクローゼット!」
「…助けて!ココは私とベッカだけょ?クロエは?」
「この部屋にはいナイようね。イアンを思い切り殴ってから何処かへ消えた?」
クローゼットの奥にいたハッカ妻と娘のベッカを救出スル。
怯えて震えているが何処も外傷はナイ。クロエの姿はナシ。
「クロエは合鍵で勝手に入って来た。私達をクローゼットに押し込めて…その後、帰宅して来た夫と言い争う声がしたわ」
「私、怖くてママとずっと隠れていたの!」
「姉様!クロエは地下です。音波銃を持って籠城中!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クロエが籠城スル部屋のドアに"laundry room:hours 8-10 pm"の文字。ココが洗濯室だ。
駆けつけた万世橋がサイキック抑制蒸気を焚いたので地下フロア全体に白い蒸気が立ち込める。
「クロエは?」
「サーモグラフで確認スルと、頭を抱え座ってる模様」
「住民の避難を最優先…ってか野次馬、追っ払って」
地下の階段口は摩天楼の住人で鈴ナリだ。老人率高めw
「どーする?ムーンライトセレナーダー」
「殺さズに保護します。ラギィ、OK?」
「モチロンょ、お願い。彼女、微弱だけどサイコキネシスだから。気をつけて」
洗濯室のドアの左右に張り付くヲタッキーズ。
「クロエ。ヲタッキーズのムーンライトセレナーダーょ。覚えてる?」
「1人にさせて!」
「ソレは無理。怪我をしてルンでしょ?音波銃を捨てて」
そう逝いながら、ドアを開けて入って逝くムーンライトセレナーダー。音波銃を捨てて、高々と両手を上げる。
「コッチを見て。私は撃たないわ。OK?…テリィ様!ソコでSTOPです。テリィ様は撃ちますょ!」
慌てて階段口まで引き下がる僕←
「イアンは、サラマと寝てた」
「やっぱり?」
「でも、その間ズッと私とも寝てたの」
二股だ。ヤルな、ミュージシャンw
「私を愛してると言ったの。私のために奥さんと別れるとも言っていた」
「DDね?そーゆーヲタクは、アキバに星の数ほどいるわ。ウソをつかれてさぞ辛いでしょうね」
「妊娠したの」
爆弾発言が飛び出す←
「貴女"覚醒"してたわょね?サイコキネシス?ソレじゃベイビーはイニシエイトじゃナイの。人類創世の希望だわ。カラダをいたわらなきゃ!」
「ミュータントょ!私達は、進化のメインストリームから分岐した澱んだ水たまりに棲む山椒魚ょ。でも、私は話したかった。それだけなの。イアンの相手は私だと。ただソレだけを話したかったの」
「事故だったのょね。知ってるわ」
意外な切り口だw
「そうなの!あの日ベッカを公園に残して、確かめに戻ったの。ズッと気になってた。イアンのサラマを見る目。そして、確信したわ。だから、イアンがシャワーを浴びに行った後、サラマと話をしに行ったの。ソレだけょ」
「殺す気はなかったのね?」
「当たり前ょ!だって、サラマは同じ"覚醒"を経験した、大事な友達だもの。なのに、サラマはわかろうとはしなかった!」
瞬間、クロエの音波銃を持つ手がブレるw
「だから、サラマが後ろ向いた時にサイコキネシスで漂白剤をぶつけたの。そしたら、サラマは勢いよく倒れて、スゴく怖くなって…だから、慌てて乾燥機に入れたわ。ホントに腹が立ったの。自分でも信じられないホドに」
「クロエ。音波銃を置いて。音波銃を置くのょ」
「ムーンライトセレナーダー…」
クロエの音波銃を持つ手がプルプルと震えて、やがて、指先から銃口がラッパ型に開いた音波銃がポロリと落ちる。
「バカな私」
「大丈夫。もう大丈夫ょ」
「パワーなんか、欲しくなかった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
意識を失ったママのイアンを載せたストレッチャーを制服警官が推して逝く。
その横で、クロエは頭を押さえられ、パトカーの後部座席に乗せられて逝く。
「ミユリさん。今回もケガもせズ、命も落とさズに現場を同行出来たょ」
「そうですね。とりあえず今回は、ですね」
「しかし、同情しているフリは圧巻だったな」
意外そうな顔のミユリさん。
「フリじゃありません。DDなヲタクは許せないわ」
「イアンは、この先多額の慰謝料を払うんだぜ?」
「ソレじゃ全く足りません」
僕は溜め息をつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"愛に破れた記憶がTOを苦しめる…"
カウンターに足を乗せ、ラップトップPCを打つ。
"潜り酒場"でのお気に入りの執筆スタイルだw
「犯人は捕まった?」
「うん」
「テリィたんの予想通りだった?」
絡みたがるスピアに僕は渋い顔だ。
「いいや。かなり違ったょ」
「ふーんテリィたんにしては珍しいね。でも、タマには驚くのも楽しいわ」
「スピアには、いつも驚いてるょ」
スク水の背中を見送りながら、僕はカウンターから足を下ろし、スマホのアルバムから古いチェキを呼び出す。
スクールキャバ"チョベリバ"で遊んでた頃のチェキ。スピアは白スク水に白衣を合わせてる。保健室デーだw
「ジェダイのイニシエイトは、テンプルで虐殺されました。私達スーパーヒロインもミュータントとして人類史から抹殺される日が来るのカモしれません」
「いいや、逆だょ。僕のSFでは、今回の事件はイニシエイト・リストの抹殺を図るアンチの陰謀ナンだ…うん、そうだね1万字くれょ今年のSF大賞を取ってみせるから」
「ホントですか?とっても光栄です。その日まで、私はテリィ様の良き"シッター"でありたい」
僕はベイビーか?笑
「その時、スーパーヒロインは人類にとって、どのような存在になっているのでしょうか」
「その日が来たら、たとえ全人類を敵に回しても、僕は君を推し続ける。"推し変"はナシだ。ミユリさん、君が僕の永遠の推し」
「そして、テリィ様。貴方が私の最後のTO」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ベビーシッター"をテーマに、スーパーヒロインの子女専門の"ヒロインシッター"達、殺されたシッター、シッターの元カレ、シッターのセフレ、シッターを依頼したスーパーヒロイン夫妻、殺されたシッターの発見者の老女、シッターに面倒を見られるヒロイン幼女、シッターを弄ぶミュージシャン、シッター殺しを追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。
さらに、スーパーヒロインをめぐる"アンチ"の存在やミュータントゆえの苦悩などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、国際観光都市として日本人も徐々にマスクを外し出した秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。