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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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国を挙げての偽装



 何だかんだ明け方まで寝なかったせいで、当然と言えば当然だが目覚めはスッキリするはずもないし、何ならまだ眠いしである意味最悪の目覚めだった。

 とはいえ自分が悶々と悩んでいた事を理由にもっと寝倒す、なんてのも流石にちょっとしにくいものがある。


 これ同行者がハンスだったらまだ眠いんで寝る、とか言えるんだけどな。

 現在アルトとして振舞ってるあいつはどうだか知らないが、ディエリヴァに体調不良か問われるような事になればそれはそれで返答に困る。

 別に具合が悪いわけでもなく、本当にちょっと、ディエリヴァの言動におかしいなと思ったわけで。

 直球で問いかける事ができればいいんだが、どうにも聞きづらい。


 いや、聞けば解決するとは思うんだ。

 思うんだけど、これ単純に夢の内容と混同しました、とかならまだいいさ。あっ、あれ夢でした、とか言われたらまぁ俺もそうなんだ、で済ませるつもりだ。

 けど、もしそうじゃなかったら。


 双子のテレパスです、とかでもまぁいい。

 むしろそう言われた方がなーんだそっかーで、流せる。

 それならディエリヴァがルフトは無事だと言った事も、根拠がないままであってもそうなんだと思う事にできる。


 問題はそうじゃなかった場合。

 ディエリヴァがうっかり勘違いして前に食べた事があったのを俺が作ったやつだと思い込んだとか、それもそれでどうなんだとは思うが、うっかりで片付く範囲の話であればまだしも、うっかりでもなんでもないパターンの話になるとそれはそれで面倒な事になりそうな予感がする。


 人間関係ギスギスするような展開になった場合、正直こんな逃げ場もないようなでっかいクローズドサークルだと人間関係改善されるまでとても気まずい。

 ここじゃなくて、もっとあちこちに人里が点在してるような大陸なら最悪もうあんたと行動なんてしたくないわ! みたいなノリで解散するっていう案もあるけど、廃墟群島でそんな事ができるはずもない。

 下手に人間関係こじらせた場合、衝動に任せて殺人事件に発展する事だってあるかもしれない。


 俺が予想してるような想像じゃない場合でも、ディエリヴァにとって告げにくい事であった場合、無駄に彼女を追い詰める結果になりかねない。

 父親らしい事なんて今の今まで全くできていない自分と、それでもディエリヴァは今のところ上手くやれていると思う。そこに亀裂を入れるような真似をするのは流石にちょっと躊躇う。

 おかしいなと思う部分があったとして、それを指摘しないといけないとなったとして。

 流石に逃げ場のないところでやるのはまずいだろう。


 であれば、今そういった方面に話を持っていく流れにはしないようにした方がいい。

 だからこそ俺はここで眠いだの言って愚図るわけにもいかない。あくまでも普段通りを装っている。


 昨日はこの坂道を背負って移動していたが、今日は一応休んだ事もあってかディエリヴァも自分の足で歩くようだ。とはいえ、果たして頂上まで体力がもつかどうかはわからない。

 まぁ、途中で疲れ果てて動けないってなったらまた背負えばいいか……


 そう思いながらも延々坂道を登っていたが、アルトがこまめに休憩を挟んだ結果ディエリヴァの体力が途中で尽きる事もなく、どうにか坂道の終わりに辿り着いた。

 下から見上げていた時にはよく見えなかったが、近づくにつれて見えてきたのは建物だった。

 いや、何もなかったらそもそもアルトがここに連れてこようとするはずもないから、建物があるのは当然だ。


「何でしょう、人が住んでた、って感じじゃないですよね」

 建物を見上げてディエリヴァが言う。

「そうだな、人が住む屋敷、とかそういう感じじゃないのは確かなんだが……」

 建物は飾り気があるでもない重厚な代物で、人の家という感じは全くしない。三階建ての建物は小さなビルと言われれば納得するような、やや重く感じるもののシンプルなものだ。


 役所と言われれば大抵の人間は納得しそうな外観ではあるが、流石にこんな不便極まりない場所に役所があってたまるかという話だ。

 当時はワイバーンでの移動が主流だった、というのであればここに役所があってもおかしくないかもしれないが、例えば観光に来た者がここに移住したいなんて言い出した場合、役所に申請したりする必要が出るはずだ。

 正直そうなった場合、気軽にワイバーンに乗せてここに連れてくるかと問われると流石にそれはないだろうという気がしてくる。


 そもそも役所かと思ったのは建物の雰囲気からだが、建物の手前にある格子状の門がとても役所とは言い難い雰囲気を放っている。物々しい、というか、関係者以外立ち入り禁止と言わんばかりの雰囲気だ。

 何も知らないこどもが迷い込んだとして、流石にこんな重苦しい雰囲気の所、切羽詰まった事情でもない限り入ったら怒られるのがわかりきってる感が凄い。これ絶対入って大人に見つかったら怒られて放り出されるやつ。


「アルト、クロムートに関する情報が本当にここに……?」

「あぁ、間違いなく」


 格子状の門は錆びついていて、アルトが押し開けるとギギィと耳障りな音を立てて動く。そう重たい物でもないはずなのに錆びついているせいか、中々開ききらないがどうにか通れるくらいまで開くとアルトはそのまま中へと入りこんだ。

 アルトが入れるくらい広がっていれば、俺もディエリヴァもすんなり通る事ができる。そうして建物の入り口部分へ来てみれば、当然と言えば当然だろうけれどしっかりと施錠されたままだ。


「魔法で開けるか?」

「いいや。開いている。こっちだ」

 人の住んでる建物のカギを開けて侵入するというのは流石に精霊も手を貸してくれないが、こういった人がとっくに住んでいないのが確定してるようなとこならまぁ、魔法で鍵を開けるくらいは可能だ。テオの屋敷の時もまぁ、廃村だったから精霊的にはオッケー判定だったりしたわけだが。

 とはいえ開いているというのであればわざわざ魔法を使う事もないだろう。


 建物に沿うように移動するアルトの後をついていって、側面に回り込んだら正面から見た時にはまったく予想がつかない勢いで穴が開いていた。


「え、何があったんですかここ」

 ちょっと古くなってここだけ穴開いちゃいました、とは到底言えないくらいガッツリ開いてる穴にディエリヴァも驚いている。俺も正直ビックリした。


 例えば外から誰かが侵入しようとして穴を開けました、というのであれば重要な何かを盗もうとした賊とかかな? なんて考えもできた。

 しかしこの穴、どう見ても瓦礫の飛び散り具合からして内側からぶち開けられたものなのだ。

 ほんのちょっと進めば正面入り口があるというのに、それよりも先にここをぶち開けてでも外に出ないといけない事情があったのか……と聞かれると正直そういった事情が全く思い浮かばない。


「ここから入れる」

「いや入れるだろうけれども」


 気にするべき点とか色々あるんじゃないだろうか。

 俺としてはそう思うし、この場にハンスがいたらきっと色々突っ込んでくれていたに違いないと思うのだが、俺がハンスのように突っ込むかというと流石に無理がある。

 突っ込むべき点はあるけれど、どこからツッコめばいいのかわからない。一つずつ的確に突っ込めるツッコミスキルを生憎俺は持ち合わせてはいなかった。


 元はオフィスのような感じだったのだろうか。入ってみれば中は至ってシンプルで、余計な物はないように見える。開いた穴から風に吹かれて色々と入り込んだらしく、当時はきっと綺麗だったであろう床は今は歩くたびにじゃりじゃりとした感触を靴の裏から伝えてくる。落ち葉なんかも溜まっていて、挙句に風で運ばれてきただろう植物の種が発芽したらしく、床の亀裂部分からにょっきり生えているのも確認できた。


「どう見ても人が住んでた場所じゃないですよね。お仕事する場所っぽいけど、ここで一体何がされてたんでしょう……?」

「いくら移動手段がワイバーンだったとはいえ、こんなところに頻繁にワイバーンで移動してたら観光客にも無駄な注目されそうだよな。……役所かと思ったがそれも違うようだし……」


 役所だとして、だったらもうちょっと色々とありそうなのに俺が想像した役所にありそうな物はほとんどない。

 受付らしき場所は確かにあるが、窓口と呼べそうなのは一か所だけで、役所だったら流石にそれは小さすぎるのではないかと思えた。普通に会社の受付と言われればまぁ、そこまでおかしなものではないが。


「表向きここは他の島にある郷土資料館の、貴重な資料を保管する場所とされていた」

「貴重な資料、ですか? でも」

「そうだな。あくまでも表向きで、ここは一般の立ち入りは禁止されているし、資料なんて保管されていない」


 俺たちが見てきた島の博物館とか図書館とかの事を指しているのか、それともまだ見ていない島にある建物なのかはわからないが、それにしてもおかしいと思う。


「資料が保管されていないのはともかくとして。群島諸国は小国が集まってできてるわけだろ? いくら手に手を取り合って観光事業で金を稼ぐにしても、他の島の資料を他の島で保管するなんて事あるか?」


 他国とのやりとりだとかを資料として残してあって、片方が滅んだ結果こっちの国に残ってる資料からその滅んだ国の当時の事が知れましたよ、みたいな歴史の教科書にでも載ってそうな話ならともかく、ここはそうじゃない。他の島の資料を別の島で保存していたとして、滅ぶときは一蓮托生みたいなものだし実際そうなっている。


 別の例えをするなら同じアパートに住んでる人の荷物を同じアパートに住んでる別の部屋の住人に預かってもらう、みたいな感じなんだろうけど、お互いにそこそこ知っててお互い同意の上ならそういう事もあるだろうけれど、これは島単位での規模だ。上が納得していても、果たして島の住民が理解していたかは疑わしいし、一時的な保管であればまだしもずっとであればうちの島は荷物置き場じゃないんだぞという不満だって発生しかねない。


「まず前提が間違っている」

「前提?」


 雨水が流れ込んだせいかところどころ濡れている床を避けるようにして移動していたアルトが言う。


「小国が集まったと言われているが、群島諸国は当時から一つの国だった」

「……は? え?」

「途中から統一されたとかではなく、最初からそうだった。ただ、海外には小国の集まりだと思わせておいた方が都合がいいからそうしていただけの事」


 一瞬理解が追いつかなかったが、それが事実なら他の島に他の島の資料を保管してあったとしてもおかしい事はない。同じ国の資料なのだから。

 けれど、では何故群島諸国、などと名乗っていたのだろう。


「一つ一つの島はそう大した規模ではない。国力として見れば小さなものだ。そういった小さな島々が寄り添っていると思わせておいた方が周囲もそこまで脅威として見たりはしないだろう」

「……あぁ、そういう」


 政治とか詳しくないからあんま知らないけど、確かに小さな国が集まってどうにか成り立ってる、と思われていれば周囲の国からはそこはあまり大きな国でもないし脅威には思わないだろう。それぞれの島でワイバーンを操って移動手段にして観光で成り立ってる、それだけを見れば収益は一つ一つの島からすれば微々たるものだろうし、仮に内乱が起きた場合ワイバーン同士での空中戦もあり得るわけだが戦力に差があまりなさそうなので内乱が起きた場合は共倒れの可能性が高い。


 けれど、小国の集まりではなくこれが一つの国であったなら話は違ってくる。

 観光で得た収益はそれぞれの島に分配されるのではなく一つの国の収益として見ればかなりのものになるだろうし、ワイバーンだって国の戦力として見ればシャレにならない。現にワイバーン便で周辺の国へ移動していたわけだし、その便利さはそれなりに知られていたことだろう。


 内乱の可能性はあるけれど、小国の集まり同士であるという風に見る時よりも可能性は少ない。


 あと考えつくとしたら、周辺国との同盟を組む際、国の代表が赴くにしても一つの国であれば代表者の数は少数だが、小国の集まりで、となれば代表者が各島から選出されたので、とか言って大勢連れてくることも可能になる。勿論多すぎるようならそこから更に代表者を選んで何名までに、と相手の国から言われるかもしれないが、余計ないざこざを起こすつもりがないなら各島の代表者を予め連れてきた方が後の話合いも拗れる可能性は低い。


 まぁ拗れる時は拗れるものだが、この場合同盟のフリをして群島諸国が相手の国のお偉いさんをどうにかしようとした場合、人数的に圧倒的有利が取れるって話なんだよな。


 他の国から見れば小さな島国の集まりと侮る可能性も高いし、勝手に油断してくれるとなれば付け入る隙はそこかしこに存在する。


 もしかしたら、群島諸国が滅びるような事にならなかった場合、そう遠くないうちに他国との争いは起きていた可能性がとても高い。

 どう見てもあえて弱者を装って虎視眈々と様子を窺ってるようにしか思えないんだよなぁ……


 こんなところで歴史に埋もれてしまった真実の一つを知ったわけだが、これ別に世間に公表するようなものでもないよな……既に滅んでるし。

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