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思い付き不条理短編集

とある1人の冒険者の嘆き

只の思いつきです。

 頭上から振り下ろされてくる大斧をスレスレで躱し、その勢いのままミノタウロスの懐に入り込む。

 そして、隙だらけの右脇腹から左肩に向けて斬り上げる。

 その一撃が致命傷になったようで、ミノタウロスは断末魔と共に魔石へと変わった。


「まだだ、この程度じゃ全く追い付かない!」


 俺は、Sランク冒険者だ。

 Eランクが始まり、特定の魔物を倒すことでランクが上がる。

 Sランクは大体、このミノタウロスを1人で勝つことができる程の実力だ。

 だが、俺は今ミノタウロスを無傷で倒した。

 Sランクの中でも上位にいるだろう。

 冒険者になって1ヶ月。

 この速度でSランクにまで駆け上がるのはほんの一握りしかいないと言われている。


 だが、この程度では俺は全く満足していないし、優越感に浸ることもない。

 その理由はSランクへの昇格が認められ、その際のギルドメンバーによる話が全てを物語っている。



  ◇  ◇  ◇



「これで貴方はSランクね」


「おぉ、俺でも5ヶ月掛かったというのにな。お前は凄いぞ」


「儂は3年掛かったがな。ガハハハハ」


 受付でSランク昇格が通知されると、その言葉を聞き付けたのか後ろに並んできた2人が話しかけてくる。

 自分より優秀な人物がいれば、普通は賞賛もありながら多少は羨みや悔しさが混ざるものだが、この2人からはその片鱗も聞こえない。

 それも当然だろう。

 あいつらは俺より速くはなかったが早かった(・・・・)

 俺はまだSランクだが、こいつらはSSSランクとSSランクだ。


 Sが重なるなんて、どこかの音ゲーかよ。


 何故こんな分類が生まれたか。

 それはシンプルな話だ。

 突如世界に現れたダンジョン。

 1階層しかないと思われていたダンジョンのモンスターの強さによりランク付けが設定されたが、その発見によりシステムが破綻した。

 ダンジョンのボスと思われていたミノタウロスを討伐した後に地下階層が見つかったためだ。


「なに、お前ら余裕ぶってると簡単に追い抜かれてしまうぞ」


 受付の裏から顔を覗かせて話に割り込んで来たのはこのギルドのギルドマスターだ。

 そしてこのギルドマスター、なんとランクはMMだ。

 地下階層には更に階層が重なっており、直ぐにSSランクだけでは足りなくなった。

 そのため、Sが3つ重なった後のランクとしてM――マスターランクが追加された。

 

 Sに対してMってなんだよ。

 どちらかと言えば、Sの方が上っぽいぞ。


「そうは言うけどよー。最近始めた若者どもは軒並み成長率が高くてな。あんな簡単に上までいかれちまうと慣れてしまってな」


「儂の頃であれば、お主も化け物であったがな。ガハハハハ」


 既に引退したギルドマスター、MMランクだからと言って別にギルドで最強というわけではない。

 それは現役時代だとしても同じだ。

 むしろ、限界を感じて前を譲って引退したに過ぎない。


 その譲られたメンバー達は軒並み10代である。

 当然、彼等はギルドマスターより上のランクにいる。

 MMMかと言えば、そうではなく更に上だ。

 レジェンドランク――通称Lランクだ。


 S、Mと来たから次はLなんて誰が考えたんだか。

 フライドポテトかよ。


「そんな流れを作ったのは、やっぱ巫女様じゃねぇか?」


「そうじゃのう。あの戦い方はとても真似できぬ。最近の若いもんは凄いのう。ガハハハハ」

 


  ◇  ◇  ◇



 その巫女様。

 彼女が俺が冒険者になった理由だ。


 こいつは文字通り神社の娘で、俺と同い年で近所に住んでいる。

 その縁もあり、仲が良い。

 つまり、幼馴染みというやつだ。


 俺より1年先に冒険者となったが、それも「巫女なら回復魔法が得意なんじゃ?」なんて理由で知り合いに誘われたのがきっかけらしい。

 そんな彼女であるが、どうにも破格の才能があったらしく、今では最上位の冒険者だ。

 現在判明しているダンジョンの最下層で活動している。


 ただそれだけであるが、これによって彼女そして俺にとって実害が生じてしまった。

 それが交友関係についてのチェックだ。

 巫女様なんて崇められるようになってしまったがため、ファンクラブやらなんやらの団体が生まれ、関係者への善意(・・)による確認すら行われるようになった。


 当然その確認対象の筆頭にあたるのが俺だ。

 それもあり次第に疎遠になってしまったが、つい先月に偶然が重なり2人きりになる機会が訪れた。

 その際の彼女の表情を見てしまって、そのまま放置なんてもう俺にはできそうにない。

 どこまでできるか判らないが、せめて隣に立った際に後ろ指を指されない程度までは駆け上がらなければならない。


 しかし、彼女のランクについてだ。

 Lの後は、Rとか、はたまたT、G、Vなんてものが付けられると予想していたが、どこかで破綻すると今頃になって気づいた人物でもいたのだろう。

 Lから別のルールでランクが付けられている。


 その彼女の現在のランクは――――




「――6XL……洋服かよ」

E、D、C、B、A、S、SS、SSS、M、MM、MMM、L、XL、3XL、4XL、5XL、6XL


17段階中の12段階目だなんて……インフレは続く。

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