お茶会
あの舞踏会以来、お茶会のお誘いがひっきりなしらしい。
らしいというのは断ってもらっているからだ。
ただ、断れないお茶会もある。
第1王女ヘレン様と第2王女のティナ様からの連名でのお茶会のお誘いである。
ヘレン様はお兄様の婚約者様?候補というのも畏れ多い気がするけど未来のお義姉様になるだろう方。
そして、第2王女様のティナ様はスペンサー公爵の次期当主のミュラー様の婚約者である。
ミュラー様はフィリップ様の弟である。
「ヘレン王女もティナ王女も殿下がはじめて結婚の意思表示を示したのが嬉しくて、リシェルと話したいんだろうな。それにヘレン王女はたぶんリシェルの義姉になるだろうから話したいんだろう。」
「そうですか。」
「気が進まないなら断ろうか?」
「いえ。王女様達からのお誘いをお断りするなんてできません。ただ、なぜ私なのかわからなくて。」
お兄様から答えが出ることはなかったけど…
「それはね!アレクはリシェルだからよ。」
ヘレン王女様の言葉にうんうんと頷くティナ王女様。
お茶会にきてびっくりしたのは私の他に招待してる人はいないということと、王女様達からお茶会の招待なんてすることはないということを聞いた。
王妃様がお茶会の招待をしたときに参加することはあるけど自分たちからお茶会を開くなんてことないという話だ。
じゃ、なんで?
と思ったら
「リシェルと話をしたかったの。」
と屈託ない綺麗な笑顔を向けてくれるヘレン王女様。
「私もリシェルが心配だったし、ミュラーも心配してたから会って話をしたかったの。お兄様、傷心のリシェルをあんな風に舞踏会でリシェルやみんなに自分の気持ち意思表示しちゃったでしょ?だから、心がおいつてないんじやまないかなって。」
ティナ様が優しい眼差しでアイスブルーの綺麗な瞳を向けてくれた。
心がポカポカとする。
これが王族の方達の気遣いなのかもしれない。
「お気遣いありがとうございます。アレク様…あ、殿下のお気持ちは嬉しかったんです。」
「アレクでいいわよ。」
私が言い直したのを笑いながらそう言ってくれるヘレン王女様。
「ありがとうございます。ただなぜ私なのかわからなくて。頭脳明晰、文武両道の殿下にはもっと相応しい方いるんではないかと。それに私は傷物ですから王太子妃なんて畏れ多いというか、なんで私なのかわらないんです。」
「それはね!アレクはリシェルだからよ。」
お兄様から返事がなかった疑問にヘレン王女様がそう言うとティナ王女様もうんうんと笑顔で頷いていた。
どういう意味なのかますますわからなくなってきた…。
「悩め悩め。」
フフと笑ってそういうヘレン王女様。
「ミュラーは王太子妃が務まるのはリシェルしかいないって言ってたのよ。王太子殿下はさすが見る目あるなって。悔しいことにもう少し早く生まれていれば自分がリシェルに申し込んでたのにって。」
頬を膨らませてるティナ王女様。
可愛らしいなぁと思って思わず笑ってしまった。
「笑った。やりましたよ!お姉様!」
ティナ王女様が嬉しそうにヘレン王女様にそう言うと
「さすがティナ。その調子よ。」
ティナ王女様に頭を撫でるヘレン王女様。
ふとマリアの事を思い出してしまった。
私もマリアの頭をあんな風に撫でていたなと…。
少し胸がギュッとなった。
マリアは今どうしてるかな?
まだついてはいないわよね。
馬車で1ヶ月ほどかかるところだし。
「リシェル?」
ヘレン王女様の声にハッとする。
ぼーっとしてる場合じゃなかった。
「え…?え!?」
びっくりするほど大きな声が聞こえて振り向くとそこにはアレク様とお兄様、それにミュラー様がいた。
示し合わせたかのように…。
私は慌てて立ち上がり
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。」
「スペンサー公爵ご令息様にご挨拶申し上げます。」
王太子殿下とミュラー様にご挨拶すると
「さすが綺麗なカテーシね。憧れの公女様よね。」
ヘレン王女様の言葉に
「この間の舞踏会の時の挨拶でお母様も言ってたもんね。リシェルの礼儀作法をあなた達も見習いなさいって。」
頬を膨らませてそういうティナ王女様。
「そんな事は。」
「謙遜しなくていいよ。リシェルが一番なのは私が知ってるから。努力家で文句も言わず日々礼儀作法や教養を身につけてきたことも。図書館に通ってこの国や近隣諸国の事を調べていたことも。そんなリシェルだから私はリシェルと共にいたいと思ってる。この国を一緒に支えていけるのは君しかいないと思ってる。」
なんで図書館に通っていた事をアレク様は知ってるのか…。
「とりあえず3人とも座りなさいよ。フィリップはこっちでミュラーはティナの隣でアレクはリシェルの隣ね。」
「話は長くなりそうですしね。」
ヘレン王女様がみんなを座らせるとティナ王女様はにっこり笑ってそういった。
なんか楽しくなりそうって感じの笑顔で私は内心何が起きるかドキドキだった。
「あ、なんで図書館にいたこと知ってかというと、私も図書館に入り浸ってたから。王宮の図書室ではない資料も王立図書館ならあるものもあるし、同じ本でも王宮の図書室だと破れてたりするものもあって、図書館に通っていたんだ。その時にリシェルを見かけたんだ。」
「アレク様がいるなんて気づきませんでした。」
「お忍びだから変装もしてたし、それにリシェルいつも下向いて本読んでいたからね。同じ本読もうと思ってたら先約がいたと思ったらリシェルだったって事があって。」
「そんな事が…。気づかずに申し訳ありませんでした。言っていただければすぐお返ししたのに…。」
「先約から本とったりするほど横暴じゃないよ。」
苦笑いでそういうアレク様に慌てて
「そういう意味でなくて王太子殿下はお忙しい方なので私はあとでいつでも読めるので言っていただければと。」
「忙しいけど本当に忙しければ自分で図書館に行ったりはしないよ。だからそこは気にしなくていいよ。」
そう言って笑顔を向けてくれるアレク様。
頬が熱くなるのがわかった。
「あのとき読んでたのイリス王国の流行り病に関する本だったよね。」
確かに読んだ気がする。
「あとは聖魔法に関する本とかね。」
見られてた…。
もしかして、あの瞬間も?
「聖魔法?」
お兄様が私を見る。
「人を癒やす事のできる魔法。」
ミュラー様がそうつぶやいた。
もし何かあったときの為にもし自分ができるならと読んでいた。
何度か試してるうちに光るものが手から出るようになった。
ただ、それが聖魔法なのかはわからない。
「マルチネス公爵家は遡れば聖魔法の家系だ。」
「「え!?」」
私とお兄様が同時に言葉を発するとアレク様は
「聖魔法が使えてもおかしくはないと私は思うがリシェルにそんな魔法使えるようになると危ない事をしそうなので使えないほうが良いと思っている。」
アレク様…。
「確かにリシェルは危険を顧みないな。だめだな。」
お兄様もそう言うと
「リシェル嬢は優しい人ですからね。誰に対しても。」
ミュラー様の言葉の奥底にフィリップ様とマリアの事がある気がした。
私は首を振って
「私はひどい人間です。二人のことも私ならもっと違った形にできたかもしれません。それをしなかったので。ただ二人には慎ましくても幸せでいてほしいとそれだけは願ってます。フィリップ様の事もマリアの事も好きだったので。好きだった二人には幸せになってほしいと思います。」
頬に流れた涙を拭ってくれたのはアレク様だった。
「リシェル、大丈夫だよ。ちゃんと吐き出して、そしたらもっと気持ち楽になるから。君はあの2人が大好きだったんだよね。2人のために身を引いたつもりが2人が遠い地に行かされて責任を感じてるんだよね。でも、大丈夫だよ。2人を信じて見守っていこう。」
「アレク様…。ありがとうございます。」
私の頭を撫でてくれるアレク様。
お兄様が1つコホンと咳払いをする。
「エリックってシスコンよね。」
ヘレン王女様の拗ねたような声にも慌てずお兄様は
「私はリシェルが大事です。王太子であろうとリシェルを悲しませるようであれば容赦しません。」
そう言い放った。