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「これは……思ってたより酷いな……」


 やっとの思いで見つけた人里は、僕が想像していたよりも、遥かに荒廃していた。


 建物は半壊し、畑は踏みならされ、大地は至る所が陥没していた。人の気配はない。もう既にこの村を捨てたか、あるいは、隠れているか。


 魔物には大した知性がない。奴らは目に付いた人間を喰らうが、建物に隠れた人間を探し出すほど賢くはない。個体によっては嗅覚や聴覚に優れ、隠れた人間を探し出す連中もいるが……そういった魔物が襲ってこない限り、建物に立て篭もるという作戦はとても有効だ。


 この村は、どちらだろう。魔物の襲撃で滅んだ村か、隠れて生き延びている村か。



 足を進め、村に入ろうとした、その瞬間。



「……!」



 どこからか、僕に対して向けられた明確な殺意を感じた。僕のことを敵視する視線を感じたのだ。


 その正体は、すぐに分かった。すぐ近くにある半壊した民家の隙間から、鋭い眼光が2つ、こちらを睨みつけている。どうやら、この村は放棄されたわけではないようだ。


「……この村の人ですか?」

「止まれ。両手を挙げろ」


 眼光の主が、低い声でこちらを威嚇する。言われた通りに、僕は両手を挙げた。


「お前、魔物を連れてきてないだろうな?」

「大丈夫です。近くにいた魔物は倒しました」

「倒した……? お前が?」


 魔物は、たとえ小型のものであっても、並大抵の力では排除できない。声の主が疑うのも無理はない。


 彼は暫く周囲の状況を確認し、魔物がいないことを察すると再びこちらを睨みつけた。


「……いいだろう、入れ」




 村に一歩、足を踏み入れる。よく見れば、そこらにある家からいくつも視線が飛んできている。他所者を警戒するような、決して好意的ではない視線だ。


 先ほどやり取りをしていた彼がいた家は、扉が開いていた。扉の向こうには、背の高い青年と、その後ろに立つ背の低い少年がいる。


 青年は顎で『入れ』と指示をする。それに従って、僕は彼らの家に足を進めた。



「座れ」



 居間のような部屋に通され、座るように指示される。大人しく、椅子の1つに腰を下ろした。


 青年は机を挟んだ向かいに座り、少年はそばにあった木樽に座る。まるで、尋問をされる犯罪者のような扱いだ。


「お前、誰だ? どこから来た? この近くに人里はないはずだが」

「ペルロス村から来ました。アレンといいます」


 青年の問いにそう答えると、彼は首を傾げた


「ペルロス村……? あそこはもう何年も前に滅んでるはずだが」

「海で遭難して、あの村の生き残りの人に助けてもらったんです」

「生き残り? あの村に……?」


 何やらぶつぶつと独り言を言っているようだ。何一つとして、嘘は吐いていない。尤も、その生き残りであるリリーが死んでしまったため、僕の証言を保証する人間がいないわけだが。


「いや、まあいい……それで、この村に何の用だ? 悪いが、人1人養うほどの余裕はないぞ」

「少し、話が聞きたいんです。この辺りの地理に詳しくないので」

「そうか。そういうことなら——」


 少し警戒を解いたのであろう青年が、何か言葉を紡ごうとする。しかし、彼の言葉は突然途切れた。




「——お前、アレンとかいったな……アレン……アレン・フランツ(・・・・・・・・)か?」




——彼の表情が険しいものとなり、僕を睨みつける。


「……はい。恐らく、あなたが想像している通りの人間です」


 僕が答えた瞬間、彼は机を跳ね除けて僕の胸ぐらを掴んだ。


「お前……勇者かッ……! 魔王討伐はどうしたッ!? こんなところで何していやがる!」

「兄さん!」


 今にも殴りかかりそうな彼を、少年が静止する。それでも彼は怒りを抑えきれずに、僕の顔を殴り飛ばした。


……正面から殴られた。避けようと思えば避けられたかもしれないが、避けてはいけない気がした。


 散乱した家具と、鼻から垂れ落ちる血。骨は折れていない、と思う。


「……すみません。魔王には、敗れました」

「敗れただと……? そんな五体満足の状態でか!?」

「……はい。仲間は、全員死にましたが」


 その言葉に、彼は顔を歪め、再び椅子に腰を下ろす。依然として怒りを露わにしたままではあるが、話をしてくれる気にはなったようだ。


「お前のせいだよ……お前が魔王を倒せなかったから、この村はこんな有様だ。親父もお袋も、魔物に喰われた」

「それは……」


 『すまない』。謝ろうとしたが、言葉が出なかった。今謝っても、彼の気は晴れないだろうし、かえって機嫌を損ねることになるだろう。


「もう一度聞くが……お前、何しにきた? お前のせいで滅びかけてるこの村で、何がしたいって言うつもりだ?」

「……魔王を倒すために、仲間が必要なんです。そのために、大きな都市に行かなくちゃいけない」

「はっ……仲間だけ死なせて逃げてきた勇者様が、また自分の盾になる人間を探してるのか。たいそうなこった」


 その言葉に、僕の腹の底にいた怒りが姿を現そうとした。僕を生かすために死んでいった皆を、侮辱されているような気がして。


 けれど……理性でそれを押さえつけた。彼の言っていることは間違ってはいない。僕は、皆を盾にして逃げ延びた惨めな勇者だ。その事実に違いはない。


 だからこそ……頭を下げた。額を地面に擦り付け、懇願した。


「どうか……地図でも何でもいい。この辺りの地理が分かるものを、見せていただけませんか。お願いします」


 彼の表情が見えない。が、小さな舌打ちの音だけは聞こえてきた。


「……ユーリ。このクソ勇者を見張ってろ。俺はウォン爺さんから地図を借りてくる」

「分かった」


 青年が立ち去る大きな足音と、扉を力強く閉める音。家全体が、少し揺れた。


 顔をあげると、目の前に少年の顔があった。道端を歩く虫を眺めるような目で、こちらを見ている。


「……ごめんね。兄さん、最近少し荒れてるから」

「いや……」


 少年が手を差し伸べた。その手を取り、立ち上がると、少年は机と椅子を元の位置に戻す。


「お茶でも淹れるよ。その辺の雑草のお茶だけど」


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