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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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真相に期待はないけれど



 元々、組織に参加したのは行くアテもないしやる事も特にないというのもあったし、あとは人は一人で生きていくのは中々に大変だとわかっていたからだ。

 いくら他者との会話が煩わしかろうと、それでも誰かと関わるのは生きていく上でやむを得ない事。

 前世ならネット通販が使えれば別に買い物とかで困る事はないし、地域のゴミ出しのルールさえ破らなければ特に文句を言われる事もない。家の中に引きこもって一歩も外に出なくたって生活しようと思えばできなくもなかった。金さえあれば、という前提条件があるものの、やろうと思えば誰とも会話する事なく一生を終える事だって可能だっただろう。


 まぁ俺は家族と普通に暮らしてたし幼馴染とも何だかんだ行動してたから、そういった人生を送る流れにならなかったけど。


 けど転生したこちらの世界では。

 ネット通販とかそんな便利なものはない。

 魔法という使い方次第ではとても便利なものもあるけれど、それだって万能じゃない。

 精霊の匙加減で効果や威力が揺らぐそれで、食べ物あたりならどうにかなってもお金に関してはどうにもならない。精霊からすればお金って必要? くらいの価値観でしかないのだ。それを偽装して作ろうとなると中々に難しいというか、まず高確率で失敗する。やらかした奴を過去何度か見かけたが、成功例は少なくとも俺の知る限り存在していない。


 食べ物を魔法で出す事はできるけど、余程イメージがしっかりしていてかつそれを精霊にも理解してもらわないと、味が何となくぼやっとしたものになってしまう。

 飢え死ぬ事は回避できるかもしれないが、マトモな味覚を持ち合わせているなら魔法で出した食事だけで生涯生活できるか、と問われれば大抵の者は首を横に振るだろう。


 いかに凄い魔法を使えたからとて、一人で生きていくのは中々に大変だ。

 だからこそ俺は早々にどこかのコミュニティに入り込もうと考えた。

 結果が組織だ。

 どこか一つの場所に腰を落ち着かせる事も考えたけど、当時、まだ前世の記憶を思い出す前の俺は本当にここでいいのか? ここで永住できるのか? そう、常に自問自答していたように思う。確かにいい場所は沢山あった。

 ここで暮らすならさぞ平和で穏やかな日々を得られるだろうと思えるような場所はそれなりにあった。

 けれども俺はそうしなかった。


 結果として世界各地を移動していても問題のないところ、組織へと行きついた。

 大抵の事は自分でどうにかできたけれど、やはり世界情勢を知るとなると一人だけでは無理がある。自分がもっと口達者で人との関わりを苦に思わないタイプであればどうにかなったかもしれないが、俺はそういうのが得意じゃなかった。

 多少の労働と引き換えに自分だけでは得られない情報を得る。

 それでなくとも異種族を敵とみなす国や他種族はいるし、そういった奴らのホームへ足を運ぶ事になったとしても、事前にそれを知っているのと知らないままなのとでは危険度が大きく違ってくる。


 これは別に組織に身を寄せなかったとして、どこかの町や村で暮らす事になっていたとしても、大なり小なり似たような何かはあっただろう。


 俺の友人でもあるヴァルトは、そういったコミュニティのどこにも身を置かない奴だった。

 人が嫌いというわけでもない。

 ただ、何というかここは違うから、と自分がどこに所属すべきなのか理解していて、だからこそ一人なのだと。

 そこら辺俺にはちょっと理解できなかったが、本人が理解しているようだったのでそれ以上何を言うでもない。


 俺とヴァルトは友人関係であったがその友人という部分を取っ払ってしまえばただの他人だ。

 とやかく言う権利はどこにもない。


 けれど、だからこそそんなヴァルトが行方をくらました時、俺は思っていた以上に心配になった。

 その時は丁度帝国が異種族狩りを活発にやらかし始めた頃だったし、ヴァルトはどこかの組織に身を置いているわけでもない。

 何かあっても彼に関する情報は簡単に入ってこない。

 彼の知り合いが多くいるというのであればまだしも、彼もまた俺と同じくらい知り合いの数は少なかった。


 だからこそ余計に、行方をくらました時は心配したのだ。

 何かがあってもすぐに助けてくれるような奴がいるわけでもなし、更に何かあってもそれを知らせてくれる相手がいるわけでもない。

 知らず、本当に世界の誰からも知られないままこいつは死んでる可能性だってあったわけだ。


 新聞で訃報のお知らせがあるわけでもないし、SNSなんかで身内が誰それが亡くなりました、なんていう連絡をするでもない。この世界は死に場所によっては誰にもその死を知られない事なんてよくある話だ。


 そう。だから、だからとっくに死んでる可能性だってあった。その死体すら見つかる事がないなんてよくある話だ。何だかんだ自分の身を守るくらいはできるだろうヴァルトだが、それでも絶対はない。探しながらも、もしかしたらもうとっくに死んでるんじゃないか、そう思う事だって何度もあった。

 もっと早くに探すのを諦めて、自分の好きなように人生行動する事も考えた事だってある。けど、本当にそれでいいのか? とすぐさま自分の中で疑問が浮かぶ。探すのを諦めて、それで好きなように生きるとして。直後にたまたま立ち寄ったどこかでヴァルトの痕跡があったら。生きている痕跡どころか既に死んでいたなんて話を聞いたら。もっと早くに立ち寄っていればもしかしたらどうにかなったかもしれない、なんて状態だったら。


 そうしたらきっと俺は探す事を諦めた事を後悔して、その先をずっと引きずる事になるんだろうなと考えるまでもなく思えてしまう。そうなると、探す事を諦める事もできなかった。


 別に誰に……この場合は身近な相手がハンスか。ハンスあたりに心配だ心配だと口うるさいくらいに言った事はない。全部自分の中で思っただけの事だ。

 けれども、それなりの年数、俺はこいつを心配してはいたのだ。


 早々に家族を亡くしたからこそ、もしかしたら友人でありつつ俺はヴァルトの事を兄のような存在とみなしていたのかもしれない。


 ……兄、と呼んだ事はない。あくまでも友人で立場としては対等だった。

 …………いやでも正直今とても他人の振りをしたいんだよな。ねぇホントその骨兜何?


 ――という、とてももやもやとした内心を一切表に出す事なく俺は帝国で起きた一連の出来事をアルトに語って聞かせたわけだが。


 いやだってこっちがとても心配してた割に、こいつ数か月前にはこの島に到着して、一人でせっせとこの島の事を調べてたとかいうわけだろ?

 何してんの? ってなるだろ?

 数か月前って事は俺が帝国に関わる以前の……ビニオス大陸へ行くちょっと前くらいの話になると思うんだよな。あちこち移動してどの大陸でもマトモな情報得られないものだから、もしかしたら帝国の異種族狩りに……? とか最悪の展開を想像しつつもあの大陸を訪れたというのに、肝心のこいつはその頃一切そんな事とは無関係で島を発掘していた、と。


 いや、無事で良かったとは思うよ? でもそれとこれとは話が別っていうかね?

 俺の心配返せってなるだろ?

 つか、追手とか言ってたけど何に追われてんの? その追手振り切ってまでする事が廃墟群島の調査って事? 意味が分からなすぎるわ。



「なるほどな、あの帝国が滅びたか……案外早かった、と言うべきだろうか」

「いや何知った風な事言ってんだって突っ込みたいけどまぁそれはともかく。その帝国を牛耳ってたっぽいクロムートに関するらしき情報がここにある、ってとあるエルフの集落の長老が言っててな」

「エルフの? 大抵のエルフって集落に引きこもってるのが多いくせに妙な所で情報通だな……いや、きみもエルフだったか。貶す意図はなかった。すまない」

「ま、エルフの八割は引きこもってるって言われても間違ってないからな」


 実際外をあちこち出歩いてるエルフってあんま見ないから引きこもってる認識は間違ってない。

 だから別に貶されたとはこれっぽっちも思っていなかった。


「ともあれ、事情は把握した。では案内しよう」

「……は?」


 うんうんと頷いて、アルトはこっちだ、と言いながら歩きだしていた。

「案内、ってどこに?」

「隣の島だな。一番重要な情報はそこにある」


 あまりにもあっさりと言われて、しかもアルトが進んでいく先は俺たちが来た方向じゃない。現在地は城があったんだろうなーと思しき場所のクレーター部分だが、そこを更に奥へと進んでいく。

 城があっただろう場所の奥、ここも城があった時は木々に囲まれていただろうし、現に今もわさわさと生い茂っている。その先に行っても、多分その先は断崖絶壁になっていて進めないのではないだろうか。


「この先に洞窟があって、隣の島とはそこで繋がってるんだ」


 しかし俺の疑問を読んだようなタイミングでそう言われてしまえば、行かないという選択肢もない。


「その洞窟の中は安全なのか?」

「あぁ、ちょっと肌寒いくらいだが、言うべき点はそれくらいだ」


「外側から行くとなると大破した船の上を移動する事になりそうですし、それならアルトさん……? 彼の案内に従った方が良さそうですね」

「そう……だな」


 確かにディエリヴァの言う通りではある。

 島の周辺に漂っている船の残骸。場所によってはしっかりした足場になってるけど、全部が全部そうというわけでもない。場合によってはとんでもアスレチックをする羽目になってしまう。

 魔法を使って移動補助してるから、海に落ちる事はないが……それでも時折海から見える黒い背びれとか、大きすぎる魚影とかを見るとヒヤッとする。

 あれ絶対鮫だわ……この辺りで人間という餌にありつけるかはわからないけどいるって事は、間違いなく縄張りとかだわ……

 船の墓場と呼ばれるようになってる今は廃墟群島に行こうなんていう奴はそもそもいないけど、近くを通る別の大陸行きの船がたまに嵐とかで舵きかなくなってこっち側に、なんて不幸な事故もあるだろうし、そういうおこぼれを狙ってる可能性はワンチャンある。


 視覚から確認できるスリルとか求めてないので、そうなると色々と複雑な心境ではあるが安全らしい洞窟を行く事にするのに否定する理由はどこにもなかった。


 というか、俺の話聞いて大体把握した、みたいな反応されたけど、その上で一番重要な情報って……え、長老の言ってた事ってマジだったのか……割と駄目元みたいな感じだっただけにむしろちゃんとした情報があるという事実に驚きを隠せない。

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