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落星の継承者  重量変化だけしか使えない主人公が、バカでかい武器を振り回す話  作者: 青井リンボ
第1部

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第42話

 翌日の昼過ぎ、サビとミリーは傭兵ギルドを訪れていた。

 依頼の受付が並ぶ広間には、今日も多くの傭兵が集まっている。


 掲示板の前で依頼書を見比べる者。

 酒の残った顔で順番を待つ者。

 傷ついた防具を身につけたまま、討伐の報告をしている者もいた。


 サビたちは、その一角にある窓口の前へ並んで座っていた。

 向かい側では、サラが今回の護衛依頼に関する書類を確認している。


「鉄環のガレスさんと、依頼人のゴードンさんからも報告を受けています」


 サラは書類を一枚ずつ捲りながら、記載された内容を確かめていく。


「聖都クエーサーまでの往路、復路ともに護衛対象は全員生還。魔導車も三台すべて帰還しています」


 失われたのは、崩落地点で捨てた荷物と、逃走中の振動で傷んだ果実の一部だけだった。

 魔導車一台を失う可能性まであったことを考えれば、被害は小さい。


「それでは、今回の報酬をお渡しします」


 サラは卓上へ新たな書類を置いた。


「護衛契約の達成報酬が70万エクス。道中で討伐した魔物の魔石と、回収された素材の分配額が30万エクスです」


「合わせて100万か」


 サビの言葉に、サラは頷いた。


「それに加えて、依頼人のゴードンさんから20万エクスの追加報酬が出ています。お二人の受取額は、合計120万エクスです」


 サビは一瞬、聞き間違いではないかと思った。

 依頼を受けた時に示されていた額より、かなり多い。


「追加って、何か聞いてる?」


 ミリーが尋ねる。


「帰路で使用した道は、ゴードンさんの希望によって選ばれたものだったそうです」


 サラは報告書の一部へ目を落とした。


「積み荷への負担を減らすための判断だったとはいえ、結果的に皆さんを危険に遭わせた。そのことに対する謝礼も含まれていると伺っています」


「道が崩れてたのは、あの人のせいじゃないけどな」


「ゴードンさんも同じように仰っていました。ただ、それと追加報酬を出すかどうかは別だそうです」


 サラの口元に、僅かな笑みが浮かぶ。


「将来有望な傭兵には、きちんと報酬を支払っておきたいとも」


「そっちが本音じゃない?」


 ミリーが呆れたように言った。


「商人ですから、理由は1つではないのでしょう」


 サラは否定しなかった。


「それから、高級区画に新しく開いた店へ、ぜひ一度顔を出してほしいとの伝言を預かっています」


「何を売ってる店なんだ?」


「主に旧時代の家具や照明器具、食器、装飾品だそうです。遺跡から発掘された物を修復した品も扱っていると伺っています」


「私たちが買える値段なのかしら」


「見るだけなら無料だそうですよ」


 ミリーが微妙な顔をする。

 店へ客を呼び込むための言葉であることは、サビにも分かった。


 だが、ゴードンが扱っているという旧時代の品には、少しだけ興味があった。


「なお、報酬に関して1つお伝えしておくことがあります」


 サラの声が事務的なものへ戻った。


「帰路で討伐された、ファングアントの上位個体についてです」


「掘削種か」


「はい。ガレスさんをはじめ、複数の傭兵と商隊員から証言が提出されています。出現と討伐については、正式な記録として受理されました」


 サラは別の資料を取り出した。


「ただし、討伐報奨金の支払いには、指定された証明部位が必要です。今回の個体であれば、頭部にある大型魔石か、左右いずれかの大顎になります」


「持って帰ってねえな」


 サビは、横倒しになった掘削種を思い出す。

 巨剣槍を引き抜いた直後には、すぐ魔導車へ走らなければならなかった。

 魔石の位置を探し、硬い頭部を解体している時間などなかった。


「回収できていれば、報奨金として80万エクスが加算されていました」


「80万……」


 ミリーが小さく呟く。

 サビも、僅かに惜しいとは思った。


 120万に加えて80万。

 二人で200万エクスになっていた計算だ。


「まあ、取ってる間に囲まれてたな」


「そうね。魔導車にも置いていかれてたと思う」


 ミリーは早々に諦めたように頷いた。


「ギルドとしても、回収を試みるべき状況ではなかったと判断しています」


 サラが付け加える。


「討伐した事実は依頼の評価へ反映されますが、報奨金に関しては証明部位がなければ支給できません。ご了承ください」


「……ああ」


 少し間をおいてサビが答えると、サラは報酬の受領に必要な手続きを進めた。

 金額が記載された書類へ、ミリーが二人分の署名をする。

 やがて精算を終えると、サラは書類を片づけた。


 それですべて終わったかと思ったが、サラは席を立たなかった。

 新たな書類を一枚取り出し、サビとミリーの前へ置く。

 先ほどまでとは違い、その表情は真剣なものへ変わっていた。


「続いて、傭兵ランクについて通達があります」


 近くの窓口から聞こえていた話し声が、僅かに遠く感じられた。


「サビさん、ミリーさん」


 サラは二人の顔を順番に見る。


「今回の護衛依頼の達成をもって、両名を三ツ星傭兵へ昇格とします」


 ミリーは静かに頷く。

 サビも、卓上に置かれた書類へ目を落とす。

 そこには二人の名前と、3つ並んだ星印が記されていた。


「もう三ツ星か」


「正式な決定です」


 サラは落ち着いた声で答えた。


「今回の護衛依頼を完遂したこと。道中で発生した複数回の襲撃へ対応したこと。ほかの傭兵と連携し、緊急時にも護衛対象の生還を優先したこと」


 指先で、評価項目を1つずつ示していく。


「加えて、ファングアントの異常な増加と、廃都市地下に存在する巣について、有用な報告を持ち帰ったこと。以上を総合的に評価した結果となります」


「掘削種を倒したからってだけじゃないのね」


「討伐能力は重要な評価対象ですが、それだけで昇格が決まるわけではありません」


 サラはミリーへ頷く。


「三ツ星からは、単独の討伐能力だけでなく、護衛や集団任務での判断も求められます」


 サラの声を聞いた近くの傭兵が、こちらへ顔を向けた。


「三ツ星?」


「赤い髪の奴らだろ。こないだ二ツ星に上がったばかりじゃなかったか?」


「登録してから、まだ一月も経ってないだろ」


 周囲から、ひそひそと声が聞こえてくる。

 露骨に振り返る者もいた。

 サビは居心地の悪さを覚えたが、サラは気にせず話を続けた。


「登録から一月に満たない三ツ星昇格です。大手クランから推薦を受け、事前に育成されていた新人を除けば、このエクスランド北東街道支部では数十年ぶりの早さになります」


「数十年ぶり……」


 ミリーが周囲を気にしながら呟く。


「何者なんだ、あいつら」


「無所属じゃなかったか?」


「どこかが声を掛けるだろうな」


 少し離れた場所にいた傭兵たちも、こちらを見ながら話している。


 実際、昨夜の酒場でガレスから鉄環へ誘われていた。

 共に戦った者として信用できる。

 これからも一緒に仕事をしないかと、飾らない言葉で声を掛けられた。


 悪い話ではなかった。

 鉄環には、サビやミリーにはない知識と経験がある。

 魔導車の扱いも、集団での戦い方も、危険な場所から全員を生きて帰す判断も知っていた。


 バーグを追うにしても、二人だけで動くより、仲間が多い方が見つけられる可能性は高い。

 情報を集める目も、戦う手も増える。

 それでも、サビたちは誘いを断った。


 鉄環は護衛を生業とするクランだ。

 彼らには彼らの仕事があり、守るべき仲間や生活がある。

 居場所すら分からないバーグを追うために、そこまで巻き込むのは違う気がした。


 クランに入れば、サビたちも鉄環の一員になる。

 自分たちの都合だけで動くことはできず、受けた依頼や仲間との取り決めにも従わなければならない。


 それが悪いことだとは思わない。

 むしろ、強いクランへ入り、さらに多くの協力者を集めてバーグを追う方が、正しいのかもしれなかった。


 だが、アオがどこにいるのかも分からない今は、いつ動くべき時が来るかも分からない。

 サビは小さく息を吐いた。


 今はまだ、二人で自由に動ける方がいい。

 そう判断しただけだった。

 それが本当に正しいのかは、まだ分からない。

 それにサビは、周囲から向けられる注目や、屈託のない賞賛も同じように持て余していた。

 

 それでも、3つ並んだ星を見ていると、胸の奥に僅かな熱が生まれる。

 文字も読めず、ろくな武器も持たずにエクスランドへ来た時には、今の自分を想像できなかった。

 

 サラは卓上に置かれた二人の傭兵証を手に取る。

 これまで使っていた証から、二ツ星を示す部品を取り外し、新しい物へ交換していく。


「それと、以前説明していた通り、三ツ星への昇格に伴い、受注できる依頼の範囲が広がります。大規模作戦への参加や重要物資の護衛など、一部の指定依頼も受けられるようになります」


 更新された傭兵証が、二人の前へ戻された。

 表面には、3つの星が刻まれている。

 

(とうとうここまできたか)


 星が3つ刻印された傭兵証はを見るサビの脳裏に、青髪の少女が過った。


「三ツ星への昇格に伴い、お二人の登録情報の一部が、開闢軍へ提出されます」


 サビは傭兵証から顔を上げた。


「軍に?」


「そうです。開闢軍はギルドから提出された記録をもとに、大規模作戦等で招集する傭兵を選定する為です」


「俺たちの何を教えるんだ?」


「氏名、傭兵ランク、主な装備と能力の傾向、これまでに達成した依頼、それから集団任務における評価です」


 サラは淡々と説明を続ける。


「今回であれば、護衛対象を守りながら鉄環の方々と連携したことや、ファングアントの上位個体を討伐したことも記録へ加えられます」


「私たちの細かい事情まで伝わるわけじゃないのね」


 ミリーの問いに、サラは頷いた。


「任務の選定に必要な範囲だけです。私生活や、依頼と無関係な情報まで提出されることはありません」


 サビは新しくなった傭兵証へ目を落とした。

 三ツ星になったことで、受けられる仕事が増える。

 同時に、自分たちの存在が開闢軍にも知られることになる。


「すぐに軍から呼ばれるのか?」


「通常はありません。大規模作戦が発令された際、適性があると判断された傭兵へ、ギルドを通じて招集依頼が出されます」


「依頼なら、断ることもできるの?」


 ミリーが尋ねる。


「可能です。開闢軍から直接命令を受ける立場ではありませんから」


 サラはそう答えたあと、僅かに間を置いた。


「ただし、正当な理由なく招集依頼を辞退した場合、一定期間、三ツ星以上の依頼に設定される報酬の加算が停止されます」


「報酬そのものがなくなるわけじゃないんだな」


「はい。契約上の基本報酬は支払われます。停止されるのは、危険度やランクに応じてギルドが上乗せしている分だけです」


「正当な理由っていうのは?」


「治療が必要な負傷や病気、既に受注している依頼との重複などです。事情をギルドへ申告し、認められれば加算停止の対象にはなりません」


 サビは新しくなった傭兵証へ目を落とした。

 仕事を選ぶ権利は残っている。

 だが、都市から高い報酬と情報を与えられる以上、危機の時だけ背を向ければ何も失わないというわけでもないらしい。


「今回報告されたファングアントの巣についても、調査結果次第では招集の対象となる可能性があります」


 昨夜、ガレスから聞いた話が頭をよぎる。


 廃都市の地下へ広がる巣。

 その奥にいるかもしれない、ハイブクイーン。


「そして、もう1つ、重要な変更があります」


 サラは少しだけ声を落とした。


「三ツ星以上の傭兵には、任務や自衛に必要な範囲で、危険人物や犯罪組織について照会できる情報が増えます」


 サビは再び顔を上げた。


「軍関係者や、都市の安全に関わる情報も含まれます。ただし、すべてが無条件に開示されるわけではありません。照会する理由と、対象との関係を確認した上で、ギルドが必要と判断した範囲に限られます」


 以前、バーグについて尋ねた時のことを思い出す。


 あの時は危険人物として登録されていることと、二ツ星には開示できない情報があることしか教えられなかった。


 だが、今は違う。

 サラは、二人の新しい傭兵証を確認するように見つめた。


「三ツ星となったことで、これまでお伝えできなかった情報の一部も開示できるようになります」

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