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落星の継承者  重量変化だけしか使えない主人公が、バカでかい武器を振り回す話  作者: 青井リンボ
第1部

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第53話

 コロニー内部では、開闢軍精鋭部隊が地下深くまで進入していた。

 坑道は進むにつれて広くなり、壁面には無数の卵が並んでいる。

 周囲には、地面そのものが脈動しているような錯覚を覚えるほど濃い魔力が満ちていた。


「止まれ」


 先頭を進んでいた男が拳を上げると、後続もすぐに足を止めた。

 

 その先で坑道は大きく開け、巨大な空間へと繋がっている。

 偵察役の男が腹這いになって縁まで進み、僅かに顔を出した。


「……いた」


 低い声が漏れる。

 

 空間の奥には、周囲のファングアントとは明らかに異なる巨体があった。

 膨れ上がった巨大な腹部と太い脚。その身体から放たれる魔力は、ここまで遭遇してきたどの個体よりも濃い。

 ハイブクイーンだった。


 しかし、精鋭たちが警戒したのは女王だけではない。

 その周囲には、通常種より2回り以上大きなファングアントが数十体集まっていた。

 頭部と前脚の外殻が異常なほど発達し、分厚い鎧のように重なっている。


 それぞれが女王を囲むように並び、互いの隙間を埋めることで、奥へ続く進路そのものを塞いでいた。


「近衛種……」


「三十……いや、もっといるな」


 精鋭たちは物陰へ身を伏せたまま、その配置を確認する。


 倒せない相手ではない。

 だが、狭い地下で正面からあの数を崩せば、相応の損害が出る。

 何より、女王へ辿り着くまでに時間を使いすぎる。


「女王確認。近衛多数。座標を送る」


 部隊長が短く告げると、通信担当が小型の魔導器へ手を添えた。

 乱れた通信網へ、女王の位置と深度、確認できた近衛種の数だけを短信で送り出す。


「地上からの突入を確認後、こちらも総攻撃を開始する。それまでは位置を悟られるな」


 周囲の兵士たちは無言で頷き、それぞれ武器を握り直した。

 地上では、受け取った座標をもとに観測班が女王の真上を割り出していた。


「ここだ!」


 兵士が地面へ目印となる杭を打ち込む。

 別の一人が少し離れた場所から信号筒を上空へ向け、そのまま引き金を引いた。


 乾いた発射音とともに、一筋の光が空へ昇っていく。

 戦場の上空まで達したところで、強い光が弾けた。


 ◇


 遥か後方では、四脚を地面に下ろした巨大魔導車が鎮座していた。


 その巨大な移動拠点兵器の前で、短い金髪の女が立っている。

 鍛え上げられた身体に、旗を巻きつけた巨大な斧槍。


 開闢軍最高戦力の一人。

 王の戦士ヴァンガード――通称《戦乙女バルキリー》ヴィルナ。

 上空で弾けた信号を確認すると、ヴィルナは僅かに目を細めた。


「見つけたか」


 斧槍を握り直し、その場で腰を落とす。

 足元の地面が軋み、近くにいた兵士が何かを察したように顔を上げた。


 ヴィルナは地面を蹴った。


 地面が大きく陥没し、次の瞬間には爆音とともにヴィルナの身体が前方へ飛び出していた。

 地面すれすれを砲弾のように駆け、着地するたびに土砂を弾けさせながら、信号の上がった地点へ一直線に跳躍を繰り返す。


 途中、その進路へ数体のワイバーンが入り込んだ。

 一頭がヴィルナへ気づき、翼を広げて身を翻そうとする。


 だが、間に合わない。

 振り抜かれた斧槍が胴体を砕き、そのまま飛び散った破片と衝撃が別の個体へ叩きつけられる。

 翼を折られたワイバーンが地面へ落ちたが、ヴィルナは振り返ることなく走り続けた。


 やがて前方に、観測班が打ち込んだ目印が見えてくる。

 その真下に、ハイブクイーンがいる。


 ヴィルナは最後の一歩で地面を強く蹴ると、高く跳び上がった。

 空中で斧槍を両手に持ち直し、そのまま目印の真上へ身体を合わせる。

 膨大な魔力を纏った斧槍から、旗が後ろに流れていく。

 

 次の瞬間、一直線に地表へ落下した。


 ◇


 主戦場から離れた場所を進んでいたサビは、突然膨れ上がった魔力に反応してそちらへ顔を向ける。


「……ッ?」


 隣を歩いていたミリーも足を止める。

 遠くで何かが崩れるような音が響き、少し遅れて腹の底まで震わせるような轟音が届いた。

 サビは主戦場の方角へ顔を向けた。


「……何だ、今の」


「分からない」


 ミリーも同じ方向を見るが、ここからでは何が起きたのかまでは確認できない。

 しばらくして揺れが収まると、サビは前へ向き直った。


「行くぞ」


「ええ」


 二人は再び歩き出す。

 建物の向こうで魔導銃の連射音が響き、少し遅れて何かが屋上へ落下した。

 通信魔導具からは、移動中も途切れることなく声が流れている。


『ハイブクイーン発見!《ヴァンガード》ヴィルナが突入した!』


『北側外周、第十二班を補給路へ回せ!』


『第一封鎖線、地上種の圧力増大!』


『対空第二班、弾薬が足りない!』


 南東第六区画への増援も、その中に混ざった1つの命令に過ぎなかった。

 二人は建物の陰を使いながら進む。

 指定区画へ近づくにつれ、周囲の建物は大きく崩れていった。

 

 旧時代の施設らしい、横に広い建物。

 半分ほど落ちた屋根。

 外壁には縦に亀裂が走り、その奥へ暗い通路が続いている。

 地面には雨水が溜まり、瓦礫の隙間から地下へ流れ落ちていた。


「この辺りか」


 サビが足を緩める。

 廃都市の奥からは、砲撃やワイバーンの鳴き声が聞こえてくる。

 だが、この施設の周囲では戦闘音がしなかった。


「封鎖班は中かしら」


 ミリーは弓へ手をかけた。

 通信魔導具が再び鳴る。


『第七班、応答せよ』


「こちら第七班。南東第六区画へ到着したわ」


『旧輸送施設内へ入れ。封鎖班は地下入口付近にいる』


「目印は?」


『赤い誘導灯を設置している』


 建物の奥で、赤い光が一定の間隔で点滅していた。


「見えたわ」


『大型個体が地下輸送路へ侵入している可能性がある。合流を急げ』


 通信が切れる。

 サビは巨剣槍を下ろし、施設の奥へ意識を向けた。

 

 地下からはいくつもの魔力反応が伝わってくきた。

 しかし、深いうえに狭い場所へ密集しているため、反応同士が重なっている。

 何体いるのか、どこまで離れているのかまでは判別できない。


「……下に固まってる」


「数は?」


「分からねえ。多い」


「大きいのはいる?」


 サビはしばらく感覚を探った。

 重なった反応の中に、周囲より強いものが混じっているようにも感じる。


「たぶんいる。だが、はっきりしねえ」


「慎重に行きましょう」


「ああ」


 二人は赤い誘導灯を追い、崩れた施設の中へ入った。

 入口を抜けた先には、下へ続く幅広い斜路があった。


 旧時代には、大型の魔導車や資材を地下へ運び込むために使われていたらしい。

 左右の壁は厚い灰色の素材で固められ、天井には途切れた照明が一定の間隔で並んでいる。


 壁際に設置された魔力灯の白い光が数度明滅し、その先は再び暗闇へ沈んでいた。

 斜路を下るにつれ、空間が広がっていく。

 太い柱が何本も天井を支え、その間を複数の通路が枝分かれしていた。


 壁際には、崩れた旧時代の大型車両が残されている。

 車体は錆び、天井から落ちた瓦礫に半分ほど埋まっていた。

 床には段差や亀裂が走り、雨水が低い場所へ溜まっている。


 巨剣槍を振るうだけの広さはある。

 だが、柱や車両の陰へ入られれば、周囲すべてを一度に見ることはできない。


 斜路の先に、人影があった。

 大型盾を持った兵士が二人。

 少し離れた柱の近くにも、同じ装備をした者が立っている。


 鎧の色と形は開闢軍のものだった。

 盾にも、開闢軍の紋章が描かれている。

 そのうちの一人が、二人へ顔を向けた。


「第七班か」


「ええ」


 ミリーが答える。


「奥だ。封鎖班の残りが持ちこたえている」


 男は盾を持ったまま、奥の通路を顎で示した。


「掘削種は?」


 サビが尋ねる。


「地下輸送路へ入った。詳しいことは奥の指揮官に聞け」


 男はそれだけ答えた。

 ミリーが先へ進む。

 サビも巨剣槍へ手を添えたまま、その後を追った。


 大盾を持った兵士たちは、二人が通り過ぎるために道を空ける。

 だが、そのまま後ろへ続いてくる者はいなかった。

 奥の通路は、さらに広い地下区画へ繋がっていた。


 床の一部が大きく陥没している。

 崩れた穴の下には、ファングアントが掘ったらしい暗い坑道が口を開けていた。


 サビは足を止めず、地下へ意識を向ける。

 いくつもの魔力反応が重なっている。


 近いものも、深いものもある。

 どこまでが1つの群れなのかは分からない。

 坑道の奥で何かが動くたび、ぼんやりとした反応が揺れていた。


「まだ下にいる」


「地上へ出てくる前に、封鎖してるのかもしれないわね」


 ミリーは周囲を見回した。

 その声が、広い空間へ小さく反響する。

 二人は崩れた車両の横を通り抜けた。

 その先にも、開闢軍の装備を身につけた男がいた。


 柱を背にし、大盾を床へ置いている。

 少し離れた高い足場にも、一人。

 枝分かれした通路の前に、さらに二人。


 人数は少ない。

 だが、通信で封鎖班が分断されたと聞いている。

 残った者が散開して地下からの出口を見張っているのなら、不自然ではない。

 

 サビは歩きながら、床へ視線を落とした。

 

 瓦礫やひび割れはあるが、ファングアントの死骸は見当たらない。

 甲殻の破片も少なく、血の匂いもしなかった。


「負傷者はどこだ」


 サビが近くの男へ尋ねた。


「奥へ運んだ」


「何人残ってる」


「指揮官に聞け」


 先ほどと似た答えだった。

 男はサビではなく、ミリーの方を見ていた。

 サビが視線を向けると、すぐに地下の穴へ顔を戻す。

 ミリーの足が止まった。


「……静かすぎない?」


 奥で封鎖班が持ちこたえているはずだった。

 だが、武器の音がしない。

 怒鳴り声も、負傷者を運ぶ気配もなかった。


 聞こえるのは、途切れた照明の低い唸りと、地下の奥で何かが土を掻く音だけ。

 サビは周囲を見回した。

 大盾を持った男たちは、地下へ続く穴を囲んでいない。


 柱や通路の前へ散らばり、サビたちを囲むように立っていた。

 一人が大盾を持ち上げる。

 盾の正面が、地下の穴ではなくミリーへ向いた。


「お前ら――」


 サビが巨剣槍の柄を握る。

 その瞬間、背後で魔力が膨れ上がった。

 地下に密集するファングアントとは違う。


 濃く、荒々しい魔力。

 覚えのある気配だった。

 

 瓦礫を踏み砕く音が響く。


 サビはねじる様に振り向きながら、巨剣槍を構えようとした。

 視界の端へ、巨大な鋸刃が現れた。

 首から胴をまとめて断ち切る軌道。


 サビはなんとか巨剣槍を間へ差し込み、衝突の直前に重さを戻す。

 鋸刃剣と巨剣槍が激突した。

 轟音が地下空間を揺らす。


 足元の床が砕け、近くの柱から破片が降り注いだ。

 衝撃が両腕を突き抜ける。

 元の質量に戻した巨剣槍で受けたにもかかわらず、サビの身体は床から浮いた。


 そのまま横へ弾き飛ばされ、崩れた旧時代の車両へ背中から叩きつけられる。

 錆びた外板が大きくへこんだ。

 肺から空気が押し出される。


「……グァッ!……」


「サビ!」


 ミリーの声が響く。

 サビは車体から滑り落ちながら、巨剣槍を床へ突いた。

 痺れる腕で身体を支え、顔を上げる。

 

 大型の鋸刃剣を振り抜いた姿勢で、バーグが立っていた。

 赤い鎧。

 見覚えのある、にやけた顔。

 

 その背後では、大盾を持った男たちが一斉に動き始める。

 一人が退路を塞ぎ、残りがサビとミリーの間へ盾を並べていく。

 バーグは鋸刃剣を肩へ担ぎ直した。


「殺すつもりだったが、良く反応したな」


 サビは口の中へ広がった血を吐き捨てた。

 両腕はまだ痺れている。

 それでも、巨剣槍を持ち上げる。


「バーグ……!」

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