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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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露骨なまでの



 隣の島へ行くのに洞窟が繋がってる、と言われて案内されて進んだ先に、確かに洞窟はあった。

 生い茂る草木に隠れていて、俺とディエリヴァだけでこの島を見て回るだけでは決して気付く事はなかっただろう。中は確かにひんやりしていた。ぴちょんぴちょんと水が落ちる音が聞こえてくる。

 何というか蝙蝠とかいそうだな……と思ったがその予想は外れて洞窟内部には特に虫も動物もいなかった。


「群島諸国についてどこまで知っている?」

「どこまで、って言われてもな……観光地として栄えていた、という話を以前小耳に挟んだくらいで実際足を運んだ事はなかった。というか知った時には既に滅んでいて廃墟群島と呼ばれるようになっていたからな……多分そこらで流れてる噂話程度にしか知らないぞ」


 洞窟の中を進みながら、ふとアルトが問いかけてきたので答える。


「それは表向きの話だな。私もその事実に気付いたのは手遅れになってからだ」

「手遅れ、とは?」

「滅んだ時だ」


 あまりにもあっさりと言われて、一瞬言われた意味を理解できなかった。


「滅んだ時、って事はその時この島に?」

「いや。そうじゃない。ただ、何事かが起こっている事に気が付いて足を運んだ。そうして知った」


 ……という事は群島諸国が廃墟群島と呼ばれるような事になった原因である滅んだ出来事があった時、少なくともアルトはその事態を観測できる状態だった。群島諸国にはいなかったようだし、となると群島諸国付近の大陸にでもいたのだろうか。

 ……いや、けど話を聞いた限り、異変を異変だと認識したのは来る予定だったワイバーン便が来ない事でおかしいと思って確認しに行った連中がどうにかこうにか戻って来てからだ。


 その時の船に、アルトも乗っていた……?


 確かに当時何事かがあって、最初に確認しに行った連中の半分程が帰ってこなかった。けれども残った奴らは帰ってこれた。それで群島諸国が滅亡した事実を周辺諸国も知る事になったわけだ。


「……僕は、帝国を滅ぼしたクロムートに関する何らかの情報を得るためにここに来た。その上でお前がそう言うという事は、群島諸国が滅んだ原因にもクロムートが関わってる、って事か?」


 人間種族ならとうの昔に死んでる年数経過してるけど、異種族であるなら生きていてもおかしな話じゃない。種族によって寿命は千差万別。今世の俺はエルフで既に三百年程生きてるわけだし、他にも長寿な種族は沢山いる。

 人間の感覚だとちょっとついていけないが、今の俺はもうちょっと前の話なんだけどー、で数百年単位の昔話をされてもいや昔すぎるだろ、全然ちょっと前じゃないだろ、と突っ込む事もない。


 ハーフエルフであるディエリヴァだが、彼女自身はまだ十五年程しか生きていないから、百年単位の時間の話をされても恐らくはピンとこないだろう。

 ふと横目でディエリヴァを確認してみれば、思った以上に洞窟の中が寒かったらしく収納具から外套を取り出して羽織っていた。

 風邪を引かなければいいんだが……人が暮らしていてそこそこ大きな町とかなら宿で休んだり薬用意するのもそう苦ではないけれど、ここで倒れられた場合、看病するにも環境がいいとは言えないからな……

 寝る場所は俺たちが利用した宿の建物を借りればいいけど、食事に関しては俺が用意しないといけないし、薬に関してはないわけじゃないけど町の薬屋で売ってる薬と比べて多分苦さがとんでもない事になりそう。


「彼は、被害者だった」

「彼、クロムートだよな……?」


 被害者。一体何に対しての。

 この群島諸国が滅ぶ原因に対して、巻き込まれた。それなら被害者というのは納得がいくが、つまり彼は、この島の住人だった……?


 思っていたよりも短かった洞窟をあっさりと抜けると、ざあっという音とともに強い潮風が吹いていた。洞窟から続く道は分かれていて、坂になっていて下の方へ行けば砂浜に。それとは別方向に進むとつづら折りの坂になっていた。

 砂浜へ行くならほぼ真っ直ぐの坂道だからそう時間をかける事もなく行けるだろうけれど、反対側、つづら折りになっている方はかなり遠くの方に建物らしきものが見えるけれどそこへ行くには結構な時間がかかりそうだった。


 滅ぶ前であったなら、砂浜は白く美しい状態だったのかもしれない。

 けれど今は船の残骸が砂浜に流れ着いた状態で、そこかしこに流木のようなものもある。下手に裸足で歩こうものなら即座に足の裏を切るなどの怪我をしそうだ。


 美しい砂浜を取り戻そうとして清掃作業をするにしても、これ一体どれくらいやれば綺麗になるのだろうか……ってくらいごちゃごちゃしていてそちらに足を運ぼうとは到底思えなかった。

 多分隣の島から洞窟じゃないルートでこっちの島に来ようとしたら、船の残骸を伝って渡って、という事をして最終的にあの砂浜がゴール地点になっていたかもしれないが、砂浜から隣の島を確認するように視線を移動させてみればこっちのルートで来るのはかなり大変だっただろうなとしか思えなかった。


 前世でさ、何かあったじゃん。己の体力の限界に挑めみたいな感じのやつ。制限時間内に飛んだり跳ねたり登ったりしてゴール目指すやつ。アスリートとか参加しててもクリアできないとかザラだった番組。

 あんなん忍者くらいしかクリアできないんじゃね? とか思って見てた覚えはある。


 正直そのコースみたいに見えた。ただし番組はコースから外れて落下しても精々水の中にドボンか小麦粉みたいな白い粉まみれのところにばふっと落下して真っ白になるかのどっちかだが、ここは下手すると鮫が泳いでるので最悪死ぬ。


 砂浜から視線を移動させて、つづら折りの坂道を見上げる。


 車で移動するならともかく自転車だったらひぃひぃ言うレベル。競技用自転車でレースするとかだったら絶対ここコースに入ってるな……坂道が山道のようにもなっているので、道をそれると大体木が生えている。坂道以外の場所から移動しようとすると、それはそれで面倒そうだな。

 森みたいなものだけど、森と比べてかなり傾斜があるし。


 となると、大変そうだし正直行きたいとは思わないけどあのつづら折りの坂道をちまちまと登るしかないわけだ。


「辿り着けるか自信ありません、お父さん」


 同じように坂道を見上げていたディエリヴァが、絶望したように呟いた。

 まぁ、だろうな。

 途中まででも頑張れ、とか言えるような感じじゃない。仕方ないのでディエリヴァの前に移動して背を向けてしゃがむ。


「乗れ」

「え」

「途中まででも歩け、というには流石にこれは厳しいだろうし」

「えと……あの、ごめんなさい。失礼します」


 流石のディエリヴァもできるところまでは歩きます! と言えるような感じではなかったらしい。

 外に出た事で寒さは解消されて外套はしまわれていたが、ここに来るまでで大分体力を消耗していたらしい。

 まだどこか躊躇うようであったけれど、俺の背にディエリヴァが乗った。肩のあたりに手が置かれたのを感じて、ディエリヴァの足を抱えるようにして立ち上がった。


 先導していたアルトはそんな俺たちの様子をじっと見ていた。

 骨兜のせいで目元は見えないのでどんな表情を浮かべているのかはわからない。口元は閉じているが、口角が上がるでも下がるでもないので、もしかしたら真顔なのかもしれない。


「ところで」


 えっちらおっちら登りながら、ふと俺は気になった事があったので口を開いた。

 何だ? とでも言いたげ……いや表情はわからないけど俺が口を開いた時点でこっち見てるからそうなんだろうと推測して、ともかくアルトは話を聞いているようなのでそのまま続ける。


「この島は一体何なんだ? 他の島は割と人が住んでる痕跡があったけどここはそういった物があった感じもしないし観光地として島を開放してたとしても何というか……」

「この島の反対側に、町がある。段々畑のような場所にカラフルな家が立ち並んでいて、そっち側が観光客を受け入れていたはずだ。こっちは基本的に外から来た者の立ち入りを禁じていたのではないか。どのみち何があるでもないから観光に来た者がわざわざ足を運んで、とはならなかっただろうけど」


 観光地として開放してた場所は果実酒などを作っていたらしく、まぁそういうのが好きな相手からすれば楽しいだろうなとは思った。

 けど、場合によっては飲んで酔っ払ってこっち側に迷い込んだりするんじゃないか? という気もする。


 まぁ、迷い込んだとしてもこんな場所だ。すぐに来た道を引き返すだろうし、例えば果実酒作りに関係する秘伝の何かがあるかもしれない! なんて思いこんだ奴がこっち側を探ろうとするにしても、観光客装った状態のままこっちに来てあちこち移動するには正直な話色んな物が足りなすぎる。


 上級者向けの登山コースに近所のコンビニにでかけるくらいラフな姿で行くようなものに等しい。最悪死にはしなくても怪我はするだろうなと、最低限考える頭があるなら一目瞭然だと言えよう。


「とはいえ町の方は特に重要な何かがあるわけでもない。あれは、間違いなくカムフラージュだ」

「この先に何かがあるとしてもだ、かつて島の連中もここを登ってたのか? 流石に健脚がすぎると思うんだが」

「ワイバーンがいるだろ」

「あぁ……」


 言われて思い出す。

 そうだよなワイバーン便とかいうのがあったくらいだ。島の住人、それも恐らく上の階級だろう奴らが移動する手段に用いられていないはずがない。


「じゃあこの登頂させるつもりのないコースは」

「間違って迷い込んだ奴向けだろうな。十中八九」


 めちゃくちゃダルいんだが。

 そう思いはすれど、今この島にワイバーンはいないし、いたとしても俺たちが移動手段として用いることができるかも疑わしい。結局の所己の足だけが頼りという事か。


 しかし、なぁ……


 ちらりと上を見上げてみれば、恐らく何かがあるだろう上の方まではまだまだ距離がある。

 道が真っ直ぐならまだしも、ぐねぐねと曲がりくねっているのを道なりに進むだけでも相当時間がかかるのが見てわかる。

 真っ直ぐ行ければもっと時間短縮できそうなんだが、下手な登山より大変そうなんだよな。舗装されてないし木がわさわさしてるとはいえ、種類的にあまり大きく育つやつじゃない。木の幹は細くまた地面を見るとところどころ木の根が土の中におさまりきらない状態なのも見えた。

 下手に力を加えると引っこ抜けるまではいかなくても簡単に傾いたりしてバランス崩しそうだな、と思える。

 土の状態を見ても、しっかり固まってる感じじゃなくて何となく粘土っぽいし、これ足に力入れて移動しようとしたら余計バランス取れなくなりそうなんだよな……


 仮に観光客がこっちに迷い込んだり忍び込もうとしたとして、マトモな道以外は通ろうとすればものの数分で体力なんて使い果たすだろう。


 前世で見たバラエティ番組で、何かやたらぬるぬるした通路を転ばずゴールまで駆け抜けるとかいうのあったけど、舗装されていない場所は大半がそういう感じの地面に近い。そこかしこに木があるから掴まってバランスをとるくらいはできそうだが、木があるからこそ一気に駆け抜ける事もできないし、ゆっくり進むしかない。


 とことん時間がかかりそうだとわかっていながらも、その最も時間がかかるコースが一番マトモっていうのもどうかと思うよ。


 口を開けば文句や愚痴が止め処なく溢れそうになるので、ひたすら無心になって足を動かす事にした。多分それが一番精神的なダメージも少ないだろうし。肉体的疲労はどうしようもないけど。

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