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戦国立志伝・織田信長  作者: 意匠瑞
第一章『尾張の後継者』
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【四】生駒屋敷


天文二十二年(一五五三年)二月


まだ風は肌寒く冷たいが、日差しは暖かく、早くも春の訪れを知らせるかの様である。

信長はいつものように弓の朝稽古を終えた後、広大な濃尾平野を颯爽と馬を走らせていた。

向かう先は尾張国小折にある生駒屋敷である。




この数か月で情勢は願わなくも、予想通りに進んでいた。



まず、前年の天文二十一年四月(一五五二年)三月、信秀に従っていた鳴海城主山口教継・教吉父子が、駿河の今川義元に寝返った。

「あのうつけでは、到底尾張を統治出来まい。今川に着いたほうが得策じゃ!」


信長は謀反を聞くと直ちに兵八〇〇で那古野城を出陣する。当主として裏切り者を見逃せば、周囲への示しがつかない。

「散々父に世話になったにも関わらず、恩知らず共めが!」

山口教吉父子は、今川の援軍を迎え入れ一五〇〇の兵を率い、鳴海城の北に位置する「赤塚」の地で信長に対峙した。


信長は陣頭に立つと息巻く。

「此度は、俺の当主としての力量を試す戦だ。周りの連中も俺がどのような戦を行うか品定めしているであろう。よくよく見ておくがよい!」

織田弾正忠家の当主として初めての戦である。この戦の結果が及ぼす今後の影響は計り知れない。


「馬を放て!」


信長の怒声を合図に、一斉に大軍の軍馬が走り出した。その数は数百に及ぶ。

しかし、その上には乗り手となる武士がいない。

「馬だけ突撃させて何になる! 数をごまかす子供だましの戦法か!? さすが評判のうつけじゃ!」

敵兵はあざ笑ったが、信長の放った軍馬が近づくと、突如山口の騎馬隊が混乱を起こす。

山口軍の軍馬は興奮し、次々に立ち上がり主人を振り落とした。

「一体何事じゃ!」

敵は予想外の状況に混乱し、浮足立った。

「それ! 敵は怯んだぞ! 一挙に切崩せ!」

無人の軍馬の後ろにぴったりと付いてきた織田軍の長槍隊が、混乱した敵軍に一斉に突撃した。

馬から振り落とされた敵兵は、穂先を剣山の様に並べ突き進んできた槍隊に貫かれ、騎馬の周囲を守る足軽も急襲に対処できず狼狽えた。


信長が突撃させた軍馬の集団は、発情した牝馬の群れであった。

牝馬に興奮した敵の騎馬は逆立ち主人を振り落す。

予想外の詭計により敵騎馬軍は制御不能に陥った。


「敵を馬に乗せるな! 槍の応酬ならこちらが有利ぞ!」

信長が訓練してきた長大な長槍隊は威力を発揮し、倍する敵勢と互角の攻防を繰り広げる。

信長自身も槍を振い暴れまわり、激戦は四時間にも及んだ。


陽も次第に傾き、平原は徐々に赤く染まってゆく。

初春のひんやりとした風が、疲弊した兵士達に吹きつけ、途切れる事の無かった殺し合いの喚声は次第に弱まっていった。

陣頭で指揮をとっていた山口教吉は、信長の予想外の粘り強さを目の当たりにし、停戦を求めてきた。

「このままでは埒が明かぬ。両軍共に疲弊はなはだしい状況なれば、痛み分けと致さぬか」

信長側も、侍三〇騎が討たれる苦戦を呈していた為、これ以上の損害は増やせないと思い了承した。

「よかろう。両軍共に尾張の民だ。遺恨を残さぬ様、戦中捕らえた人質はお互い返却致そうぞ」

信長は返り血で染まった顔を拭い、味方の兵をまとめ退いていった。


「噂のうつけ殿だが、思いの他切れ者やも知れぬ……」


倍する軍勢相手に善戦した信長の活躍は、すぐに尾張内に伝え渡った。

更に裏切り者への迅速な対応を見せる事で、当主としての威厳を示すことが出来、その後の離反者を抑える事にも成功するのであった。




しかし、信秀という求心力を失った尾張の状況はこの程度では好転しなかった。


赤塚の戦いから束の間、天文二十一年(一五五二年)八月には、尾張守護代の大和織田家で清州城城主・織田広信が、信長の治める松葉深田城を襲撃し強奪したのである。

「先の戦は予想外の結果であったが、うつけを支持する人数は少ない。この機に弾上忠家を追い詰めてしまえ!」

広信は後継者争いで分裂しつつある弾上忠家の隙をつく形で信長の領地に侵攻した。

「次から次に忌々しい奴等だ!」 

信長は苛立ちながらも、守護代の勢力に独自で当たる事は危険と判断する。

「信勝はあてにならぬ。叔父上に頼むしかあるまい」


現在信長は弾上忠家の全兵力を動かせない状況にあった。

先の戦いにおいても、弟信勝は何かと理由を付け援軍をよこさなかった。この戦は家老柴田勝家を派遣してきているが、一部の兵力のみである。信勝と彼を支持する勢力は信長の失脚を望んでいるのである。


しかし信長の叔父である守山城主・織田信光は、要請を受けると応じた。

「兄者(信秀)が亡き今、弾上忠家が大和家に食い物にされては面白くあるまい」

家内でも武勇優れると評判な信光は、援軍を清州の南方に位置する萱津に侵攻させた。

これに呼応した大和家は、坂井甚介を大将に出撃。両軍はここで対峙するに至る。


真夏の猛暑の中、信長・信光軍およそ二,〇〇〇の兵は、汗を地面に落としながら合戦の合図を待った。

強い日差しにより、歪んだ黒い塊の様に前面に映し出される敵兵は凡そ2,500人。

太陽の光を甲冑に反射させ、整然として不気味にこちらの様子を伺っている。


信長は、横並ぶ自軍の前面に颯爽と単騎で躍り出た。


「隙を見せれば直ぐに敵が攻めて参る! 弾上忠家を守る為、汚き敵共を蹴散らせ!」

信長は大声で全軍を鼓舞すると、兵士は大地を揺らす喚声を上げる。


信長は敵方へと体勢を向き直すと、大きく手を挙げ、それを勢いよく前に振り下げた。

「おおおーーー」

合図と同時に、信長の後方に備えていた騎馬隊は、雄叫びを上げ一斉に走り出した。


その勢いは凄まじく、抑えていた興奮を一気に解放させる様に、信長の背を追い抜き、一心不乱に走り抜ける。

血気盛んな若侍達は、血に飢えた野獣の様であった。


「来たぞ! 迎え討て!」

坂井軍も呼応し、前進を開始した。

両軍は緒戦から全兵力を繰り出し、凄まじい勢いで正面衝突した。

両軍弾ける様に始まった乱戦は彼我入り乱れての白兵戦へと即座に展開される。


この戦も信長自ら槍を振り回し、暴れ回った。

「ここに及んでは計略など不要! わが軍の力を見せつけるのみだ!」

血気盛んな信長と言え、大将自ら槍を振わねばならぬ程、味方の数は少ないのである。


兵力の拮抗する両軍であったが、ここで信長の長槍隊が本領を発揮した。

「何だ、あの槍の長さは! 近づく事が出来ぬではないか!」

坂井隊の槍よりも一間程長い槍を扱う信長軍は、敵兵を寄せ付けなかった。

剣山の様に穂先を並べた槍隊に対し、敵の雑兵は為す術もなく重量のある槍を頭に叩きつけられる。

「いいぞ! やはり密集戦では長い槍程有利だ!」

日々槍競り合いの訓練を重ねた槍隊は、その長さの利点を存分に発揮した。

騎馬兵も近づけず、無防備な軍馬は次々に槍に刺され重傷を負い、主人を振り落とす。

落馬した侍は、蟻のように群がる足軽に瞬く間に首を取られた。

援軍の信光も評判通りの武勇を見せ、敵を追い散らす。


数刻に及ぶ激戦は、終始信長側有利に展開した。

「ええい! うつけ相手に何をしておる!」

敵大将・坂井甚介は苛立ちながら自ら槍を振うも、気付けば周囲の仲間はほとんど切り崩され、逃げ出し、孤立していた。甚介は、自身を真横で守る側近が、頭に弓を受け吹き飛ぶように後ろに倒れると、顔面蒼白で逃げ出そうと踵を返した。

「これはたまらぬ!」

その時、信長軍の将・柴田勝家が前面に立ちはだかり、逃げ場を遮断した。

「逃げるとは情けなき! お覚悟召されよ!」

猛将・柴田勝家は、甚介の胸元目掛け凄まじい勢いで槍を突き入れた。

「こしゃくな!」

甚介は死地に活路を見出そうと、必死に自らの槍で勝家の槍をはじき返す。

しかし、横から新手の中条家忠が槍を突き入れると、脇腹を強かに突き刺された。

「おのれ!」

甚介は苦悶の表情を浮かべ振り返ると、忠家に斬りかかろうとするが、前方から飛び掛かって来た勝家に組み敷かれた。

勝家は馬乗りの体勢で鎧通しを抜くと、首筋目掛け突き入り、あっという間に首を掻き斬った。

勝家は切り取った甚介の首を高く掲げ大音声で叫ぶ。

「大将・坂井甚助を討ち取ったぞ! 抵抗は止め潔く降伏するがよい!」

主将を討たれた清州側は怯え隊列を乱し「皆殺しにされてしまうぞ! 皆早く逃げよ!」と叫びながら慌てふためき方々へと退却を開始した。


「このまま勢いに乗り城を奪還せよ!」

信長は勝家の雄叫びを聞くと側近をまとめ、逃げる敵兵を追い回しながら城へと向かった。

瞬く間に松葉深田城を包囲した信長勢は、抵抗なく城を取り戻す事ができた。

城兵は味方の壊滅を見ると既に逃げうせていたのである。


「俺を甘く見るとどうなるか分かったか!」

信長は泥と汗にまみれた顔から白い歯を見せ、満足そうに言い放った。


大将自ら槍を振るう戦いは相応のリスクを生じるが、味方の士気は大いに高まる。敵はうつけ相手と油断しており、想像以上の抵抗を受けると、主だった働きを示すこと無く脆くも崩れ去った。

信長は、一戦一戦が自身の興廃を分ける乾坤一擲の戦いである事を理解している。元々評判の悪い「うつけ殿」が脆くも敗れれば、瞬く間に周囲の敵に飲み込まれてしまう。


信長は叔父信光と馬頭を並べ、遠く浮かぶ清州城を眺めながら語り掛けた。

「叔父上、この度はご援軍誠に感謝申し上げます。大和家めに手痛き損害を与える事が出来申した。弾上忠家一丸となり、尾張統一を果たしましょう」

信光は信長の方へ顔を向けると笑顔で応じた。

「誠にすばらしき働きであったな! 天の兄者も喜んでおろう!」

信長の采配を間近で見た信光は、甥の只ならない器量に感銘し、同時に内心恐怖も感じていた。

(儂を脅かす存在になりかねぬ……)

信長はそんな信光の内心を読み取りつつ、にこやかな表情を浮かべ感謝の言葉を述べた。



---------



那古屋城を出発し数刻もしないうちに、信長は生駒屋敷の前に到着した。城郭を思わせる堀と塀に囲われた長大な屋敷は、その主の富裕ぶりが伺える。

信長は屋敷の門前に馬を止めると、颯爽と飛び降り大声で叫んだ。

「吉乃、おるか!」

声を聞いた門番の中間は、信長の顔を見ると慌てて駆け寄った。


「これは信長様。ようこそおいで下さいました。吉乃様は屋敷におります故、直ぐに呼んで参ります」


「構わぬ」


信長は中間を押しのけ中に入っていく。

広大な敷地内には様々な屋敷が立ち並び、庭園は広く手入れが行き届いていた。大股で屋敷内を歩く信長は、その庭園の池のほとりに佇む一人の女性を見つけると、声高に呼び掛けた。

「吉乃! 参ったぞ!」

驚いた女性は声の方向へ振り返り、信長の顔を見ると笑顔で応じた。

「まぁ、信長様。少しお待ち頂ければ、お迎えに参りましたのに……」

信長は女性に近づくと、無言のまま彼女を抱きしめた。



生駒屋敷は土豪・生駒家宗の屋敷である。

家宗には商才があり、武器の流通を担う拠点として生駒家を繁栄させ、生駒屋敷は遠方から多種多様な人の集まる情報の要所ともなっていた。情勢を判断するに鋭敏な信長は、生駒氏の財力と情報力を手中に入れようと、頻繁に出入りしていたのである。

信長は、生駒家に足を運ぶうちに吉乃(*注)と出会った。

吉乃は尾張の豪族土田弥次郎に嫁いでいたが、主人が戦死した為実家の生駒家に戻っていた。

「誠に賢き女子おなごよ」

信長は吉乃と出会うと、その利発な人柄と包容力に惹かれ、恋に落ち側室とした。



「信長様、お父上様が亡くなられて以来、ご苦労されておりませぬか」

心配そうに信長を見つめる吉乃であったが、

女子おなごは戦の事に口を挿むのではない……」

信長は無表情のまま寝屋の天井を見上げつつ答えた。


信長には正室に美濃の斎藤道三の娘帰蝶の方がいるが、夫婦仲は冷え切っていた。

吉乃は後家である。吉乃の母性ある優しい温もりは戦で消耗した信長の心を癒してくれる。


信長は母の愛に飢えていた。


信長は出生まもなくから乳母の乳を噛み破るなど癇癖があり、幼少期から気性が激しかった。

母である土田御前は、激しい気性の信長を嫌い、折り目正しい次男信勝をかわいがる。末森城から信長に会いに来ることはなかった為、信長は母の愛情をほとんど受けぬまま育ってきたのである。

各所に敵を抱える信長にとって、吉乃はひと時の癒しを与えてくれる唯一の存在なのであった。吉乃もまた、快活でありながらもどこか陰鬱な瞳を宿す信長に惹かれ、彼を支えようと心を砕いていた。




日もすっかり暮れた頃、日中穏やかだった風は、嵐の様に強く吹き流れ木々を激しく騒がせている。


前方からぶつかる強風を押し分けながら、信長は馬を走らせ那古野の屋敷に戻る。

小姓に馬を預け寝殿の前に差しかかった時、信長を呼び止める声がした。


「今日も吉乃様にお会いになられていたのですか」


振り返るとそこには政秀が立っている。


遠くで木々がどよめく暗闇の中から、近づきつつ話しかけてくる政秀に対し、信長は怪訝そうに答えた。

「なんだ、じい。わしの帰りを待ち構えておったのか」

そう言い政秀の横を通り抜けようとする信長であったが、突然腕に激しい痛みを感じた。

政秀は過ぎ去ろうとする信長の腕を強引に掴んだのである。

驚いた信長は怒りを露わにしつつ、腕を振りほどこうと叫んだ。


「何事だ! 無礼だぞ!」


しかし政秀は無言で腕を握り締めたまま鋭い眼差しで信長を見つめた。その威容な気迫に押された信長は何かを察したように抵抗を止める。

「殿、少しばかりお話をさせて下され」

政秀はそう言うと信長の腕をそっと離し、屋敷へと促した。

信長は不満そうに、何事か呟きながら政秀の後に続いた。


座敷に入ると信長はだらしなく胡坐をくみ、政秀に対峙し不満そうに言った。


「一体何だというのだ、じいよ。場合によってはただではおかぬぞ」


政秀は意に介せず話し出す。

「まずは先の戦での武勇ぶりは見事でありました。これで大和家も簡単にはわれらに戦を仕掛けられないでしょう」


外の風は一層強く吹き荒れ座敷の戸を激しく叩いている。


「殿の日頃の鍛練と準備がこの勝利を掴んだのですな。素晴らしい采配ぶりは父君にも劣らぬ武勇ぶりでしたぞ。信秀様も天からお喜びでしょう」

 

信長は怪訝な様子のまま聞いている。


「しかし、その武勇もお味方あっての事です。いかに殿が武勇優れる将器であっても、味方する人数が少なければ、大敵を前にした時には脆くも崩れ去るでしょう」

信長はこんな時間に年寄りの説教が始まったかと嫌気がさし、政秀の言葉途中で立ち上がり、強めの口調で言った。

「その様な事は言われるまでも無く分かっておる事だ! わざわざそれを申す為に呼び止めたのか!」


「分っておりませぬ!」


怒気の込まれたその声は、屋敷の天井に響いた。


外の強風が一瞬止み、一時の静寂が流れる。


「信長様も分っておいででしょう。今家中は動揺の只中。殿を認めるお味方はごく僅かばかりです」

政秀は今にも泣出しそうにかすれた声で語った。


「近隣の敵に対する為にも弾正忠家は一枚岩でなければなりません。殿が今のまま身勝手な行動を続ければ、敵は付け入る隙を探し、あの手この手で内部崩壊を誘ってくるでしょう。今この時も調略の手はすぐ目の前に迫っており、お味方は動揺を続けているのです」


二人の間に短い沈黙が流れた。


そして信長は一言呟いた。



「お前の様にか?」



政秀はハッと顔を上げた。


静寂も束の間、風は先ほどよりも一層強く嵐の如く吹き荒れている。

信長は何も言わず立ち上がると「話はこれまでだ」と言い残し政秀の前を立ち去った。




政秀は凍りついた。

(まさか、あの時の林とのやり取りを殿は知っておるのか。 ……いや、そんなはずは無い)

猜疑心の強い信長は一度疑えば決して気を許さない。

(仮に知っていたとしても、儂はあの時はっきりと突き返しておる。その後は林とは距離を取り、信長様の奇行にも目をつぶり盛り立ててきたではないか)

そう言い聞かせると共に一抹の不安が頭をよぎる。


長男の五郎右衛門である。


彼は政秀の苦言にも耳を貸さず、ひそかに信勝に通じていた。


「儂は父上と違い、うつけ殿と運命を共にする気は無い」



屋敷に帰った信長は苛立ちを隠さず寝屋に入った。

(じいめ、何故分らぬ。表裏ならぬ者に命を預ける事の方が暴挙と言えるのではないか。保身しか考えられぬ愚か者共など、仲間にせずとも少勢の味方で十分だ)

林兄弟や信勝の姿が頭に思い浮かんできては苛立ちが収まらず、眠れぬ夜を過ごしたのだった。



翌朝早馬の知らせが来た。



普段は早朝から川泳ぎを日課としている信長だったが、今日は気分が優れず、日もすっかり上がりきった日中にようやく寝屋を出たところだった。


使者は息を切らせながら告げた。




「平手政秀様がご自害なされました」




 

--- 第一章『尾張の後継者』(終)   第二章 につづく ---


本章に登場する「吉乃」ですが、本名や生涯は不詳な事が多い人物です。

「吉乃」という名は近年否定されており、信長の子息 信忠(諸説あり)・信雄・五徳の母として生駒家の「久菴」と言う戒名が知られています。

しかしながら、物語上、戒名(久菴桂昌大定禅尼)を用いるのは不適切判断した為、俗説ながら「武功夜話」で記される「吉乃」として登場しております。


最近ドラマや小説などではめっきり出番の減った「吉乃」ですが、愚鈍な信雄を寵愛した信長のその後を見れば、彼にとって大切な人であっただろうと個人的に肯定的にとらえております。


少なくとも謎多き帰蝶よりも、(真偽はともかく)史料が多少残る人物です。

いち小説として楽しんで頂ければと思います。

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