表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と契約した俺は天職を全うする  作者: アイス奢って下さい
7/7

6業斬




 戦場における魔王スメットの役割は大砲だった。


 魔族と人族が入り混じり、乱戦となっている場所へ殲滅魔法をドカンと。


 どれだけの魔族が犠牲になったとしても、少しでも人族サイドの戦力を削れればそれで御の字。とにかく殲滅魔法をぶっ放してればいい。


 殲滅魔法をポンポンと使う魔王は人族にとって脅威だ。そんな脅威、人族サイドが見逃すはずがない。魔王は人族サイドの兵士からよく狙われた。


 だが、魔王は人族の脅威であると同時に、魔族サイドの最高戦力でもある。魔王がひとたび倒されれば、魔族サイドの劣勢は必須。人族サイドが魔王を討伐しようとすればするほど、魔族らは魔王の護衛を手厚くした。


 だからだろうか。


 魔王スメットは暇だった。


(この体勢が一番楽なんだよな〜)


 甲冑を着ているときに一番楽な姿勢、仁王立ちで腕組みといういかにも魔王らしい態度で戦場を見渡す。


 本来ならばここで殲滅魔法を放つべきなのだが、魔王スメットは最初からこの戦の勝利を諦めている。積極的に戦う気はない。


 それに、この戦場には剣聖もいるのだ。下手に目立って剣聖に目を付けられたら大変だ。


(いいものを持ったやつはいないし、やることはないし、ディアは別の場所に行っちゃったし………)


 魔王スメットが真面目に戦闘していなくとも、誰も咎めない。大抵の魔族は『魔王様のことだ、きっと不可視の攻撃魔法を放っているに違いない』などと考えている。


 魔王は普段から人前にでるときに、鎧と兜を装着しているため、スメット本来の体格や素顔を知る者は極少数。殆どの魔族は、魔王スメットは威風堂々とした堅物に違いないと思っている。


「ふむ………重いな」


 魔王スメットの思わせぶりな発言も、魔族の魔王真面目説を後押ししていた。今の言葉も、


『みんな疲れていないのかな。俺なんて鎧来ているだけで疲れるのに。あー、この兜も重いんだよな』


 という意味での発言だ。


 だが、魔族は知らない。魔王スメットがヒョロヒョロ体格であることを。デユラ砦における魔族の勝利を諦めていることを。


 魔王スメットは黒魔力を粘土のようにこねて遊びだした。スメットからすれば手遊びをするようなものだが、どうやら周りはそう捉えなかったらしい。


「なんだ、これは!」

「誰か偵察をっ………」

「いや、この圧倒的な魔力…………ッ」

「二つ名がある魔族なのか!」


 魔王スメットにとって、それはただの黒魔力。だが、他者からすれば黒魔力とは負のオーラそのもの。


 魔力は目に見えないが、肌で感じることができる。それは、第六感とも言うべき繊細なもの。


 ありそうでない。たぶんここにある。大体こんなものだろう。そんな、あやふやな魔力。だが、黒魔力だけは例外だった。


 種を問わずして、不快にさせる。


 嫌らしげで、鬱陶しく、穢らわしい。


 だから、剣聖に気づかれた。


「これは………魔王だッ…………!」


 スメットは黒魔力で粘土遊びをしているため、剣聖がどこにいるか知らない。


「ふぅぅうううー」


 剣聖が大きく息を吐き出す。スメットは粘土遊びに夢中になっていたため、気づかない。


「死ねっ!」

「長老の仇!」

「剣聖だ、討ち取れ!」


 剣聖が魔王スメットを目指して駆けてくる。それを何人もの魔族が拒むが、何せ相手は剣聖だ。次々と魔族が倒れていく………


 そして、魔王スメットはやはり粘土遊びに夢中だった。剣聖に気づく気配すら見せない。


 剣聖が相棒とも言うべき愛剣を構え、大きく踏み込む。魔王スメット、まだ気づかず………


「業斬!」


 そして、剣聖が技の名を口にしてやっと。魔王スメットは気づいた。黒魔力をこねこねしていたら、いつの間にか剣聖が来ていたことに。


「え!? 嘘でしょ! 剣聖来ちゃったよ!!!」


 相手は曲がりなりにも剣聖。とっさに身構えた程度で、その刃からは逃れられない。


 剣の刃渡りに獄炎が纏わりつく。これでは、どんな防御を意味をなさない。一刀両断の元、全て塵となる。


 魔王スメットは回避行動を取ることができない。だから………


「はぁあああー!」


 剣聖の掛け声のもと、あっさりと首元に刃の侵入を許した。


 獄炎は一層とその威力を高め、かの魔王を焼き殺さんとする。剣聖の振る刃は確かに魔王スメットの首元へと滑り込んだ。


 そう、滑り込んだ。


 剣聖の剣は魔王スメットの首を斬らず、その剣に纏わりつく獄炎は魔王スメットを焼き焦がさなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ