表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

旅立ち

——廃墟になったこの村でやるべき、最後の仕事。ここに戻ってきてから二日かけて、ようやくそれが終わる。



「…………」



 教会内部にある大きな十字架に手を合わせ、目を瞑る。無心でいるとリリーと過ごしてきた日々を思い出してしまいそうで、だから、必死に他のことを考えた。


 この教会には、リリーが眠っている。正確には、リリーの手が、だけど。彼女がそれを望むかどうかは分からないけれど、僕にはそうする他なかった。


 何度も、何度も吐いた。吐いたし、泣いた。どうして僕はこんなことをしているんだろうって、そう思うこともあった。


「ごめんね、リリー……僕は……僕は、君を守れなかったッ……」


 今にして思えば、リリーが助かる道はいくらでもあったはずだ。


 たとえば、もっと早い段階で聖剣を使い、魔物を殺していれば。


 たとえば、魔物を殺した時に気を抜かず、すぐさまリリーを抱えて走っていれば。


 たとえば……たとえば……。



 考えればキリがない。ただ一つだけ言えることがある。僕にはリリーを守るだけの力があって、それなのにリリーを守れなかった。僕がもっとしっかりしていれば、彼女は死なずに済んだはずなんだ。



 そんなことを今更後悔したって、もう遅い、けど。僕はまた、後悔してるんだ。レッドとリストレアを見捨てて逃げた、あの時みたいに。


「今は、もう、こんなことしかできないけど……」


 ナイフを取り、最後の仕上げに取り掛かる。十字架の一番下に、『リリー』という名前を新たに刻む。僕がこの村を離れれば、リリーのことを知る人間は誰もいなくなる。彼女がここで生きてきたことも、ここに眠っていることも。


 だからせめて、ここに刻んでおこう。リリーの存在を。


 そうして、立ち上がる。この村とはこれでお別だ。次に戻ってくるのは、かなり先になってしまうだろう。



「……さようなら、リリー。せめて、安らかに眠っていて」



 彼女との思い出が頭をよぎる。それを振り払って、教会を後にした。





 村を出る前に、もう一つだけ確かめておくことがある。船に残しているであろう、魔物除けの結界の回収だ。あの嵐の中を流れ着いたのだ。無事である保証はないが、確かめておかねばならない。


「確か、この辺に船の残骸が……」


 海岸線で探索をすると、それらしき残骸がいくつか転がっていた。意匠に見覚えがある。恐らく、僕たちが乗っていた船だろう。


 しかし……発見した魔物除けの結界——正確には、その発生源となる結界石(けっかいせき)と呼ばれる石は、あの嵐で半分に割れてしまっていた。


「まあ、無理もないか……すごい嵐だったもんな……」


 壊れる前は、金属でできたような球体に、青い光の筋が走る、手のひらより少し大きなものだった。半分に割れたその中から覗いていたのは、小さな、それこそ指の爪より小さな鉄のかけらが組み合わさった部品。


 現代の技術では解明不可能な超越技術品……通称、『遺物』。とんでもなく貴重なものだったというのに、惜しいことをした。


……まあ、壊れてしまったものは仕方がない。あの嵐の中を無事に生還できただけでも儲け物だと考えるべきだ。せめて、結界石の残骸だけでも持っていこう。




 そうして荷物をまとめ、本当の意味で村に別れを告げる時が来た。思い返せば、リリーとの思い出ばかりが詰まった村だ。既に滅んでいるから、当然と言えば当然だが。


「全部終わったら……帰ってくるよ。君が好きだったこの村を、復興させる」


 大切な目的が一つ、増えた。魔王を倒し、この世界が平和になったら……この村に戻ってこよう。そして、リリーのためにも、この村を復興させるんだ。


「じゃあね、リリー」




——そうして、たった独りの長い旅路が始まった。ここがどこだか分からない。食べ物も水も、潤沢にあるわけではないし、魔物だって襲ってくる。歩けど歩けど森や遺跡ばかりで、人がいた痕跡すら見当たらない。


 それでも歩き続けた。魔王討伐は一人では絶対に不可能だ。仲間がいる。世界を救うという、強い意志を持った仲間が。


 だから歩き続けた。歩き続けて……一ヶ月が過ぎた。



「……街道?」



 小さな森を抜けた先に、街道があった。他とは明らかに違う、整備された道。誰がどう見ても、これは街道だと答えるだろう。


 街道があるということは……この道をどちらかに進めば、人里があるということ。もしかすると、まだ滅んでいない人里に辿り着けるかもしれない。


「よし……行こう……!」


 頬を叩き、気合を入れ直す。ここから先は魔物から逃げてばかりもいられない。下手に魔物を引き連れたまま人里に近付けば、人里を危険に晒してしまうからだ。


 行こう。ここがどこなのかを知るためにも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ