謝罪とその後
スペンサー公爵夫妻とフィリップ様が慌ててやってきたのは次の日の朝だった。
応接室で土下座をして謝っていたらしい。
私はその場にいかなかった。
私の意思は伝えてある。
婚約の解消とマリアとの新たな婚約をと…
フィリップ様はそれを聞いた瞬間は喜んだらしい。
想い人と結ばれるように優しいリシェルが頼んでくれたんだと。
それも一瞬で終わった。
リシェルとの結婚が破断なったので弟のミュラーに家督を譲ることとフィリップを廃嫡することを決めたと伝えたからだ。
「父上、なぜですか?マルチネス公爵令嬢と結婚するのには変わりないですか?なぜミュラーに継がせることになるんですか?確かにマリアはリシェルより礼儀作法や教養は劣ってるかもしれませんがこれから頑張れば挽回できます!」
私の言葉に父上もミュラーにも鼻で笑われた。
「ミュラーどういうつもりだ!?」
「兄上は知らなかったのですか?マリア嬢は公爵家の令嬢ではありません。マルチネス公爵の妹君の娘で伯爵家から離縁された公爵様の妹のお腹の中にいた子だそうですよ。もちろん養子縁組はしてません。後見人にはなってるようですがしっかりしたお子さんが二人もいるのに養子縁組もなにもないですもんね。」
「な…。」
「ちなみにリシェル嬢は兄上との婚約解消を心待ちにしていた王太子殿下から舞踏会の招待をうけてるはずですよ。王太子殿下の見る目はさすがです。リシェル嬢ほどの王太子妃に相応しい方はいないと私も思います。」
「え?」
「王太子殿下は無理に婚姻を結ぼうとは思ってないようです。少しずつ寄り添って心の傷を癒やしてほしいとおっしゃってましたとティナ王女が言ってらっしゃいました。」
「ティナ王女?」
「あ、兄上にはまだ話してなかったですね。私が公爵家を継ぐ話になり、正式にティナ第2王女の婚約者となることになりました。」
「え?ティナ王女とお前が?」
「はい。まぁ、公爵家を跡取りとならなくてもティナ王女とは婚約することにはなっていましたが。兄上はマリア嬢とどうかお幸せに。」
「そういうことだ。愚息。マルチネス公爵家いくぞ。」
放心状態のままマルチネス公爵家と連れてこられた。
なにがなんだかわからなくなっていた。
なぜこんなことに…
マルチネス公爵夫妻と親友であるエリック、そしてマリアがいた。
応接室に通されるなり、両親は床に土下座をした。
呆然とたっていた私を父上は乱暴に床に座らせて、頭を床にぶつける勢いで倒させた。
「この度は愚息のせいでリシェル公爵令嬢を大変に傷つけてしまったこと申し訳ありませんでした。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
父上と母上が謝罪をのべ頭を下げると同時に私の頭も下げさせられた。
一瞬見た、マリアの表情は真っ青だった。
「とにかく今後の事をさっさと話したいから座ってくれ。」
マルチネス公爵がそういうと両親とともに私もソファに座るように促された。
その隣にはマリアも座る。
「フィリップ、マリアとの事は認めるな。お互い想い合ってると。」
エリックがそう聞いてきた。
「リシェルには申し訳なく思っているがマリアの事を想ってる。もっと早く話すべきだった。」
「フィリップ様。」
真っ青だった顔だったマリアの表情にうっすら赤くなる。
こんな状況だが可愛いと心の底から思った。
「だそうです。父上。スペンサー公爵。」
「では、すぐにリシェルとの婚約は解消させていただく。マリアとの婚約するのであればスペンサー公爵で面倒を。私はマリアの後見人もおりる手続きをします。新たに実の親であるライジン伯爵に後見人を頼むか認知してもらうかしてもらうか、親も後見人もいない平民として廃嫡されたとはいえ、長男の正妻とするかはスペンサー公爵家の判断に委ねます。これからはマリアとマルチネス公爵家はなんの関係もないということをお忘れなく。」
「え…お父様?お母様?お兄様?」
「私は君の兄でもなんでもない。しいて言えば従兄妹だ。軽々しくお兄様と今後呼ばないでほしい。」
「そんな…お父様、お母様。」
目にいっぱい涙をためてマルチネス公爵夫妻の傍にいこうとしたが
「私の娘はリシェルだけだ。娘よりも甘やかしてきてしまった私にも責任はあるがお前は妹の娘で私がこの世で一番嫌いなライジン伯爵の娘だということを忘れていたよ。実の娘にこんな辛い目を合わせてしまうなんて…。リシェル…。」
「リシェルごめんなさい。」
マルチネス公爵夫妻の涙でリシェルに謝罪姿を見てマリアはうごけなくなった。
「マリア。大丈夫だ。私がマリアについている。」
「フィリップ様。」
マリアは目に涙いっぱいためて私を見上げた。
「フィリップとマリアにはスペンサー公爵領の西にある別宅に住んでもらうことにする。」
「西の別宅…」
「キルフィスにある別宅だ。」
「父上あそこは!?」
「そうだな。気軽にどこにもいけないような場所であるがそこでの開拓がうまくいけば別の別宅も用意しよう。そこの領地をお前たち任せる。」
キルフィスの別宅
周りには森や川整備されていない道。
民家らしきものもなく、買い物に出るにも何時間もかかる場所だという。
マリアに耐えられるだろうか?
ふとそんな疑問が頭をよぎった。
私を想ってくれているマリア。
私達は想い合っている。
それだけが大事だ。
「わかりました。父上。キルフィスの別宅へマリアとともにいきます。マリアもいいね。」
「フィリップ様と一緒ならどこへでもいきます。」
にっこり笑ってそういうマリア。
大丈夫だ。
二人なら乗り越えられる。
マリアの笑顔を見てその時はそう信じていた。